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押しの(強い)子〈日本神話から見る日本の成り立ち②〉
⚠️当記事には過激な表現、不快に感じる表現があります。食事中の閲覧はおすすめしません。ご注意ください。
1.前回のあらすじ
アメノミナカヌシとか色々な神様が現れ、イザナギとイザナミによって多くの国や神々が生まれた高天原と地上。
しかし、カグツチを産んだ際の火傷が原因でイザナミは亡くなってしまい……涙を流したイザナギはカグツチを怒りから殺害した後、黄泉の国に行ってイザナミに会いに行きました。
しかし、イザナミはイザナミで黄泉の国の神様らしくなっており、怯えたイザナギはそのまま逃亡。激しい逃亡劇の末に、現世と黄泉の国の間を大岩で塞いでしまいました。
そうして黄泉の国の穢れを落としたイザナギ、その時にアマテラス、ツクヨミ、スサノオの三人が誕生。それぞれに高天原、夜の世界、海の統治を任せるとイザナギはそのまま隠居してしまうのであった。
より詳しい内容は、以下の記事をご覧ください
2.アマテラスとスサノオ
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スサノオ「やだああああああ!!!!ママに会いたいのおおおおおお!!!!!!」
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イザナギ「だめええええええ!!!!ママは黄泉の国の主神なのおおおおおお!!!!!!会えないのおおおおおお!!!!!!」
黄泉平坂から戻ってきた際に生まれた三人の子供の内、末弟のスサノオは母親であるイザナミに会いたいと大泣き、しかし――スサノオの持つ力は非常に強大であり、ただ泣くだけでも周囲に多大な被害をもたらしてしまうほどの影響力を有しています。
スサノオ「ああああああもういやだあああああああああ!!!!!!」
イザナギ「あああああ!!!!!ウチがメチャクチャなっちゃうううう!!!!!出てけ出てけ出てけ!!!!!!」
そのため、イザナギはスサノオを追放、神の座から追い出してしまいます。
スサノオ(パパから追い出されてしまった……でも、それならそれでママに会いに行けるか。)
そう考えたスサノオでしたが、それはそれとしてやはり礼儀として家族に挨拶をしに行かなければならないとも考えました。
スサノオ(まずお姉ちゃんの所に行こう。隠居したパパの代わりに高天原の主神にもなっているし、挨拶をしないと失礼になっちゃうし。)
そうしてアマテラスの元に訪れることを決めたスサノオ。しかし――
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アマテラス「この気配は……」
高天原を治めているアマテラスは、遠くから天と地を揺らし迫る異様な気配を察知、警戒を強めることとなります。
アマテラス(今まで高天原が何者かの脅威に晒されたことは無い……でも、私の地位を狙うという者であれば、あるいは……)
高天原に迫る気配――その姿が露わになります。十束剣(とつかのつるぎ)を持った筋骨隆々の男神、海の気配を纏う彼の姿を、アマテラスはよく知っていました。
スサノオ「お姉ちゃ~ん!」
アマテラス「スサノオ!?なんで!?」
アマテラスはスサノオの事情など何も知らないため、こうして高天原に現れた彼の姿を見てただ驚くばかりでした。とはいえ、そこは気心知れた姉弟。主神である姉が弟を受け入れる――
アマテラス「高天原は私のものなの!!侵略者は出てけ!!」
スサノオ「えっ、ちょっ、お姉ちゃん!?なんで!?」
ことはせず、あろうことかスサノオが侵略してきたと勘違いし、武装して全力で迎撃してしまいます。家族仲どうなってんの
スサノオ「やめてよお姉ちゃん!ほら!僕何もしてないよ!」
アマテラス「嘘吐き嘘吐き嘘吐き、みーんな嘘吐き。私はもう、スサノオのことを家族だなんて思わないから」
スサノオ「本当だもん!!」
アマテラス「じゃあ証拠出して!証拠!証拠出さないとアマテラススサノオのこと殺すから!」
スサノオ「そんな~!」
アマテラス「無理なら殺す」
スサノオ「証拠は無いから、作るんじゃダメ?僕が高天原を獲るわけないって証拠を作っとけば、この先ずっと僕は高天原を獲ることはできなくなるわけじゃないからさ。」
スサノオが提案したのは誓約(うけい)。
誓約とは、あらかじめ「神意がAにあればA’が起こる、神意がBにあれば、B’が起こる」と宣言を行い、現実にA’とB'のどちらが起こるかによって、神意がいずれにあるかを判断することです〈wikipediaより引用〉。
スサノオはこれをかつてイザナギとイザナミが行った神産みの儀式で行おうと言いました。
スサノオ「お姉ちゃんは僕の持っている十束剣から、僕はお姉ちゃんの持っている八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)から神を創るんだ。」
アマテラス「あっ躁。」
こうして、天忍穂耳命(アメノオシホミミノミコト)を筆頭とした五人の男神と、宗像三姉妹と呼ばれる三人の女神が生み出されることになりました。
この合計八柱の神々が生み出されたことで、アマテラスはというと――
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アマテラス「スサノオはいい子だもんね~♪」
スサノオ「お姉ちゃん分かってくれて僕安心したよ~。」
スサノオの無実を確信、そのままスサノオを高天原に留めました。なお、この時のやり取りでスサノオはなぜアマテラスの元に来たのかを忘れてしまい、以後、思い出すこともありませんでした。IQ1?
