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リバティおおさかで最高のラブレターに出会った

人類全員リバティおおさかに行ってほしい。なぜならそこに最高の作文があるから。

リバティおおさか、という知ってる人は知ってるけど知らない人がほとんどであろう博物館が、大阪にある。ただしくは大阪人権博物館という名前で、リバティおおさかは愛称らしい。(でもこの愛称がかわいいのでこっちを使う)

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5月31日で閉まってしまう(休館…らしいけれど移転先がまだ決まっていないのでこう書く)と聞き、しかも閉館までは入場料無料と聞き、名前だけは知っていたが訪れたことのなかったリバティおおさかに行ってきた。

そこで最高の作文にであった。

いや~~~もう超最高だったのだ!ひとことで言えば「愛じゃよ…愛。」だったのだ。いかに良いかはこれから書くんでちょっとまってください。

著作権の関係でリバティおおさかの展示物はほとんどが撮影できず、むろんこの作文も撮影できなかったのだが、最高すぎて、その一部をメモした。ずっとその展示をわたし一人で見るのも他の方に悪いので、近寄ったり離れたりしながら書いた。ので、間違いがあるかもしれない。

でもこのたぎるきもちを残しておきたいから書かせてくれ~ッ!!!書く!

↓ Go!!! ↓

わたしが最高だと言っている作文は総合展示のゾーン1とゾーン2のあいだにある「識字教室」というコーナーに置いてある資料だ。(識字教室とは、「貧しさや家の事情で義務教育を受けられなかった大人たちが学ぶ」教室のことだ。「」内は朝日新聞より抜粋。)

そこに「せいかつ」という緑色の表紙の冊子がある。その中にある、ひとりの女性の作文が、本当にすごかったのだ。

書き出しはこうだ。

今年正月休みに、信濃橋まで三十年ぶりに『くつなおし』をしていた所まで行って見た。あまりの変りように、うちはびっくりしてもうた。

す、すげ~~~~すげくないですが~~~!何がすごいのか解説するぜ!なぜならオタクだから!ということで続けるぜ!

①一行目から時間軸を指定している。しかもその指定日が「正月」。みるからに何かが起こりそうなドラマティックな日だ。訪れた場所は信濃橋という今は聞きなれない土地名で(あるにはあるが駅名にはなっていない)、しかも≪三十年ぶり≫に訪れたという。ドラマティックだ。ドラマティックの二段重ねだ。

しかもドラマティックは止まらない。

②『くつなおし』という言葉の違和感。くつなおし、という耳にはしたことがあるけれど、文字ではなかなか見ない言葉。それに『』がついて、一層、「これはどういう意味を持った言葉なんだろう?」とこちらを気にさせてくる。すごいぞ。

そして

③「あまりの変りように、うちはびっくりしてもうた。」の威力!!!!

ここがすごすぎて椅子から落ちた(マジ)

突然の「うち」、方言で「わたし」。これで語り手が女性で大阪の人だと読者に初めてわかる。プロが書いた小説ならまあわかる、しかしこれは識字教室の作文、だというのに「うち」を選ぶセンス!一人称でわたしの物語を語りきるという決意、熱意、強さ、覚悟!パない、すごすぎる。

その上の「びっくりしてもうた」で、わたしはもうやられた。なぜかって?だってこんなにもうつくし~~~!美しい大阪弁~!に出会うと思ってなかったからや~~~!!

このあとも文章はずっと続くのだが、この人の書く言葉は、終わりまでずーっと美しい大阪弁なのだ。大阪弁ってあれでしょ、芸人が使うやつでしょ、関東の人間でも知ってるよ!と思うかもしれないけど、それとはまた少し違った、谷崎潤一郎の『ささめ雪』で書かれているような大阪弁があるのだ。あるったらあるのだ。そしてこの人の大阪弁は、本当に美しい大阪弁なのだ。それが極めてナチュラルに、厭味ったらしくなく書かれている。

ああ、言葉づかいが大阪ナショナリズムにつきささるのね、とお思いのそこのあなた!ちがうんだーッ!この作文のすごいところはそんなことじゃないんだーッ!!!

物語(ではないけど便宜上こう書かせて下さい)はこうだ。

14歳上の夫を「お父ちゃん」と呼び、靴修理店を営み暮らす「うち」。夫の実直で朗らかな性格から店は繁盛し、「うち」と夫は二人で店を切り盛りする日々。ある日、夫がぎっくり腰になり、一人で店に立つことになる。お客から修理を頼まれ、生まれて初めて「うち」は靴をなおすことになるが……

え……?すごくない?これ作文だよ?すごい……すごいよーッ。なんですごいのwって茶化すやつがいるだろうから伝わるかわかんないけど書く。

すごいポイントその④ディテールの描写がものすごい細かい。

1、靴の修理の描写

結果的に言うと、「うち」はこの時、人生で初めて靴をなおすことができ、「出来た、出来た」と喜ぶのですが、つまり書き手はプロの靴修理屋さんだったわけです。そのこともあってか、≪夫の実直で朗らかな性格から店は繁盛し、「うち」と夫は二人で店を切り盛りする日々。≫とわたしがざっくり要約した部分に実は、ものすごく丁寧に細かく、靴の修理の描写が入ります。

靴の裏にうつ羊皮はあつさが3mmから4mm位あってむっちゃかたい。横幅20cmたて25cm位な羊皮を直中から直ふたつに、一気に切って一足分、その半分を土ふまずに当る部分を少しすいて薄くし、靴のうらにうちつける。

