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夕日をなぞる

たかしの動物病院に届いた一通のFAXは、静かな朝の空気を重くした。たかしはその紙片を手に取り、深い悲しみを込めてファイルに納めた。そして、彼はその内容を実世にメモを通じて伝えることにした。
 
飼い主にとっても、たかしにとっても、心を痛める内容のFAXだった。こんなメッセージが二度と届かないことを願うばかりだ。
 
実世が愛情を込めて世話をしていたぷりんちゃんが天に召されたという知らせだったのだ。たかしはその事実を実世に伝えるのをためらったが、最終的には優しく、しかし確かに伝えた。実世にとって、ここにきて初めての別れの瞬間だった。
 
実世は静かに病院を出て、雨が降りしきる中、手のひらに落ちる雨粒を見つめていた。その姿を見たたかしは、何も言わずに傘を差し出した。




楓が指をさす方を見ると、そこには美しい江の島が広がっていた。「見てみて、江の島だよ。キレイだね」と彼女は嬉しそうに言った。たかしは少し申し訳なさそうに、「車を出してもらってごめんね」と言いながらも、このドライブが予想外の気晴らしになっていることに心の中で感謝していた。直人も同じ気持ちだった。そして、実世も一緒に来ていた。彼女はこのグループに新しく加わったばかりだが、たかしは直人と実世が年齢が近いことから、すぐに打ち解けることができると考えていた。そんなわけで、4人は稲村ケ崎へと足を運んでいたのだった。


たかしは直人に「実世ちゃんと仲良くしてね。彼女は本当に素敵な子だから」とアドバイスした。それを聞いた直人は実世のもとへ行き、「えのしま きれい だね」と、掌に文字を書いて伝えた。実世は少し恥ずかしそうだったが、嬉しそうに「うん」と答えた。


夕日が沈んでいく中、楓は実世に「次回は友達を連れてきてはどう?」と提案した。実世は自分のスマートフォンを指差し、「この子のこと?」と質問した。スマートフォンの画面を見た直人は、そこに表示されていた内容に思わず驚いた。





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