母親の言っていたこと

僕は逆上がりができなかった。

あいにく通っていた小学校が超小規模校だったために

先生が一人一人に対してとても丁寧に、時間をたっぷりかけて

教えてくれていた。

そうなると、できない僕は目立つ。

とても。

できないことに敗北感は感じていたが、

頑張ってできるようになってやろうとは思わなかった。

早く鉄棒の授業が終わらないかなー、と

ボーっと思っているだけだった。

しかし、僕は何を思ったのか、

母親に「鉄棒ができるようになりたい」

と言ったらしい。

うちの母親は基本的に放任主義だ。

僕が、みんなができる運動をできなくても

特に熱心にできるようにさせようとはしない。

だから、僕が近くの公園で半日ぐらい鉄棒の練習をしていた記憶がある

ということは、

僕がやりたいと言った以外に考えられないのだ。

結論から言うと

僕は今でも逆上がりができない。

母親はなぜか練習している僕を見て

「でも、練習していないように見えてサッとできたらかっこよくない?」

と言っていたはずだ。

陰で練習していることを明かさない美徳ということだろうか。

でも僕は休日そこそこの練習をして、授業でもできるようにはならな

かった。

仕方ない。

これが僕なのだ。

鉄棒は諦めよう。

それから僕は少し成長して

世の中には、努力していないように見えて努力している人が

たくさんいることを知った。

反対に、

努力していないのに努力しているように見せる人はいない。

それはできないからだろうか?

隠すことはできるけれど、

演じることはできないのか。

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