夫に似ているあの人は人見知りの救世主たりえたか
何度か書いているが、私は重度の人見知りである。
初めての人はもちろん、同じ職場の人に対しても、会話はぎこちない。
幸いにして今の部署の同僚は明るくお話し好きな人が多く、こちらが黙っていてもばんばんしゃべってくれるので非常に助かっている。
先日、先輩男性社員の青山さんと職場で二人きりになったことがあった。
青山さんは明るくておもしろくて、お客様にちゃん付けで呼ばれて親しまれるような気さくな人なのだが、無口な私と二人きりになって気を遣ってくれたのだろう、
「ねえ、え さんの旦那さんって誰に似てるの?」
と唐突に話しかけてきた。
青山さんが本当に夫に似ている人を知りたがっている訳ではないことくらい、私にもわかっている。
あくまでも気を遣ってくれているのだ。
私は若い頃、仕事中客に「サザエさんに似ている」と言われた経験があり、それが唯一の似ている人なのだが、夫も同様、実在の有名人に似ている人がいなかった。強いて言えば、鳥山明先生の描く悟空に似ている、と私は思っている。
そういえば昔、姉に、
「あんたたち似てるね」
と言われたことがあったのだが、どちらもアニメキャラ似、ということでバランスはいいのかもしれない。
しかし、アニメキャラに似ているというのはどうも曖昧で、私は考え込んでしまった。
ああ、こんなときに、
「旦那ですか?大沢たかおですね。」
などと言えたらどんなによかっただろう。
「旦那さん、大沢たかおに似てるの!? すごいかっこいいね!」
「え~そんなことないですよ~、あははは~」
「いやいや、めちゃくちゃかっこいいよ!会ってみたいな!」
「ハハハー!」
「ハハハ―!」
「あはははは~!!」
会話はこれ以上ないくらい盛り上がり、職場の雰囲気も申し分なかったはずだ。しかし夫に似ているのは、大沢たかおではなく悟空。
「旦那ですか?悟空ですね。」
だめだ。スベる。ぜったいスベる。
青山さんは私の答えを待っている。
まずい、このままでは気まずい沈黙に支配されてしまう‥‥‥。
その時、私は思い出した。
夫に似ている、それもかなり似ている唯一の芸能人がいたことを!
「旦那ですか?そうですね‥‥‥」
「だれだれ?」
「あの人‥‥‥」
「だれだれ?」
「猿岩石の‥‥‥」
「えっ!? 有吉‥‥‥」
「じゃないほう」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
青山さんは考え込んでしまった。
「えーっと、どんな顔だったっけ‥‥‥」
「あー‥‥やっぱりわからないですよね‥‥‥」
「うーん、ごめん、有吉ならわかるんだけどね‥‥‥」
「いえいえ、すみません」
「いやいや、ごめんね」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
二人の間に気まずい沈黙が流れはじめた。
何か話さなくては‥‥‥。
「あのー、青山さんは誰かに似てるって言われたことあるんですか?」
「オレ?アンガールズとか言われるかなー」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
似てる、似てるよ、青山さん!
背が高くて、痩せてて、独特の動き!
まさにアンガールズ!
でも、
「あはははは~!!アンガールズ、そっくりですね!!」
って言えるほど私たちの距離は近くないのよ、青山さん!!
その後、二人の間には気まずい沈黙が流れ続けた。