【現代詩】1/4
実家に対する想いは、どこか泥臭くて陰鬱たるものがあり、気恥ずかしいのに、懐かしさを覚えずにはいられない。
私は実家の混然とした居間が嫌いだ。古びて色褪せた電化製品や、部屋の雰囲気に合わない、どんな意味があるのかもわからない木彫りの置物や、まるで統一感のない柄物の衣類。そして増えすぎた食器が。
捨てればいいのに。
この感情は何か。
自分が大人になって洗練された気にでもなっているんだろうか。
白く雑念のない壁に、手間のかからない電子機器、的確な配置の必要最低限の小物、季節で折り目正しく変わる衣服。テーブルに置かれる、ただ一膳の箸。
あの灯油ストーブの鼻腔にいつまでも残る匂いに、結露した実家の白く埃っぽい窓辺で、昼前のまゆるい日差しに目を細めて笑う母の、握ると柔らかく老いた手だとか。少し離れたところで話したそうに、ただ座しているだけの父の静謐な眼差し。
そういったものが、ようやっと身に付けた私の鎧を剥がしていくようで。
垢抜けなくてしあわせな両親。
この東京で。
私は人をくわず、人からくわれずにこうして生きているというのに。
背負う鞄が重たい。
地下鉄から見える川の水面はさんさんと輝いている。「また来て」と言って実家の玄関を送り出す二人の姿。
またここに来ていいんだろうか。
ここには居られずに戻る自分。
電車は地上から地下へとすみやかに潜る。
流れる壁はどこへ続くのか。快適で何不自由ない居心地の良い第二の家に。現在に。何かを置いていくようで。