しかし、この時にスサノオが調子に乗ってしまうことになってしまいます。
3.天の岩戸
スサノオ「僕は偉い!!!!僕は偉い!!!!」
調子に乗ったスサノオは、横暴の限りを尽くしました。
まず手始めに田という田を破壊し、高天原の御殿にウ〇チをしては撒き散らすなど、正気の沙汰ではない行動をしてしまいます。バゼルギウス?
アマテラス「まあまあ、スサノオは根はいい子だから。」
そう言ってアマテラスはスサノオを庇いました。これに増長したスサノオは更に暴走。今度は皮を剥いで殺害した馬の体を機織り小屋に投げ入れるという暴挙を働きました。この時に神々の服を織っていた巫女が驚いた拍子に亡くなってしまい――
アマテラス「ああああああああ!!!!!
もおおおおおおおお!!!!!
いやあああああああああ!!!!!
何なのアンタ!!!!!
私が散々庇ってきたのになんでそんなに自分勝手なことばっかりするの!!!!!
もう無理!!!!アマテラス知らない!!!!」
かくして、スサノオの暴力に辟易したアマテラスは天の岩戸に隠れてしまいます。
スサノオ「そんな!お姉ちゃん!そしたら誰が僕を守るって言うんだよ!」
アマテラス「追放追放追放追放追放追放追放追放追放追放追放追放追放追放追放追放追放追放死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑追放追放追放追放追放追放追放追放追放追放追放追放追放追放追放追放追放追放」
アマテラスが天の岩戸に隠れた後、スサノオは高天原にいる八百万の神々が協議した結果、追放されてしまいます。しかし、太陽神であるアマテラスが隠れてしまったことで太陽が失われてしまい、高天原と地上が闇に覆われ、様々な災いがもたらされるようになってしまいます。
オモイカネ「出たな……アマテラス様のイヤイヤ期。一度イヤイヤ期に入ると兎角手間がかかる故、面倒この上ない。」
どのようにすればアマテラスを天の岩戸から出すか――オモイカネを筆頭とした八百万の神々は話し合うことにしました。
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オモイカネ「……うむ。では岩戸の前でどんちゃん騒ぎをするとしようか。こと宴、舞踊に関してはアメノウズメ殿、貴女が特に秀でている。任せてもよろしいか?」
アメノウズメ「あ~ら、とんだ大役ね♡でも嫌いじゃないわ♡」
オモイカネ「仲間外れはどんな者でも嫌なもの、それはアマテラス殿とて例外ではない。我々が外で騒いでおれば気になって出てくるだろう。その瞬間を狙う、タヂカラオ、頼めるか。」
タヂカラオ「っす!!承ったっす!!」
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こうして天の岩戸の前で宴が開かれることになります。日本最古のストリップとも表現されるアメノウズメの妖艶で力強い舞踊は、演技抜きで多くの神々に感動と笑いを提供し、中には共に踊り出す神々がいたほどでした。
アメノウズメ「さあ!存分に踊り歌いなさい!あたしは舞踊の神!あなたたちの中に眠る情熱を存分に引き出してあげるわ〜!♡」
天の岩戸の前でどんちゃん騒ぎをする神々。当然ながらその声は岩戸越しにアマテラスの元まで響いており――
アマテラス(あー無理無理仲間外れつらい鬱鬱鬱。なんで私抜きで盛り上がってんの?)
