さあ、襷を繋ごう!(女子編)
10月某日、いよいよ地区駅伝大会当日を迎えた。
大会会場は陸上競技場、野球場、サッカー場が併設された総合運動公園。
陸上競技場のトラックを発着点と襷リレーゾーンとし、その外周に配された小高い芝生の丘を抜け、取り付け道路と外周道路の急坂を上り下りするトリッキーなコースとなっている。
まずは女子から。
今年の女子県駅伝への切符は上位9チームまでに与えられる。
昨年の我が女子チームは故障者が多く、僅か3秒差で県駅伝出場を逃し、悔し涙を流しに流した。
「来年は絶対に県駅伝に行く!」を合い言葉にこの1年間やってきた。
そしてもうひとつ、今年は「駅伝がやりたい!」と自薦してくれた選手だけでチームを組めたことが嬉しかった。
各郡市大会の結果を分析した結果、突出したチームが1つあるがそれ以外は混戦である。
我がチームは十分に表彰台を狙える位置にあることから、目標は3位以上での圧倒的県大会出場権の奪取である。
布陣はこう。
1区(3.4k)→地区1500m準優勝のA
2区(2k)→100mHが専門のB
3区(2k)→走り幅跳びが専門のC
4区(2k)→元バレーボール部キャプテンのD
5区(3k)→地区800mチャンピオンのE(C)
である。
戦略としては1区、5区の長距離区間にWエースを配置。1区のAで好位につけ、2、3、4区はひたすら耐え、粘り、繋ぐ。そして5区アンカーのEで一発を狙うというシナリオ。
秋晴れの中いよいよスタート。
1区のAは序盤先頭を伺う好位置につける。しかし飛び出した優勝候補の選手に付けず苦しい展開。Aは元々スピードが勝ったタイプで長い距離はあまり得意ではない。それでも最長区間は自分が走る!と覚悟を決め懸命に走ってくれた。2位集団の中で苦しみながら、それでも持ち前の気持ちの強さを発揮して後半粘り強く走り抜き、区間5位で襷を繋いだ。
2区のBはハードル選手。前傾の深い大きな跳びで進む。ハイレベルな2区で順位は1つ落としたものの終盤粘りを見せ、先頭との差をしっかりキープしてくれた。
3区のCも力走。跳躍選手らしいバネの効いた走り。慣れない長距離の練習で足の痛みがある中好走。終盤キツくなるも順位をしっかりキープして襷渡し。
4区のDは元バレーボール部キャプテン。7月からの加入にも関わらず、チーム全体を見渡しバランスを取ってくれるその存在は、チームに落ち着きと調和を与えてくれた。レース前、部外から入った自分が足を引っ張ったら…と心配していたが、走りでもこのチームに足りなかったラストピースをしっかり埋めてくれた。
そして襷は5区、アンカーのEへ。この時点での順位は7位。トップは独走で1分以上前。しかし2位から7位までは15秒差という大激戦である。
2~4区が本当に粘り強く走ってくれ、驚く程予想していた展開にはまる。
アンカーのEは地区800mのチャンピオン。豊かなスピードでトラックシーズンに大活躍した選手だ。しかし元々呼吸器が弱く、長い距離になると呼吸が苦しくなり練習で何度も泣いていた。しかし秋になって、その原因がアレルギー性の喘息と分かり治療を始めるとグンと走れるようになった。
そして去年あと一歩、僅か3秒差で県駅伝出場を逃したときのアンカーでもある。
そんな想いも背負ったEが襷を受け取ると、持ち前のスピードで一気に加速し競技場を飛び出して行く。
ダイナミックで伸びやかなフォームになったなぁ…、と関心していたがふと我に帰る。
「速い、速すぎるぞ…」
そう、スタートして400m、芝生の丘を上り始めるや否や先団に取り付き、それを抜ける時には一気に4人を抜き去り3位に躍り出ていた。
駅伝練習で呼吸がキツくなり、ストップする姿を何度も見てきただけに要らぬ心配が頭をよぎる。
しかしそんな心配一切お構いなしにEは爆進。
丘を駆け下り1キロを通過する頃には15秒差あった2位チームの後ろに迫っていた。
速い、明らかに速い。
そう感じ、落ち着かせねば…と、目の前を通過するEに
「残り2キロの間で仕留めればいい!」
そう声を掛けると、Eは頷き2位選手の後ろに付くとそのまましばらく走った。
そして残り500mへ。
競技場に向かう最後の坂でEが仕掛け前に出た。
しかし前半のオーバーペースがたたり引き離すことができない。
逆に後ろに付かれてしまう。
必死に振り払おうとするもそのまま競技場へ、残り300m。
そしてラスト200mで最後の力を振り絞りEが渾身のスパート!
5m離した!
しかしラスト50m、最後まで貯めていた相手選手の大捲り。
ラストの一騎打ちに場内は大歓声。
しかし何度も仕掛けたEに最後巻き返す力は残っていなかった。
最後の最後数センチかわされたところがゴールだった。
同タイム着差有りの第3位でのフィニッシュとなった。
Eは4人抜きの快走で区間賞の素晴らしい活躍だった。
疲れ果ててゴール後立ち上がれないEを気づかい、メンバーが集まってきた。
そして声を枯らしながら応援してくれたサポートメンバーも駆け寄ると、皆で抱き合って喜んでいた。
陸上を、駅伝を心から楽しみ、そして皆で目標を達成し、皆で喜びを分かち合っていた。
本当に良いチームになったなぁ…。
良かったね。本当におめでとう。
キラキラした笑顔で写真に収まる彼女達は本当に眩しくて素敵だった。
いやー、駅伝て本当に良いものですね!(水野さん)
そして子供の成長力マジリスペクト!(台無し)
さあさあ、次は男子だよ!!
この物語はフィックションです。←
《独り言》
「残り2キロの間で仕留めればいい!」とあの時俺が言わなければどうなっていただろう?2位の選手を一気に抜き去り、引き離し、相手が諦めていたかもしれない。
そんな難しさも感じた駅伝でもありました。ふえぇ。。