【ロサ会館でテトリス】テトリス・レベル99への道
池袋、日曜の昼下がり。
『ロマンス通り』のゲートをくぐると、あのアナウンスが聞こえてくる。
「客引きの諸君、客引きは違法である。直ちにやめなさい!」
「ご通行中の皆さん、客引きの言うことは全部嘘です。損をするのはあなたです!」
至る所に取り付けられた監視カメラが常にこの街を見張っている。
ゲートの下で警察官に向かって怒鳴り散らしている男。
その向こうでは地面に散らばった何かを這いつくばって集めている老人。その姿を警察官が黙って見下ろしている。
奥に進むと何やらひとりブツブツ言っているメガネとキャップの若い男。すれ違っても誰も振り返ろうとはしない。
池袋・ロマンス通りは今日もカオス。
やがて、見慣れたピンクの亀甲模様の外壁が目に入って来る。
数か月前にロサ会館のゲームセンターに行くと、テトリスが2台に増えていた。
あとわずかな時間でロサ会館が終焉を迎えるかもしれないこの時期に、なぜテトリスが増えているのだ?
それはあれだ、4月に私が書いた記事「ロサ会館でテトリス」をロサ会館関係者が読んでくれたのではあるまいか?
いや、きっとそうに違いない。
サンキューロサ会館。
フォーエバーロサ会館。
そんなこんなで、私のテトリス好きは加速している。
この数か月、頻繁にロサ会館に通っていた私はテトリスの腕前が急速に上達した。
前にも書いたが、私はゲーセンでやるアーケード版テトリスが大好きである。レバーとボタンで操作するあの感触、あのBGM、テトリミノ(あの落ちてくるブロックをそう呼ぶのだそうだ)の絶妙な重量感。テトリミノが接地したときのガン!ガン!という鉄骨っぽい感じが、何とも言えず快感だ。
一時は電子マネーに手を出してしまい、パスモでピピッ!とやっていた時期もあったが、やはりあれはいただけない。気持ちが入らないのだ。100円玉をじゃりんっと投入し、気合を入れて臨むのがアーケード版テトリスの醍醐味。それに気付いた今はノー電子マネーである。
アーケード版テトリスは、スタート後、徐々にテトリミノの落下速度が速まっていき、レベル9でピークになった後レベル10になるといったんゆっくりになる。その後また少しずつ速くなっていき、レベル15で急に超高速になる。
このレベル15の落下速度のいきなり感がエグい。
遊びは終わりだよ!
(ガン! ガン! ガン! ガン!)
猛スピードで落ちてくるテトリミノを動かし、回転させ、なんとか隙間を埋めていく。レベル15以降はもう速度がゆるむことは二度とない。
ここからは自分との戦いだ。
しのいでいるうちに、やがて自分の中に不思議な現象が起きていることに気付く。
上に現れる次のテトリミノを見ただけで、どこに、どんな向きで落とせばいいのか瞬時にわかるのだ。
ここに落としなさ~い!
ほらここ、ぴったりだよ~~ん!
脳内にテトリス神降臨。
レバーとボタンでテトリミノをさばきながら、自分が覚醒したのを感じる。
考えるな、感じろ! Don't Think. Feel!
©ブルース・リー
研ぎ澄まされる感覚。無心でただひたすらにテトリスに集中していると、どんなに猛スピードでテトリミノが落下しようとも、ラインはどんどん消えていく。
これが…これがテトリス・ハイというやつなのか!?
・
・
・
そんな状態がどれくらい続いただろう。
人間の集中力の限界、それはあった。
今、レベルどれくらいかな…チラッ
(ガンッ!)
あっ!隙間がっ!くっ、まだまだ!
よし、立て直したぞ。
バチン!バチン!!
ババババババ、バチ―――ン!!!
隣の隣で格闘ゲームをしている男がヒステリックにボタンを叩く。
もっと、ボタンはもっとやさしく押して……
(ガンッ! ガガン!)
ああっ!でかい隙間がぁ!落とす位置がひとつズレているっ!
動揺が隠せない自分。
諦めるな、諦めたらだめだっ!!
ウェ~~~イ!ウェ~イ!ウェェェ~~イ!
背後で太鼓をたたきながらウェイウェイする若者たちの声が気になり始める。
ちょっと騒ぎすぎじゃない?おばちゃんテトリスやってるからもうちょっと静かに…
(ガンッ! ガガン! ガン! ガン! ガ!)
あああああああああああ~~~~~~!!!
・
・
・
終了。
スコア 241003
ライン 363
レベル 88
自己最高記録。
これがどれほどの腕前なのかはまったくわからないのだが、自分の中で手ごたえはあった。
おそらく集中力さえ続けば人間は永遠にテトリスを続けられる。
そう確信した私であった。
ロサ会館の終焉が先か、私がテトリスレベル99に到達するのが先か。
戦いは続く。
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