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海のはじまり 第六話

時空を超えて言葉が人を動かし、動かされる物語。
人工中絶しようとしていた水季が、なぜ産むことにしたのかという謎が解き明かされる第六話は、この物語の転換点、折り返し地点なのかもしれない。

心配する朱音にそっけない態度の水季。
仲が悪いわけではない。日頃からこうしたコミュニケーションの取り方をしていたのだろう。
それぞれの家族には、それぞれの家族のやり方がある。
「あんたみたいなマイペースは、子育てに一番向いてない」
と言われ、すぐさま切り返す。
「お母さんは向いてた? 子育て」
母・朱音からの答えはここではまだ描かれない。

「髪やってー」と朱音にねだる海に、夏がやってあげようかと提案する。
「できるの?」と心配される始末。
海は「編み込みがいい」とリクエストするも、夏にはなんのことだかわからない。
若い男性、小さな子供と接したことがないと、髪の結い方は確かに未知の世界だ。

こうした髪を結う時や、生活の中のあちらこちらで水季の残像が見え隠れする。
食事時に海がティッシュをゴミ箱に投げ入れたり、
図書館のカウンターで司書ごっこをするときに「待ってます」と言ったり、
靴紐が解けると小走りで少し先に行き、急いで靴紐を結んだり、
海は水季の真似をする。

親子だから真似をするのとはちょっと違うかもしれない。
一緒に過ごした時間があったから、仕草を真似しているのだと思う。
確かに、血縁関係だから似るということは事実としてあるだろう。
だが、それ以上に、一緒に過ごした時間が、2人を近づけたのではないだろうか。

本ドラマは従来のドラマにありがちな「家族至上主義」「血縁が絶対」という価値観とは、一歩引いたスタンスをとっているように感じる。
親子だからといって、何でもかんでも似るわけではないし、なんでも分かり合えるわけでもない。
かといって、血縁関係が全く関係しないというわけでもない。
事実として遺伝する部分はあって、生活する中でどうしても視界に入ってしまう行動や仕草がある。
生物として、医学的にも似ている部分は厳然としてあって、それらは全く相互に影響しないわけではない。
法律的にも親子関係というのは、他の個人間の関係性よりも、一段高い位置に置かれ、実際的に一段高いものとして扱われている事実がある。
図書館司書の津野は、どんなに近くに寄り添っていたとしても、死んでしまったら法律でも血縁でも外野だ、と嘆く。

人工中絶の手術をするために訪れた産婦人科に置いてあるノートを読む水季。
たくさんの書き込みの中で、ある書き込みに目が留まる。
「強い罪悪感に襲われています」
ナレーションでは、静かにゆっくりと読む声。
その声は弥生の声。

その書き込みを書いたのも弥生だった。
「ちょっとズルをしてでも、自分で決めてください」
「どちらを選択しても、それはあなたの幸せのためです」
おそらく、人生で一番不安な時だからこそ、この弥生の言葉が水季に響いたのだろう。
「人のせいに、したくない」
母・朱音が書いた水季自身の母子手帳を読んで、産むか堕ろすかを決めるという。
結果として、水季は海を産んだ。
それはつまり、母親の「言葉」が、水季に生む決断をさせた、とも言える。
脚本家の生方美久さんは、こうした「言葉」の持つ「強さ」を信じている人だと思う。
人は言葉によって変わることができるし、言葉によって傷つけられることもある、ということを知っている人。
だからこそセリフの一つ一つに重みがあり、信頼できる。

ラストで、冒頭の水季と朱音の会話に戻る。
「お母さんは向いてた? 子育て」
朱音の答えが描かれる。
「向いてるわけないでしょ。短気でせっかちなんだから」
親子である。
ここは遺伝の強さ。
「すごいね、向いてないこと、こんなに長く続けて」
いつもの調子で水季は軽く返す。
しかし、母の言葉は重いのだ。
「続けるしかないわよ」
「産んだら最後、子供に振り回される人生が始まるんだから」
親としての覚悟の言葉。

「いつ終わんの? お嫁行くまで? 死ぬまで?」
と聞く水季。
第一話、海がどこからがはじまりで、どこが終わりなのかと聞いていた、あのセリフと同じことを水季も母に聞いていた。
朱音の答えは「死んでも終わらない」。
生と死は切り離すことができるものではなく、ずっとつながったままであること。
生きている者と死んでいる者との間には、もちろん明確な物理的な違いはあるものの、その本人を取り巻く環境、人、影響は変わることなく地続きであることを示している。
家族だったり、友人だったり、職場の同僚であったり、ただすれ違っただけの人だったり、会ったことがないまま言葉だけを交わしただけの人だったり。
関係性の濃淡は様々あるが、切り離すどころか、こちらから自由に始めたり勝手に終わったりできないもので、それは嫌でも続いていくものであることをも示唆している。

第7話・予告
https://x.com/umi_no_hajimari/status/1820442812451893396


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