ナレッジマネージメントを促進させる「ビジュアライジング」とは? 〜SECIモデルとの対応〜
組織がもっとクリエイティブになるために。
たくさんの知見を、組織で活かしていく「ナレッジマネージメント」(組織的知識創造)という方法があります。
このナレッジマネージメントにおいて、知を循環させる活動に「ビジュアライジング(視覚化活動)」が貢献できるのではないか?という仮説のもと、その構造としくみについて、2019年11月のデザインシンポジウムで、発表してきましたのでご報告します!
視覚化メソッドが注目される背景にあったのは
組織の創造的活動の活発化
昨今、ビジネスシーンで「絵」をコミュニケーションの中で活用する動きが増えています。グラフィックレコーディングに代表されるように、ビジュアライズは、クリエイティブなプロセスには欠かせないメソッドの一つとして認知され、多様化され、さまざまな文脈で独自の発展を遂げています。
(さまざまなビジュアライジング活動 株式会社グラグリッドより)
それは、VUCAと呼ばれる、予測不可能な社会変化に対して、企業や行政など組織自らが創造活動を行っていかなくては生き残れないという状況があるから。そして、新しい未来を創造していくためには、曖昧な状況を捉え、異なる分野の人たちと交流していくべきだ!と気付き、多くの組織が、組織内でのコミュニケーションのあり方を見つめ直しています。
そして、絵や色などの「ビジュアル言語」でコミュニケーションをとることは、誰もが互いに理解できる状況をつくることができる方法として、活用されています。
アウトプットとしての視覚化を越えた
「ビジュアライジング」
そして、絵をコミュニケーションに用いる活動は、より活発化。
もともとは、議事録のような活動のアウトプットとして「絵」が用いられていましたが、その「絵」をインプットすることで、新しい活動を生み出す動力にできる方法も出現。
さらには、言葉で話すように、対話の中で「絵」が使われ、ストーリーテリングの中で、モデリングの中で、さまざまな場で「絵」が使われ出しました。
まさに、「ビジュアル」を生成する活動、すなわち「ビジュアライズ」そのものを、効果的に活動の中に取り入れる「ビジュアライジング」が創造的活動を加速し、活性化し続けています。
組織的知識創造というフィールド全体でビジュアライズの役割を見てみよう!
では、いったいどのような場でどのような効果が得られるのでしょうか?
これまで、私たちグラグリッドでは、意識的に多用な領域、多用な役割でのビジュアライジングを行い、私達にできる創造的活動とは何なのか?チャレンジを繰り返してきました。また、さまざまな文献調査、世界的な実践者との交流、ケーススタディの分析など、多くの研究活動を行ってきました。
(ケース分析により導きだした9つのビジュアライズの役割)
(世界の専門家と交流し学び合ったカンファレンス)
そこで、見えてきたものは、まさに、様々な効果。
「わかりやすい」、「共通認識をつくれる」といった、一般的な絵の効果だけでなく、ファシリテーション方法やデザインメソッドと組み合わせ、最適なアプローチをすることで、見えていなかった価値が生み出せることが分かってきました。
ビジュアライジングをすることで見えてきた新たな効果
・人が動く
・人がつながる
・プロジェクトを前進させる
・組織の未来をひらく
こうした効果を生み出すもの、そうでないもの、何が違うのか?
改めて、創造的活動全体で、絵を効果的に活用するための知見の体系化を目指すことにしました。
大きく違う4つの文脈が見えてきた
分析対象としたのは、シベットが提唱したビジュアライズ活動に関わる全ての活動の中から、組織的知識創造にインタラクティブに関与できるビジュアリゼーション。「コグニティブビジュアライゼーション」と「ビジュアルファシリテーション」の領域(David Sibbet:Visual Leaders,Wiley,2012)です。実際に行われたビジュアライジングの343件の活動に対して、その内容を読み解きながら、帰納的に類型化。その特性を分析することで、概念モデルの仮説を構築しました。
目的、文脈、効果、ビジュアライズのパターンを分析し、「文脈を共有する」「理解を深める」「意味を捉える」「存在を共有する」という4つのパターンを特定しました。
パターン1:文脈を共有する
文脈:多用な関係者の価値観を知り、個の特性を発見する
描く対象:個々の事象と文脈を共に/解決策の精度よりも背景に光を当てる
描き方と提示のしかた:参加者との対話の中で見える位置で、即時描写即時フィードバックする
主な効果:共通の課題があぶり出される、考えていることを共有できる
パターン2:理解を深める
文脈:特定のテーマに対して具体を共有し、議論し、理解を深める
描く対象:テーマ、具体的な事柄とそれらの関係性、そこから描き手が見えた意味
描き方と提示のしかた:描き手が情報を解釈し、再構成して描き、描き終わったタイミングでその解釈を解説する
主な効果:難しいことをわかりやすく噛み砕く、解釈の多様性から自らの意見を発見する
パターン3:意味を捉える
文脈:組織全体への活動方針の伝達、プロジェクトの意義の伝達
描く対象:活動全体や組織全体の概念モデル
描き方と提示のしかた:描き出す対象の全体像を、概念モデルで捉え、世界観のある物語や生態系などで表し、意味を捉えやすく描く。
組織的に行動の要所となるタイミングや、普段目にできる場に掲示する。
主な効果:大観して意味を捉える。大勢で共通のビジョンをもつ。個々の行動を促進する。
パターン4:存在を共有する
文脈:存在を認め合う、新しい姿を生み出す
描く対象:認めたい存在(個の思想、活動、アイデア)
描き方と提示のしかた:大量の紙や、大判の紙、大きなスクリーンを用いて、視覚いっぱいに存在を認識できるように描く。さらに、内容を動かしたり、改変させたり、動的に提示。リアルタイムに共有する。
主な効果:個々の存在を認識し、共体験できる。体験そのものの価値を高められる。
組織の知識創造と、どう関係する?
