お父さんからの子育て相談が増えてきた。その内容とは?
元テレビ局のアナウンサーで、NHKの「すくすく子育て」の司会も務めた天野ひかりによる連載です。 今まで5万人以上から相談を受けてきた親子コミュニケーションのプロが、実際によく相談される悩みをどうやったら解決できるか、自己肯定感を育てる会話のコツをお話します。
在宅ワークが増えたことで、今まで以上に子育てに向き合うお父さんが増えたようです。
新型コロナの前、お父さんからのご相談で多かったのは、
「帰宅すると、妻が子どもを叱っていて、どうしてあんなに子どもにイライラしているのでしょうか」
という悩みでしたが、今は
「妻とどのように子育てに向き合ったらいいのでしょうか」
という少し前向きなご相談に変わってきています。
家にいる時間が増えて、夫婦で少しずつ子育ての大変さが共有できている気がします。
多くのお父さんから、
「妻とのコミュニケーションで、自分が気をつけるべきことを教えてください」
というご相談をいただくので、今回は夫の立場で考えてみましょう。
■妻を変えるのではなく、自分を変える
マンガの中で、お父さんとしては精一杯の言葉をかけたつもりだと思います。
2人で子どもを追い詰めてはいけないし、少し冗談を入れて場を和ませようという思いもあったのでしょう。
でも、妻をよりイライラさせてしまいましたね。
実は、妻は、子どもにイライラしているのではなく、何もしない夫にイライラしています。
夫がいない間は、母子で案外仲良くしている場合がほとんどなので、お子さんを過度に心配する必要はないと思います。
それよりも、夫は妻への言動を見直したほうが、解決には早道です。
■妻は、子どもではなく夫にイライラしている
マンガのようなシチュエーションのとき、妻が夫に言われて嬉しい言葉は、
「代わりに家事(具体的に、洗い物・夕食の準備・買い物など)をしておくね」です。
妻は、子どもがドリルしないことにイライラしているのではなく、
子どもにドリルさせることも、料理することも、洗濯することも、妻がやって当然という夫の態度にイライラしているのです。
ですから、この他にもこんな言動は逆効果です。
夫:妻の、子への怒りの嵐が通り過ぎるまで、気配を消してスマホを続ける
↓
「あなたは自分の時間があっていいわよね!」と妻の不満は募ります。
夫:イライラを見なくて済むように、帰宅時間を遅らせる
↓
これを続けると、夫は自分の居場所がなくなってしまう可能性がありますね。
夫:「夕食遅くなってもいいから、少し休んだら?」と提案する
↓
結局家事の先送りとなるだけで、根本解決にはならないですね。
夫:「無駄な家事は、手を抜けばいいんじゃない?」と提案する
↓
「私の家事に価値がないと思ってるの?」とさらにイライラさせる可能性も。
いかがですか? 思い当たる節ありませんか?
妻のやっていることにあれこれ意見を言うよりも、妻の大変さを理解して一緒に子育ても家事も取り組むことで、妻は笑顔になるはずです。
さらにOKマンガのように、妻が夕食にカレーを予定していたことを確認するのが大切。出前をとったり、お惣菜を買ってきてもいいのですが、妻にも献立の計画や予定があるので、一緒に会話をして進められると尚いいですね。
実際、夫が家事をしてくれるのはいいのだけど、食材を重複して買ってきてしまう、昨日の残り物を活用してほしかった……など、結局二度手間になることも多いようです。ですからコミュニケーションをして確認しながら進めるのがポイントです。
一方、妻も、夫が後片付けや洗濯物をしたときに、ダメ出しをして夫のやる気を削がないよう気をつけましょう。
■お手伝い感覚を卒業する
夫も「夕食なんて作れないよ」と言い訳せずに、これまで妻に多くを任せていたのですから、ねぎらいと尊敬の念を込めて、教えてもらいながらできるといいですね。まずは、やろうとする姿勢が大事です。
そして夫婦の向き合い方を「手伝う」という感覚から「一緒に家族を作る」という意識に変えることが大切です。なぜなら「手伝う」は、妻がメインで子育てと家事をすることが前提になっているからです。
妻自身も、自分が家事と子育てをしなければ!と思い込んでいることが多いのも事実。頑張りすぎてしまい、知らず知らず、夫が一緒に家事と子育てをしてくれなかった悲しみと怒りが蓄積されてしまうとしたら、恐ろしいことだと思いませんか?
負の感情が蓄積される前に、夫婦の関係を見直しましょう。
そして何より、夫婦が対等に向き合ってコミュニケーションをとり、一緒に家事も子育てもしている姿を子どもに見せることが、未来を生きる子どもにとって何よりも大切だと思います。
子どもは、お父さんお母さんがお互いを認め合う会話を聞いて育つことで、自己肯定感も育つことを忘れずにいましょう。
今回は、ご相談者の状況にそって書きましたが、私の周りには、立場やシチュエーションが逆の夫婦も多くいらっしゃいます。ご自身の立場に置き換えてみてくださいね。
<今日のコミュポイント>
「手伝うのではなく、夫婦で一緒に家族を作ろう!」
マンガ:とげとげ。
■プロフィール■
天野ひかり
上智大卒。テレビ局アナウンサーを経てフリーに。NHK「すくすく子育て」キャスターの経験を生かし、親子コミュニケーションアドバイザーとして 講演や企業セミナー講師を務める。子どもの自己肯定感を育てるため自身で立ち上げた「NPO法人親子コミュニケーションラボ」代表理事、一般社団 法人グローバルキッズアカデミー主席研究員。主な著書に『子どもが聴いてくれて話してくれる会話のコツ』(サンクチュアリ出版)や『賢い子を育てる 夫婦の会話』(あさ出版)などがある。