14歳にとってはハードな大人の後悔|『ワイルドライフ』
何か1つの出来事から、人間関係が大きく変わってしまうことがある。
そして後悔する。
「あの時、あんなことを言わなければ」
「あの時、どうしてああいった行動を取ってしまったのだろう」
ただ、その後悔は遅いのだと思う。
後悔することになってしまったことが遅いのではなく、後悔するような状態になってしまった時点で、1つのきっかけで関係性が壊れてしまう時点で遅いのだと思う。
『ワイルドライフ』も、モンタナ州の田舎町に住む3人家族(両親と14歳の息子)の父ジェリーが止められながらも強引に山火事を食い止める出稼ぎ仕事に行くことから、家族が崩れていく話だ。
母ジャネットはジェリーが出稼ぎで不在になってから、不安と孤独で荒れる。近所の独身金持ち(60代)と親しくなり、息子と行ったディナーの場では、酔っ払って息子ジョーの目の前でキスをする(そりゃあかんでしょ。。)迷走をし続けるジャネット、そこにジェリーが出稼ぎ仕事から帰ってきてーーー
そんな家族の崩壊の様子が、14歳の息子の視点で描かれている。14歳にはハード過ぎる彼の世界。不憫すぎるぞジョー。
※そして、少し何を考えているのかわからない父を演じるジェイク・ギレンホール、顔に影が差す母親を演じるキャリー・マリガンの演技も良い
家族の崩壊を描いている本作だが、全て「ジェリーが山火事消火の出稼ぎに行った」ことが悪いのだろうか。その出来事がなければ、家族は崩壊しなかったのだろうか。
違うだろうと思う。何のきかっけであれ、どこかで同じようなことになっていただろう。
ジャネットに関して、以下のような発言や行動、事実がある。
・ジェリーが去ってすぐの「最近(夜の営みが)ご無沙汰だったから」という発言
・34歳の専業主婦(=20歳でジョーを産んでいる)であること
・ラストでのジャネットの状態(望んでいた仕事に就いている)
予測するに、彼女は「ジェリーとの夫婦関係に」「自己実現的な観点での自身の状態に」不満を感じていたのだろう。
それが1つの出来事で表出したにすぎない。
不満が溜まっている側は、無意識のうちに爆発するための1つの出来事を探していたりもする。
つまりは、1つの行動(ジェリーの出稼ぎ)が問題だったのではない。
「1つの行動によって大きく関係性が変わるような負のエネルギーが溜まっていたこと」が問題なのだと思う。
「あの時、あんなことを言わなければ」
「あの時、どうしてああいった行動を取ってしまったのだろう」
と後悔している時点で、その後悔は間違っている。
「あの時までに、なぜ気づけなかったのだろう。気づこうとしなかったのだろう。気づいていたのに知らんぷりしたのだろう。考えようとしなかったのだろう。」
が正しい後悔の内容だろう。
その後悔の先に何があるのか。それは、当事者同士で、根本的な問題点を解決するしかない。
本作は、地の底まで家族が堕落するのではなく、救いのあるエンディング(家族の再構築)で終わっている作品なので後味は良かった。
ちなみに同様の夫婦の悲しい別れの作品としては『ブルーバレンタイン』という作品があり、こちらもまたおすすめの作品である。