SECIモデルと合わせて考えてみた
これらのビジュアライジングのパターンは、どんな関係性になっているのだろうか?組織的知識創造のフレームワークである、SECIモデルに照らし合わせ、考えてみることにした。
(SECIモデル)
SECIモデルとは、野中郁次郎氏と竹内弘高氏らが提示したナレッジ・マネジメントのコアとなるフレームワーク。さらに、野中郁次郎氏と紺野登氏とでブラッシュアップされています。
SECIモデルでは、知識変換モードを「表出化」「連結化」「内面化」「共同化」4つのフェーズに分けて考え、それらをぐるぐるとスパイラルさせて組織として戦略的に知識を創造し、マネジメントすることを狙っています。
それぞれの知識創造プロセスに
ビジュアライズパターンを対応付けられる!
これらの組織の知の循環にあわせてビジュアライズの活動を紐付けてみると・・・。なんとぴったり!
それぞれのプロセスに、ビジュアライズパターンの活動と効果を紐付けることができることがわかってきました。(実際には、内面化や共同化に関するビジュアライズはケースが極端に少ないのですが、この4フェーズで考えることで、それぞれの存在意義を確認することができました。)
●「表出化」で効果的な「文脈を共有する」ビジュアライズ
「表出化」は暗黙知を明確なコンセプト(概念)に表すプロセス。
「文脈を共有する」ビジュアライズでは、対話の場でインタラクティブに行われることが多く、かつ、個の暗黙知を表出させることに特性を持っています。
●「連結化」で効果的な「理解を深める」ビジュアライズ
「連結化」は、形式知同士を組み合わせてひとつの知識体系を作り出すプロセス。
「理解を深める」ビジュアライズでは、描き手の解釈によって、概念化を行い、情報を構造化させていくことに特徴があります。まさに知識体系を作り出すプロセスです。
●「内面化」で効果的な「意味を捉える」ビジュアライズ
「内面化」は、形式知を暗黙知へ体化(身体化)するプロセス。
「意味を捉える」ビジュアライズでは、組織のゴールやプロジェクトの全体像を描きながら、個が活動するための行動指針となる絵を描きます。まさに、実践の場で活きる知的資産です。
●「共同化」で効果的な「存在を共有する」ビジュアライズ
「共同化」は、経験を共有することによって、メンタルモデルや技能などの暗黙知を創造するプロセス。
「存在を共有する」ビジュアライズでは、新しいアイデアや活動が創出される場で、共体験を生み出す役割を担います。
具体的な活動で考える
前置きが長かったのですが、この記事で一番見ていただきたいのがこの図。
結局、どんな風に違い、どう描きわければ良いのか?
例えば、「グラフィックレコーディング」と言われるものでも、この4種類それぞれのやり方が全く異なるということが、図で示せるようになったのです。
仮説をつくることで見えてきた新たな世界
これまでも「目的によってやりかたは違う」ということはわかっていたのですが、それぞれの関係性、目的を効果的に説明することはできませんでした。現場にはたくさんのノウハウがありましたが、共創の場をつくるために、どのような活動をすべきか?どう個や組織と関わるべきか?その知見は、属人化されていたのです。
しかし、今回の研究で、多くの「暗黙知が形式知化」されたと感じています。まさに、「表出化」です。
最適なビジュアライジングへのパスが見えた!
組織における知識変換モードはどのフェーズなのか?
求められている活動の目的は何なのか?
↓
最適な方法の選択
創造の場をデザインするという大きな役割
今回、ビジュアライジングという活動に焦点をあてて、分析をしてきましたが、研究発表を終えて、気づいた大切なことがあります。
それは、ビジュアライジングは、
「創造の場」をつくる役割があるということ。
「視覚化」という言葉を使うと、何かを視えるようにすることがゴールだと思ってしまいます。しかし、何かを描いているという意識ではなく、組織のナレッジ創造のために活動しているという意識で臨んでいくだけで、創出できる価値は飛躍します。
ラクガキから、伝わるドキュメントへ
ドキュメントから、創造の地図へ
創造の地図から、創造の空間へ
ビジュアライジングは、創造的空間のプロデュースとも言える活動なのではないでしょうか。
(三澤)
グラグリッドの「これからを描きつくる」サービス
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?