外の様子が気になったアマテラスが、岩戸を僅かに開けて確かめます。
オモイカネ「岩戸が僅かに開いた……!タヂカラオ!」
タヂカラオ「うっす!今っすね!!」
その僅かな隙間を、岩戸のすぐそばに隠れていたタヂカラオが目いっぱい引っ張ります。
アマテラス「ひゃあ!!」
アメノウズメ「あらアマテラス様!どうかしらん♡一緒に踊りませんこと?」
アマテラス「え、でも私なんか入っても……」
アメノウズメ「な~に言ってんの♡
貴女みたいに綺羅綺羅輝いている人にそんな台詞は似合わないわよ♡」
そう言ってアメノウズメは、アマテラスを鏡で映します。天の岩戸からアマテラスが出てきたことで高天原と地上には太陽が戻り、闇が払われることになりました。
「神と笑ひゑらぐ」「巧みに俳優をなす」と文献に記された踊りを見せたアメノウズメ。彼女は日本芸能の祖として現在まで語り継がれることになります。
神社で巫女が神々に奉納するために行う――いわゆる神楽舞いと呼ばれるものは、天の岩戸で見せたアメノウズメの舞いがルーツとなっていると言い伝えられており、神楽という言葉には「神々の心を和ませ、楽しませる」という意味、そして「神の真似事」という意味が込められているとされています。
それ故に神楽舞いの意義、及び日本芸能の本質が神格化された存在、それがアメノウズメだと言われています。
4.スサノオと八俣遠呂智
一方その頃、高天原を追放されたスサノオはというと、地上の葦原中つ国は出雲に訪れていました。
スサノオ「は~本当おもんないわ、お姉ちゃんのせいで高天原でのウハウハ生活が全部パーになったし。」
そんな彼がたまたま通りがかった家から、すすり泣く声が聞こえてきました。気になって訪れてみると、そこには涙を流す老夫婦と一人の美しい女性がいました。
スサノオ「なんだ?なんでお前たちは泣いているの?」
老婆「うう……今年もまたオロチが姿を現すからにございます……。」
老爺「娘を生贄に捧げなければ、オロチは地上にいる全ての人間を食い尽くすと言っていたのですが……」
女性「私たち八人姉妹の内、残ったのは私一人だけ……父と母のためならば命を投げ捨てる覚悟はできていますが……」
老婆「もう嫌じゃ!なぜ血を分けた娘を怪物に捧げなければならんのじゃ!全て私が腹を痛めて産んだ子じゃ!!世のため人のためと言うが!!その苦痛が――」
スサノオ「うるさい!!!うるさいうるさい!!!その叫び声!!!めんどくさい時のお姉ちゃんそっくりだからやめろ!!!」
このことを聞いたスサノオは嘆きました。怪物程度に人間が怯えていることと、神々と人間の間に大きな力の差があることを。
スサノオ「……お前、名前は?」
女性「私……クシナダと申します。」
スサノオ「よしクシナダ。僕がそのオロチとかいうのを退治してやる。だから僕がオロチを倒したら、嫁になれ!」
老婆「おお……なんと……!」
スサノオ「僕は神だ!神の嫁になるということは人から神になるも同然!これほど都合のいい話も無いだろう!」
老爺「しかし、良いのですか?オロチは八つの頭に八つの尾、山の如く巨大な体躯を有した蛇、ヤツは……」
スサノオ「大丈夫!僕最強だから!簡単じゃないけど、できないことじゃない!」
八俣遠呂智(ヤマタノオロチ)なる怪物の存在、八つの頭に八つの尾、そして山のような体躯を誇る蛇――
スサノオ(真っ向勝負をするのもいいけど、できることなら完全勝利がいいな……でないと結婚の約束も全部パーになる。約束がパーになるのはもうこりごりだし。)
そこで考えた作戦が、オロチをおびき寄せ、あらかじめ作っておいた八つの門にそれぞれの頭を通し、その先に置いてある酒を目一杯飲ませて酔わせるという作戦でした。
スサノオ「……という作戦だ!」
老婆「酒造りならお任せくだされ!」
そういって老夫婦は、酒の醸造を始めました。酒ーーこと日本酒の醸造には水や穀物を用いるのですが、オロチを討つために作る酒の醸造には、水の代わりに酒を用いるという特別な酒を造っていましたアルコールをアルコールで割る……的な感じ?
そうして合計七回にも及ぶ醸造の末に作られたのが、『八塩折(ヤシオリ)』という酒でした。
スサノオ(よし、あとは……)
八つの門、八つの酒を用意したスサノオは神通力でクシナダを歯の多い櫛へと変えます。その櫛で髪をまとめ、オロチが現れる瞬間まで待ちました。
スサノオ(来たか……オロチ!)
