もう楽にして・・・ 2
酸素のぶくぶくする音が、テレビの音に聞こえると言って笑った。えー、聞こえないよ と答えると、漫才してるみたいじゃない?と言った。
そんな事を繰り返しながらも、苦しそうな時間がどんどん溜まってきているのを感じた。
思わず「痛い?」と聞くと、美穂ちゃんは真っ直ぐに私の目を見つめて黙って頷いた。
その目は、何かを訴えているみたいだった。
私は何も出来なかった。どうしてそんな事聞いてしまったんだろう。何もしてあげられないくせに。
たった1週間ほど前に、私は後悔したばかりだった。
それは、家で待っている猫のリンに会いたいと、病院の許可をもらえば連れてきてもいいとされていることを、美穂ちゃんの口から聞かされた時。
リンが暴れたら困ると瞬時に考えた私は、リンの写真を撮ってくるねと言ってしまった。その瞬間、美穂ちゃんの口元から笑顔が消えて、なんの感情も無く、でも何かを訴えているような視線。すぐに元の笑顔に戻ったけれど、私は見逃さなかった。
また同じ思いをさせてしまった。
私は、こんなにも何も出来ない。
頼られたことなどこれまでになく、最初で最後のお願いだったかもしれないのに。
静かに痛がっている美穂ちゃんに、ごめんねって、口から溢れた。
夜になり、今日はもう帰って良いと義兄に言われた。
母と八重ちゃんと3人で車に乗った。
けれども、3人の思いは同じだった。
病院に戻りたい。
美穂ちゃんから離れてはいけない。そう感じていた。
ひとまず家で母に薬を飲ませ、風呂を沸かした。母が入浴している間、ちょうど半年前に亡くなった父の仏壇を眺めながら、病院にいる義兄と甥へ連絡した。
「やっぱり3人ともそっちに戻るね。」
義兄は、美穂ちゃんと二人きりになりたかったのかもしれない。
でも、私たちも同じだった。
深夜になり、美穂ちゃんの呼吸はどんどん浅くなった。
暑いと言ってもがいた。
痛いと言って苦しんだ。
見たことのない目をしていた。
苦しむ美穂ちゃんを、泣きそうになりながらみんなで囲んだ。
「緩和ケアって何だっけ」と思った。
苦しむ美穂ちゃんを見ていることが辛くなり、義兄が苛立ち、看護師さんに怒鳴っていた。
なんて言ってるのか、言葉が耳に入ってこない。義兄を抑える人も、居なかった。
「もう楽にして・・・」
美穂ちゃんが、看護師さんに訴えた。