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【駄文】ただの述懐、あと供養

 そういえば最近文章を書いていないなと思った。最後に投稿した日付を見たら5月末であった。4か月の筆不精である。プロフィールも確認したら「毎週投稿する」という旨の文章のままであった。これはいけない。
 やる気が削がれた、投稿の途切れた理由は簡潔に言えばそれだけである。私のやる気は酔いのようなもので、酒を飲めば暫く続くが、いつかは醒める。しかし、酒を飲みさえすればまた酔う。この場合、飲酒に相当する行為は創作に触れることである。
 私はこれまでに投稿した自らの文章を読み返した。投稿した直後は反省や粗探しの捗るばかりで、あまり良い印象を持てないのであるが、時間を置いてみると存外面白かった。
 繰り返すが、私の創作意欲は酔いと相違ない。ひどく不安定である。それなのに毎週投稿など片腹痛い。なんと無謀であったことか。
 というわけで、これからは不定期で投稿するつもりである。

 さて、下書きに「泡沫のように」という文章が保存されていたのであるが、困ったことに冒頭の1000字余りしか書けていない上に、どうやら見切り発車で書き始めた文章のようで、案を出す時に使ったルーズリーフ等も見当たらない。私はどういうつもりでこれを書いていたのか、全く不明である。しかし、それはそれとして冒頭だけでも面白い文章だったので、是非とも書き上げたい所存ではあるが、どうにも何も思い出せないし思い付きもしないので以下に冒頭部分だけ載せておく。諸君らが謎を解明してくれると信じて。
 これからも、私の文章を読んで瑣末な感情を抱いてくれれば幸いである。

 以下より、「泡沫のように」の冒頭である。続きは好きに想像してほしい。

泡沫のように

 炭酸水の気泡がゆっくりと水面へ浮かび音もなく弾けるのを見て、私は自分もいつかこうなるのだろうかと感傷に耽った。息苦しく、身を切る冷たさの中を、水のゆらめきと共に輪郭を変える朧な光へ縋り付くように昇っていく。しかし、やっと水面へ出られたと思った途端に弾けて消えるのである。誰にも知られず、気付かれることもなく、ぷつりと消失してしまう。消えゆくための努力。消えゆくための苦心。いつか死ぬ、ということは、あまりにも、虚しい。炭酸水の泡がまた1つ消えた。水を通して湾曲、混濁した世界の中へ彼の姿が煙のくゆるようにふらりと現れ、瞬きの内に霧消した。
 私は彼の名を知らない。1度話したことのあるのみで、今思い浮かべている顔が彼のものであるという確信すらもない。ただ、彼の声や口調、話した内容は詳細に覚えている。消え入りそうに繊細でありながら、確と耳に残る透き通った声であった。また、彼は絵を見せてくれた。駆け昇る水泡を、水中の視点から描いていた。私が今しがた脳裏へ提示した想像は、それによるものであった。彼は言った。これはメタファーであると。私はその意味を未だ理解できぬままでいた。
 彼との出会いは、私が声を掛けたことに端を発する。私は、彼が自殺するのではないかと思い違えたのである。橋の上で、彼は虚ろな視線を川へじっと落としていた。私は彼の肩へ手を掛けた。
「何をするつもりですか」
 彼は大層驚いた様子で私を見てから、
「水の流れを見ているんです」
 そう言ってぎこちなく微笑んだ。
 彼は画家志望の美大生であった。川を覗き込んでいたのも、絵の参考になればと思ってのことだったそうだ。
「私はてっきり、あなたが身投げをするんじゃないかと思ったんです」
 彼は声を立てて笑った。彼の純粋な笑顔を見たのは後にも先にもこれきりである。
「僕には自殺なんてできませんよ。僕は死ぬことが何より怖いんですから」
 死んでしまえば全部なくなるんです、彼はそう続けた。その瞳には虚無が滲んでいた。その後も暫く話したが、死ぬことが怖い、そう言う割には、生きていようとする希望や人生の楽しみよりも寧ろ厭世の強く感じられる雰囲気であった。私は、あなたはどういった絵を描くんです、と尋ねた。こういう人物の描く絵に強く好奇を惹かれたのである。彼はスマホを取り出して、本当は直に見てもらうのがいいんですが、と私に画面を示した。
 彼の絵は、どれも水中の様子を描いたものであった。「理想」「間際」「転落」「悲願」「拘泥」……これらは全て彼の作品のタイトルであった。しかし、私にはどれがどれだか見分けがつかなかった。魚や石や水草など、水中にあって然るべきものが一切描かれていないのである。ただ、彼は光の表現に長けており、藍や紺の一様に塗られているだけには見えず、一目で水中だと知れるのだ。
「次の絵が、今のところ1番上手く描けているかなと思っています」
 「泡沫」、そう題された絵もまた水中の描かれた作品であったが、それは他とは違い、水以外のものが描かれていた。題通り、水面へ浮かんでいく泡である。彼は上手く描けたと言うが、私には他の絵と何が違うのか分からなかった。
「どの辺りが上手く描けたと思うのですか?」
 私は思い切って尋ねてみた。
「この絵は、メタファーなんです」
 この世に存在する全てはこれなんです、彼はそう言いながら絵を指した。
 彼と話したのはそれだけである。彼はあの絵についてそれ以上語ることはせず、結局どこが何のメタファーなのかは分からずじまいで、私は釈然としなかった。泡沫、ということはこの世の全てが儚いということだろうか。結局そんな陳腐な考察をするに留まった。
 それから3ヶ月後、私は彼と偶然再会した。

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