見上げるほどに巨大な体躯、鋭い眼差し、八つの頭、十六の眼が一斉にクシナダに扮したスサノオに向けられます。
オロチ1「この日が来るのを、今か今かと首を長くして待っておったぞ。」
オロチ2「この日が来るのを、今か今かと首を長くして待っておったぞ。」
オロチ3「この日が来るのを、今か今かと首を長くして待っておったぞ。」
オロチ4「この日が来るのを、今か今かと首を長くして待っておったぞ。」
オロチ5「この日が来るのを、今か今かと首を長くして待っておったぞ。」
オロチ6「この日が来るのを、今か今かと首を長くして待っておったぞ。」
オロチ7「この日が来るのを、今か今かと首を長くして待っておったぞ。」
オロチ8「この日が来るのを、今か今かと首を長くして待っておったぞ。」
スサノオ「待ってたぜ、オロチ。」
クシナダの気配はなく、そこにいたのはスサノオ一人。
スサノオ「残念だけどクシナダはいないよ!悔しかったら追いかけてみろってんだ!」
そうしてオロチの首を一本ずつ、それぞれの門に誘い込み――
オロチ1「なんだ、この酒は……ぺろっ、何と美味な!」
オロチ2「なんだ、この酒は……ぺろっ、何と美味な!」
オロチ3「なんだ、この酒は……ぺろっ、何と美味な!」
オロチ4「なんだ、この酒は……ぺろっ、何と美味な!」
オロチ5「なんだ、この酒は……ぺろっ、何と美味な!」
オロチ6「なんだ、この酒は……ぺろっ、何と美味な!」
オロチ7「なんだ、この酒は……ぺろっ、何と美味な!」
オロチ8「なんだ、この酒は……ぺろっ、何と美味な!」
八塩折を一口飲んだオロチはたちまちその味と、肝臓どころか五臓六腑を悉く破壊しかねない高すぎるアルコールの虜となり、ものの見事に酔い潰れてしまいます。
スサノオ「オロチ!覚悟!」
酔い潰れたオロチの太い首を、スサノオは十束剣で次々と切り落としていきます。しかし、蛇の生命力とは凄まじいもの、八つの頭を落としたところで、体だけはまだ動き続けます。
スサノオ(頭を落とされた蛇の恐ろしさは理解している……だから、尾も切り落としておかないと!!)
続けて、八つの尾も切り落としていくスサノオ。切り落とした尾の中から出てきた一本の剣が草薙剣と呼ばれるものです。後にこれはアマテラスの元に献上され、三種の神器に数えられることとなります。
クシナダ「なんと……あのオロチが一瞬にして!?」
スサノオ「言っただろ!僕は最強だって!!」
そうしてクシナダを元の姿に戻し、スサノオは出雲の根之堅洲国(現在の島根県安来市)、須賀の地へと移り、夫婦としての暮らしたとされています。
『八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を』
須賀の地に降り立ったスサノオは、この歌を詠んだとされています。なお、八雲という言葉が印象的なこの歌は日本で一番の和歌とされています。
その後――スサノオとクシナダの間に、オオクニヌシと呼ばれる神が産まれることになります。
このオオクニヌシは、出雲の国から葦原中つ国の国造りを行うことになりますが……この国を巡って、神々とのちょっとしたトラブルが起こるのですが、そこはまた次回話すことにします。
〈続く〉
5.余談
スサノオ、クシナダとのエピソードで有名なヤマタノオロチですが、その特徴的な外見から、日本のサブカルチャーにおいても非常にメジャーな存在として描かれています。
日本で一番有名なRPG、ドラゴンクエストにおいてもボスとしてヤマタノオロチは登場しており、日本をモチーフとしたジパングにて、女王・ヒミコとジパングに住まう民を困らせる存在となっており、強敵として主人公の前に立ちふさがります。なお、史実と違い頭は五つであり、蛇というよりもドラゴン然とした見た目となっていたり、登場人物に差異があったりと、多少のアレンジが加えられています。
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また、日本で一番有名な漫画のドラえもんにおいても登場、その圧倒的な力でドラえもんのひみつ道具もはじき返してしまいますが――物語の結末は、非常に意外なものとっていました。
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また、蛇の怪物という型に捉われず、時には人型として登場することもあります。
無双OROCHIシリーズの遠呂智がその例であり、太古の昔、大罪を犯した結果永遠の命を与えられて幽閉されていた所を、妖魔である妲己に救い出され、自らを終わらせる強者を求めて三国志の世界と戦国時代の日本を融合させるという、圧倒的な力を持つ魔王として登場しています。
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八つの頭を持つ巨大な蛇ーーというキャッチーな特徴と、神話における強敵な部分が大いに受けたのでしょう。ヤマタノオロチ、及びオロチをモチーフとしたキャラクターは現在まで幅広く存在しています。
もしかしたら、今後もヤマタノオロチをモチーフとしたキャラクターが魅力ある敵役として、日本のサブカルチャーに現れ続けるのかもしれませんね。
ここまでご高覧いただきありがとうございました。