俺はビビッている
前置き
ここのところ俺は幸せだ。毎日、眠くなるまで作業をして、眠る時は寝室でまだ見ぬ自分の作品を想像して眠る。こんなことを書くとナルシストだと思われるかもしれないから誤解のないように云っておくが、俺は自分の作品がどう完成するかについて常に未知だ。今日はそのことを書く。
今作っているのは『MMMヴィランズ』という成年向けCG集、4月下旬発売の三作目である『MMMヴィランズ3rd』だ。
このシリーズにおいて俺はシナリオ担当兼プロデューサーというポジションだ。イラストレーターの方々に依頼のメールや指示書を送りイラストを制作して頂き、それを使用して作品を一つにまとめる。ディレクターとしてCG自体の編集作業も行うし、実際に文字を配置したり背景を加工したりもする。映画で云うと監督に近い。今仕事を頼んでいるイラストレーターは3人で、メインはやどのーち先生。これにスポット(要所)で使用するイラストを他二名の方にお願いしている。
制作への不安
俺は常に予算を検討し、余裕があれば自分が以前から頼みたいと思っていた相手に仕事を依頼する。だから出来上がってくるイラストについて疑いや違和感を覚えることはない。だが自分のシナリオが本当にいいものかどうか、それについては正直いつも不安だ。
成年向け作品は評価はいつもシンプルだ。皆口をそろえて「エロければいい」と云う。俺もそう思う。だが今制作している作品はエロ以外のところにかなりの予算を割いている。自分のストーリーを表現するため、本来は必要のない部分のクオリティを高めていく。そういう行為は正しいのか? そもそもストーリーなんて誰も求めていないんじゃないか? 俺はいつもそのような不安を抱えている。成年向けの舞台で勝負しようとしている作家が、エロ以外に意味を込めるなんてナンセンスかもしれない。予算があるなら、それは全部エッチシーンに使うべきなんじゃないか。読者もそのほうが納得するのではないか。
こういうのは物語を宗教にしてきた人間にとっては背信的な悩みだ。だが結局のところ俺みたいなヤツは、その疑問に対して悩むことしかできない。不安や疑問や恐れが、確信に変わり続けるまで悩む。出来上がった作品を読んだ誰かに伝わることをただ信じてゴールまで目指すしかない。
評価に対するプレッシャー
俺にとって悩みはもう一つある。『MMMヴィランズ』の売り上げと評価は御覧の通りだ。ありがたいことに『1st』『ZERO』『2nd』は当初の予想を上回る出荷数だった。1stと2ndの出荷数値はほぼ一緒で、前作を買った人が続編も変わらずに買ってくれているのだと思う。そのおかげで『3rd』の予算はかなり潤沢なものになった。問題はその三作目、最も力と予算を割き、やどのーち先生にも数か月間、膨大な作業をさせてしまっている『3rd』はこの評価を超えられるのかということだ。
今のところ、このシリーズの評価は✰4.5~✰5に定まっている。だがシナリオやボリュームを大幅に増やした最新作がこれより低い評価だったら? やどのーち先生の絵はいつも安定している。マジで毎回驚かされるクオリティだ。正直ここまでやってこれているのも、9割は先生の絵による力だと思っている。何が云いたいかというと、もし三作目の評価が下がったらそれは誰でもなく、シナリオと総指揮を担当した俺自身のせいであるということだ。
はっきり云って恐ろしい。マジでビビっている。自分のシナリオを信じて膨大な予算と制作期間を使ってきた。金と時間とスタッフの労力。かかわった人間は皆最高のメンバーだ。なのに自分のシナリオや制作進行上の判断によって、作品自体の評価が落ちるかもしれない。報われない結果になるかもしれない。プレッシャーだよ。それを考えたとき俺の視点は少しだけ揺れる。気持ちはうつむき、精神の泉にはでかい碇が下ろされる。だが俺は、書き手は何が正解かわからない。仕事相手たちは、もう決めてしまったストーリーに準じて動いている。とっくに動き出した歯車、あとは完成と客からの評価を待つしかない。
自分にできること
だからもう、俺は自分のストーリー、伝えたいものをよりよく伝えるための言葉を打ち込み、台詞をより洗練されたものにしていくくらいしかできない。「エロければいい」と云われた成年向け作品に、何かそれ以外の意味を読んだ人間が見出してくれる結果を願っている。
俺は追い詰められているが同時に幸せでもある。『3rd』の完成は待ち遠しい。各イラストレーターの提出期限は4/20だ。すべてが揃うのは4/20……そのあとの数日が最終チェック。そして発売日だ。スケジュールはめいっぱい、これを話すと余力のなさに驚くヤツもいるだろう。だが販売が始まるギリギリまで、俺は出来上がる作品がどんなものか分からないという期待感に支えられている。自分への自信なんてないが、関わった人が提出してくれる自分のアイデアが形になったイラストや、それらと自分の書いたシナリオが融合するのは楽しみでしょうがない。ハッキリ云って、これだけ楽しいことをやっているのだから良い評価を期待するのなんて贅沢かもしれないという気持ちもある。
ここのところ俺は幸せだ。毎日、眠くなるまで作業をして、眠る時は寝室でまだ見ぬ自分の作品を想像して眠る。ワンマンでやっていたら絶対に覚えない高揚感が血を温かくする。だから寒さに震えては眠らない。だがその時が来るのを待ち、震えて眠る。