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深夜アパートの一室で【徹夜麻雀大会】
大学生の頃、小さな劇団で衣装をやっていたことは前に書いた。
(「青春、味わってみませんか?」)
劇団員たちは皆年が近く、劇団以外の所でも集まって遊んだりして仲が良かった。ちょっと変な人が多かったので、私には居心地が良かったのだ。
ある日、有志がアパートに集まり、徹夜麻雀大会が開催された。
わかる役が、立直・一発・三暗刻くらいで、点数計算もろくにできない私が言うのも申し訳ないが、麻雀というのは本当におもしろい。
瞬時の決断を迫られたり、運に泣かされたり。もちろん実力も必要だろう。何といえばいいのだろう、一筋縄ではいかない人生を感じるゲームである。
自分では麻雀を説明できる自信が全くないので、こちらを貼らせていただく。
ものすごく簡単に言えば、4人で雀卓を囲み、自分が引いた牌や人が捨てた牌で、あがりの形を作るゲームという感じだろうか。
さて、男女8名の有志がアパートの一室に集まったのは夜の11時。
弁当と酒を買い込み、夜食の用意もばっちりだ。
BGMは部屋主のA君が崇拝するソフトバレエ。
ダンサブルなナンバーが流れ、若者たちは麻雀に興じ始める。
麻雀に詳しくない女子が男子に教わるような形でチームになり、ゲームは進行する。
深夜のアパートであるからして、牌をかき混ぜるのも細心の注意が必要だ。そうっと、なるべく音をたてないよう混ぜた後、牌を並べて積んでいく。時々一列になった牌を持ち上げた瞬間、力が入りすぎてぐわしゃっ!!とぶちまけてしまう者がいるのはご愛敬だ。
日付が変わる深夜12時。
ソフトバレエ2枚目のCDが流れ始める。
徐々に調子がいい者、劣勢な者がはっきりしてくるが、酔いもまわり、皆ハイテンションでゲームに夢中になっている。
麻雀というのは性格が出る。
私などは安くてもいいからとにかくあがりたい気持ちが強く、人の捨てた牌をポン・チー・カンと鳴き晒し、自分の牌が人にほぼ丸見えなどという素人丸出しなことになりがち。
B君などは劣勢だが、ひたすら辛抱強く大物を狙っている。
深夜2時。
ソフトバレエはすでに4枚目。なんだかお経のような曲が流れ始め、深夜特有のまったりとした空気が部屋を支配する。すでに部屋の隅で熟睡している者もいる。言葉を発する者は誰もいない。皆黙りこくって麻雀を続けている。
深夜3時。
相変わらずソフトバレエのお経ソングが流れている。
一人、また一人と雪山で倒れるかのように眠りにつくメンバーたち。
「お経がだめなんだよ!もうちょっとテンション上がる曲にしてよ!」
とのリクエストが出るも、
「ソフトバレエ、あんまりそういうのないんだよなー」
と困り果てるA君。そこまでソフトバレエ縛りにする理由は何なのだ?
再びダンサブルナンバーになるが、眠気は襲い掛かってくる。目薬を差しながらの死闘が続く。
早朝4時。
窓の外が徐々に明けてくる。
そろそろ勝敗が決まるかと思われたその瞬間、親だったB君の歓喜の声が響く。
「ツモ!!おりゃあ~~~~!!」
バーンと倒したB君の牌を見れば、それはなんと‥‥‥‥
麻雀界のロイヤルストレートフラッシュ、国士無双!
なんとB君、国士無双を決めて鮮やかすぎる大逆転勝利!!
騒ぎを感じて、倒れていた者たちがむっくりと起きだす‥‥‥‥。
アパートにはソフトバレエのアルバム「愛と平和」が流れていた。
その後、私はゲームセンターの美少女麻雀にハマり、ゲーセンに入り浸るようになった。
ゲームに勝つと、美少女が思わせぶりな言葉をささやきながら誘惑してくる。それを見ながら心の中で、
(シャー!!)
と叫んでいたあの頃の自分は、本当にどうかしていたと思う。