ピンクシャンプー

 ベットサイドの明かりに透かしてみたら、思いのほか色が入っていて、うれしくなった。数日前から、ピンクシャンプーを使い始めた。
 去年の夏頃、金髪にした。「人間の髪じゃないみたいになるよ」と美容師に言われたが、本当に人間の髪じゃないみたいになった。もう少し丁寧に喩えるならば、人形の髪みたい、と言ったらいいのだろうか。髪の中身が抜かれて、表面はツルツルで、化学繊維みたいになった。
 もうすぐ春が来る。今のこの季節は、毎年ぼんやりしている。もうすぐ春だから、髪を春の色にしたくなった。手軽に少しだけ色を変えられる、カラーシャンプーという方法を思いついた。シャンプーする前はムラが恐くて、YouTubeで使い方を説明する動画を漁って見たが、実際に使い始めたら、ムラなんて割とどうでもよかった。ただ私は、自分で、自分の髪を物にしたかったのである。とにかく色を入れられたら、とりあえずは満足だった。
 「私の髪は、私の物だ!」。自分の物なんてほとんどないこの世界で、せめて私の髪は、私の物であってほしい。抜かれたり入れられたり忙しいが、私の小さくて大きいわがままに付き合ってほしい。

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