睡眠と天候の変化と身体の動き、そして東洋医学のケア
今年のノーベル賞受賞者の発表が、明日10月7日から始まる。
7日生理学・医学賞、8日物理学賞、9日化学賞、10日文学賞、11日平和賞、14日経済学賞の順で発表される。
注目しているのは初日の生理学・医学賞で、昨年も有力候補として名前が挙がっていた柳沢正史教授(筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の機構長)。睡眠の制御に関わる「オレキシン」という物質を発見したことで知られている。明日、柳沢先生の名前が呼ばれることを期待している。
さて、タイトルの話に戻る。
日本は世界でも稀に見る「寝不足大国」である。
経済協力開発機構(OECD)、Gender data portal 2021のデータによると、日本は先進33カ国中、最も平均睡眠時間が短いと報告されており、1日あたり7時間22分。加盟国中で睡眠時間が一番長い米国は8時間51分、我が国と比べると1時間半も睡眠時間が短いという結果だった。
さらに、寝不足による経済損失はGDPの約3%、15兆円に上るとも試算されているという。日本人には「寝る間も惜しんで働く」という考えがある人も少なくないようだが、国民1人当たりのGDPが高い国、つまり経済的にリッチな国ほどよく眠っているというデータがある。結果を出したいならば”良く眠る”ということである。
私たちは人生の約1/3を睡眠に費やしている。しかし、なぜ睡眠が必要なのか、また「眠気」の実体とは何なのか、睡眠の本質的な意義や機能については未だわからないことも多いようだ。
睡眠を十分にとらないと、パフォーマンスが低下したり、イライラが募ったり、生活習慣病の罹患リスクを高めて症状を悪化させるなど、心身の健康を害するリスクが高くなることはわかっている。そして残念ながら、居眠り運転による事故はあとを絶たない。
これら睡眠に関する問題を解決するために、「睡眠医科学」という分野を確立し研究活動を行っているのが、睡眠の制御に関わる「オレキシン」という物質を発見したことでも知られる睡眠研究の権威、柳沢正史教授である。教授が率いる筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構は、睡眠の謎を解き明かし、人が健やかに眠れる社会の実現のために研究に邁進している。今後研究が進み、睡眠の謎が解き明かされて不眠に悩む人の一助になることを期待している。
さて、1998年、学生だった筆者は睡眠と鍼治療を研究テーマに卒業論文に取り組んだ。
対象者は、曇天/雨天など気圧が低下する時に眠りの質が極めて低下し、起床時に身体が休まった気がしないという特徴があり、長期間その症状に悩まされていた。
そこで、実際に気象の変化によって睡眠の質に変動があるのか、また鍼治療で睡眠の質は改善できるのかについて明らかにするために実験を行った。
対象者には、睡眠時にホルター式心電図を装着してもらい、以下3つの条件下で睡眠時の心電図を計測し(心電図R-R間隔データ解析)、自律神経の働きからリラックスして眠れているかどうかを調べた。また、就寝前に動きによる東洋医学の診断方法である「経絡テスト/M-Test」を用いて身体の動きの異常を診断した。鍼治療には、動きの異常に対応したツボを用いてパッチ式の鍼(円皮鍼)で行った。
条件は以下のとおり;
①晴天時(鍼治療なし)、②曇天時(鍼治療なし)、③曇天時(鍼治療あり)
結果、①では睡眠充足感がありよく眠れている状態だったのに対し、②では睡眠充足感がなくあまり眠れていない状態だった。③では①の晴天時と同様によく眠れていた。
ちなみに、比較対象として睡眠障害がない健康成人の睡眠時のデータも計測したが、天候に影響されることはなかった。
筆者の研究によれば、鍼治療は「睡眠休養感」を高めると考えられ、いわゆる気象病に悩まされている方への助けになることが期待される。
厚生労働省が提供している生活習慣病予防のための健康情報サイト(e-ヘルスネット)によると、日本では成人の約5%が不眠のため睡眠薬を服用しているというが、よい眠りのためにはぜひ鍼治療を取り入れて眠るためのカラダづくりを試してみてほしい。
ちなみに、睡眠に効果があるとされるツボは足の踵辺りや耳の後ろ付近にあるので、就寝前に足湯をしたり、耳の後ろを軽くマッサージしたり、就寝時に踵から足首辺りまでのレッグウォーマーを装着するなどしてみるのもオススメである。
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