基山瑣末

主に小説、たまにその他の何かしらを書くよ。不定期ではあるけど更新することに関して吝かで…

基山瑣末

主に小説、たまにその他の何かしらを書くよ。不定期ではあるけど更新することに関して吝かでない可能性が高いとまことしやかに囁かれているという話もあるよ。

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    短編でも駄文でもないものを雑多にまとめたよ。

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【短編小説】龍の影に酔う

「起きなって」  目を覚ますと、サエが顔を覗き込んでいた。幸汰は目を擦りながら上体を起こした。 「あと1時間で店開けるんだから急ぎなよ」  サエはそう言って部屋を出た。タッタッ……と階段を下りる足音がよく響いた。サエを見送り、幸汰は枕元へ目を遣った。乱雑に破かれた封筒から便箋が覗いていた。  幸汰は昨日会った兄の香輔を思い出した。唯一連絡先を知っている肉親であった。実家を出てからロクなやり取りもなかった兄からの突然の用件が、その封筒と便箋であった。  喫茶店で兄弟は互いに近況

    • 【詩】繰り言

      何をしているのだろう 何をしていたのだろうと 振り返っては惑うばかりです 紙の上に結果だけがあって その言葉を生んだ私は 先程の私で それを読んで狼狽えているのが 今の私 川辺で石を拾っても 水の流れの一部始終は察せない それと同じ こんなもので何が伝わるというのか 愚昧も極まれば冷笑を買って終い 真ん中の大事な部分を撫で透かして 表層だけを削ぎ重ねた 駄言の継ぎ接ぎミルフィーユ つまらない くだらない 酔えない 心底から 自己陶酔に没頭できず 妄りに耽ることもないので

      • 【詩】それだけ

        残念だなあ お前さんも 引くに引けないってツラをしてる かなぐり捨てることも 抛つことも 全てをほっぽり出して なくなることもできやしない 皆そう言う 目が言ってる ツラが言ってる 誤魔化すように 繕うように 目を逸らすように 覆い隠すように繰り返す その大義は   理由は はてさてそんなに頼れるもんかい この先の全てそいつに委せて縋って なんとかなるほど丈夫なもんかい いつか折れるんじゃないかい 櫂なんて捨てて 帆なんか破って 茫洋と惰弱に 時折荒れ狂う理不尽に呑まれ

        • 【短編小説】水晶の池

          ある少年の死  少年が急斜面の袂へ倒れていた。山中に似つかわしくない軽装であった。僕もまた軽装ではあったが、それは僕がこの付近の村に住んでいるからである。村民は全員が互いに顔を見知っている程に少なく、倒れている少年に見覚えのないのは決して忘れているからではない。   近寄ってみると、頭から流血しているのが見えた。さらに近寄ると、目を見開いたまま倒れているのに気付いた。年の頃は10代前半くらいに思えた。生気のない、ガラス玉のような双眸と目線が合った。とうに死んでいた。   僕は

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        【短編小説】龍の影に酔う

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          【詩】スミメガワによろしく

          いつも通りに翻っている 脆くなったこと たいそう阻むこと そういうことにかかずらって 進取を謳う それを拝みに来たというのに 軟膏をもらっていいいかな とびきり辛いやつ 舌に染みて 全く蟠るやつ 針の穴に 注連縄を通した気がする 放埒至極に存じて挙句 地の利を失った感覚 それだけ残ってる 「コーヒーを飲んで 苦さを噛み締めて 過去に追憶を馳せ 感傷に浸った」 やめとけ その先には何もない ましてや文学など 行かなくちゃ ピザ窯を買うんだ 炎を見たいので 訓戒にも色々あ

          【詩】スミメガワによろしく

          【詩】ムサシグン

          星が帳に貼り付いて ちかちかしている 砂浜へ散らばるガラス片と そうも違うまい ムサシグンへ行こう 手の届くか否かの 大切を晒しに ロールケーキは クリームをケーキへ押し込んだのか ケーキをクリームの周りへ巻いたのか ムサシグンには分かるまい あいつは飽きあぐねている 押し並べて倦んでいる 絵を見た 写真の方が上手いと ナナメを衒った 視界がギュッと遠のいて 洋々とムサシグンで溢れた ムサシグンを訪れて ムサシグンに会って ムサシグンに溺れて ムサシグンを纏ったら な

          【詩】ムサシグン

          【詩】夏の眠り

          ぼうッと 真っ暗な中へ点を打つ 蚊取線香を蝕む灯 のたり   くらり   ふわり 寝つけず   うねる 煙のように あるいは 煙を浴びた蚊の 眩暈に喘ぐように 渦巻の 灰に尽きた分だけ いたずらに 時間をとろとろと ふやかしている 日が昇り 火が消え 陽が射す いよいよ微睡める頃に 這う 撫でる からかう 羽音

          【詩】夏の眠り

          【駄文】浅慮の末の恥晒し

            私の実家には、祖母の部屋にしかエアコンがない。扇風機も1台しかないので、家族の集まる部屋に自ずとそれは置かれている。つまり、私や祖母以外の家族が各々使う部屋には電気を使う冷房機器が一切ない。下敷き等であおぎながら、両手の塞がっている際にはなす術もなく汗だくになりながら、涼しい季節へ思いを馳せる。幼少時代の私はそんな風にして夏を過ごしていた。   数日前、何を思ったか私はそんな実家で部屋の掃除を始めた。先述の通り、室温を下げる方法のない部屋の掃除を、である。案の定数分も経た

