【SS小説】水槽の魚
——視界がひらくと青色の天井が見えた。
ぼんやりとした輪郭のまま、斜めに走る淡い光の筋のようなものをなんとなく捉えてたどると、どうやらカーテンの隙間がある。
午前5時14分。
眩しすぎる手首の小さな液晶画面を前に、片眼を閉じた。
それから持ち上げた腕ごと、覆い被せるかのように瞼にあてがうと、細く長いため息をついた。
仰向けの状態で、暗い木目地のヘッドボードを無闇に掴もうとすれば昨晩置いたと思ったベッドのその位置に、眼鏡はちゃんとレンズを天井側にして置いてあった。隣で寝息がシーツを手繰り寄せる音が聞こえてくる。
起こしただろうか。
細長い柄を耳に差し入れるようにしながら薄いグラスの向こう側を覗き込むと、
心配をよそに、菫さんはまだ眠っていた。
「ずっとそうやって、眠っていたらいいのにな。」
剥き出しの肩が、日が昇る前の青色の光に浸かり、まるで水の中の砂地に身を横たえている魚のようだった。水族館で見た、静かで薄暗い深海魚のコーナーだ。
「先生、」
「俺はまだ、何も教わってはないと思います。」
砂地に散らばる長い髪の端を捕まえると、切り揃えられた毛先を、人差し指と中指の隙間からじっと無意味に見つめてみる。一通り観察し終えると、また背中にかけて沿わせるように流してあげた。
「蔑ろにしてるみたいだ。」
水面に向けて、音もなくゆっくりと立ち昇っている小さな気泡を、永遠と見つめていられる。