なんというリズム感…!ぜひ口に出してください、もっとすごさがわかる。

ちなみにさっきプロの職人だったから工程を細かく書いたのではと言いましたが、実はこれは違うんじゃないか、と思っていて、というのもこの方は他のことにも、ものすごく注意力を払っているのです。

2、当時の大阪の様子

通りは、道巾が四メート位で、むかい合って、木箱のガス風呂屋が五、六軒並んでいた。ところが今は、五階建のビルになっていて、ガス器具の商品を買うる店になっとった。

という描写は序の口、今は無き阿波座の様子がこれでもか!と出てきます。(全部書き写せなかった自分が憎い)例えば自分の店がいったいどこにあったのか、どこの辻で、どこの通りで、そしてその通りはどんな場所だったのか、そしてそこに住む人々は…?

3、当時の人々の様子、そして会話

八時半頃になると、会社員がそれぞれの職場に行く道「おじさん、これ羊皮うっといて。」とか「かかとがへってるからたのむわ、〇〇会社まで配達して」とか「十時頃、むかけるさかいそれまでに修繕たのむ。」等、毎日が朝と昼がラッシウ時(編注:ラッシュ時)やった。「よっしゃ、まかしとき出来たら、母ちゃんに持っていかしますわ。」

生きてるんか…?ここに書かれた人たち、みんな生きてはるんか…?と思えるような、いきいきとした会話たち。ていうか小説をほめるときにいきいきとした会話ってよく書くけど、このいきいきさに勝るいきいきさはそうそう無いんとちゃうかといういききさ。(ゲシュタルト崩壊しそう)たとえ、ほんの一瞬靴を預けに来るお客という関係性であったとしても、その人たちがどんな風に生きていたのか、書き手はじっと観察しています。

そしてなんと言っても書き手の「うち」が最も注目していた人物がいます。そうですこれが本題です。その最注目人物とは……彼女の夫(父ちゃん)です!!!

「愛じゃよ…愛」と最初に言いましたが、何を隠そう、この作文は識字教室で書かれた壮大なラブレターなのです。

4、「父ちゃん」への細かな注意とこまやかな愛情

あらまし丸く切ったところで、5mmかんかくで釘を打って行く。それが父ちゃんはすごく早いしうまい。10本ばかり口の中に釘をホイッと入れて、一本ずつ口の中から釘の頭からだしもってテンテン、テンテンときれいにそろえて打って行く。

これは先ほどの仕事の内容の細かさと、「父ちゃん」への注目が同時に見える部分です。文中には数えきれないほどの「父ちゃん」という言葉が出てきます。メモに書ききれなかったことを後悔するぐらいにあります。そしてそのすべてに、深い深い愛情を感じるのです。それはこの作文の最後の部分にもあらわれています。今回は記載しません、ぜひ、リバティおおさかで読んで下さい。

さて、この作文を読んで思い出したのがテオ・アンゲロプロスの『永遠と一日』のこんなセリフです。

「海辺から、あなたに何度も何度も、手紙で話しかける。いつかこの日のことを思い出すときがあったら、覚えていてね。夢中になって、あなたを見ていた眼、夢中であなたに触れた指、震える思いで、私は待っている。なぜって、今日は私の日」(テオ・アンゲロプロス『永遠と一日』)

思うに、彼女はたぐいまれな観察眼があって、すばらしい言語化の力を持っていて、それでいて「父ちゃん」のことをものすごく愛していたのでしょう。

夢中になってあなたを見ていた、あなたと共に生きていた。熱い燃えるような想いが、とてつもなくよく練られた構成と、美しい言葉たちで襲い掛かって、立てなくなる。そんな出会ったことない作文に、ここ、リバティおおさかで出会えました。

……あれ…?すげ~~すげ~~と言ってたらもう4000字近くも書いてしまった……それ以外とくになにも言ってないのに……。夜も更けてきたのでそろそろ終わります。明日以降もまたこの作文について書きたいです。他にもこの作文にはパワーワードがいっぱいあるからさ……!あとすごいポイントもあと100個ぐらいあるのに全然書けなかったから、書く。書くぜ!

あらためていうけど、この作文はマジですごいので全人類に読んでほしい!のに、リバティおおさかは月末で閉まる!なぜだ!!!なぜなの!!!なぜなのよーッ!(Sound Horizon...)騙されたと思ってリバティおおさかに行って、読んでほしい。いま入館無料だし……。頼むッ。

リバティおおさかの住所はっときます↓

リバティおおさか(大阪人権博物館)
JR環状線「芦原橋駅」下車、南へ約600m
JR環状線・大和路線「今宮駅」下車、西へ約800m
南海汐見橋線「木津川駅」下車、東へ300m

〒556-0026大阪市浪速区浪速西3-6-36

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でまあお題に参加してるから取ってつけたみたいになるけど、これは本当に言いたかったことで。なんで人権や差別について勉強するかっていうと、真の意味でゆたかになるためだとわたしは思ってます。ゆたかになるって何かっていうと、他人を傷つけないようになることだと思っています。リバティおおさかの展示は「え!これも差別か!わたしこの状況じゃん!でも確かに…」と気づかせてくれるような展示が多かったです。差別というのは多岐にわたります。自分の中の無自覚な部分が差別を起こします。差別について学ぶのは、これから自分が誰かを傷つけたりしないために必要なのです。

では長々とお付き合いありがとうございました!

みんなッ!リバティおおさか行ってくれよッ!

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