          【駄文】浅慮の末の恥晒し

          【短編小説】なげうった友

          1.  慌てて跳ね起き、時間を確認した辺りで、私は昨晩の自らの行動を思い出した。アラームを切っておいたのは他でもない私であった。しかし、自身の愚かさを恨む必要は生じなかった。これまでの生活のお陰で(あるいはせいで)、いつもアラームを設定していた時間の5分前に目覚めたから──ではない。私は今日、ハナから遅刻する気でいたのだ。   逐一時間が目に入っては気が急いてしまうので、私はスマホの電源を切った。マナーモードや機内モードではなく主電源から切るのは久しぶり、どころか初めてかもし

          【短編小説】なげうった友

          【駄文】ただの述懐、あと供養

           そういえば最近文章を書いていないなと思った。最後に投稿した日付を見たら5月末であった。4か月の筆不精である。プロフィールも確認したら「毎週投稿する」という旨の文章のままであった。これはいけない。  やる気が削がれた、投稿の途切れた理由は簡潔に言えばそれだけである。私のやる気は酔いのようなもので、酒を飲めば暫く続くが、いつかは醒める。しかし、酒を飲みさえすればまた酔う。この場合、飲酒に相当する行為は創作に触れることである。  私はこれまでに投稿した自らの文章を読み返した。投稿

          【駄文】ただの述懐、あと供養

          【短編小説】泥濘に落ちる

           目覚めるととうに昼を過ぎていた。そういえば私は弥奈のアラームで共に起きていたのであったと気付いた。  カーテンを開けると、強い日差しが目に染みた。顔をしかめて狭まった視界に、飛び上がっていく鳥が霞んで見えた。  軽やかに羽ばたきながら空を泳ぐ彼等は楽そうに見えた。増えぬ金、売れぬ本、反比例して堆く積み上がる駄文、恋愛、友人への劣等感、自責、自己嫌悪、その他諸々のシガラミ……私を縛り苛む全てをかなぐり捨てて大空へ駆け出していけるなら、どれ程爽快であろうか。  弥奈へ別れ話を切

          【短編小説】泥濘に落ちる

          【短編小説】黒狼の話

           全てへ納得する最善の方法は、今もまだ白昼夢か何かの中であると思い込むことである。  もぬけの殻になった部屋を見ても、私は驚かなかった。予想していたことがとうとう起きたのだ、それだけである。その内李緒は出て行くだろうなと分かっていた。端から噛み合っていないことなど明白であった。出会いからして恋愛とは呼べない代物であった。バーで飲んでいた所へ、恋人と喧嘩した李緒が半ばヤケクソ、酩酊も甚だしい状態で声を掛けてきたのである。そしてそのまま私の借りているアパートの部屋へ住み着いてしま

          【短編小説】黒狼の話

          【短編小説】なんかの華、柑橘の香り

           私は芸術が嫌いである。  机上の林檎を、これは知恵の実で、しかもそれが腐っているということは我々の知性の低下を暗に皮肉っている、とか言う。それに対し、林檎が知恵の実だというのは俗説で、旧約聖書にそんな記述はない、と口を挟む。林檎が林檎であることそのものを超えられはしないというのに。  何かが何かの象徴であるとか隠喩であるとか暗示であるとか、そういったものは全て、空へ浮かぶ雲が何の形に見えるかを議論しているようにしか思えない。そう見れば楽しい、面白い、それがいつしかそう見るの

          【短編小説】なんかの華、柑橘の香り

          【しゅーるなしょうへん】荷物

           宅配員の持つその箱に、私は全く覚えがなかった。懸賞などに応募した記憶も、通販で何かを注文した記録もなかった。ただ、宛名には、確かに私の名があった。  私はまず、その箱の重さに驚いた。宅配員から受け取った時に思わずよろめく程であった。この1辺約30センチの立方体に、ずっしりと、岩か何かの隙間なく詰まっている様子が容易に想像できた。  また、私は差出人を訝しんだ。この箱は「揚鶯斜美ら海」という人物から送られてきたようだ。どう見ても偽名である。一応検索してみたが、案の定1件も引っ

          【しゅーるなしょうへん】荷物

          自分のことを書いてみたよ。 https://note.com/glasses_samatsu/n/n795b11d9e6a2

          自分のことを書いてみたよ。 https://note.com/glasses_samatsu/n/n795b11d9e6a2

          【駄文】自分ヤッツケ

           入院患者の少女は、病床に臥せりながら窓の外を見ていた。それしか娯楽がないのであった。  ある時、少女はアスファルトの隙間から花が咲いているのを見つけた。種類は分からぬが、黄色く可憐な花であった。特に何を見るでもなく窓の外を見ていた少女は、その花を注視するようになった。花冷えの夜、大雨の後、人々が装いを変えながら雑沓を行き交う中、花は裸一貫でそこへ咲いていた。いつしか少女は自らと花を重ねるようになった。  ある日、見舞いに来た少女の母が尋ねた。 「何を見てるの?」  少女は答

          【駄文】自分ヤッツケ