さあ、襷を繋ごう!(男子編 その5)
『ライバル』
レースは2区へ。
襷を受け取るとしばし走り、スピードに乗ったところでをスッとそれを肩に掛けた。
大丈夫、落ちついている。
2区を走るのはH。それを待つ3区はIである。
普段の2人はお笑いコンビのボケとツッコミのようにふざけ合っては皆を笑わせている。
HがボケるとIがツッコむ。
それを見てはせがれも被せてボケ、またIがツッコむ。
そして3人でケタケタと笑っている。
Wボケとツッコミ。
こんな調子で1年生のときから一緒に長距離をやってきた3人。
そしてHとIは入部以来のライバルでもある。
練習でもレースでも常に互いを意識し、競いながら高め合ってきた。
今でこそポイント練習になるとスッと前に出て後輩や女子Wエースを引っ張りペースメークをするまでになったが、陸上部に入った当初の2人は練習で当時伸び盛りだった女子Wエースに追いかけ回され遅れることもあった。
しかし地道に練習を続け、最後の地区大会3000mでは、Hがあと2秒、Iはあと1秒で決勝進出というところまで成長していた。
さて、各校のエースが集う区間が1区なら、2区はそれを支える主力達の区間。
派手さはないが、確かな強さを持った選手達が走る。
そんな中、持ちタイム的に劣るHは劣勢だった。
それでも冷静に、練習で培ったペース感覚だけを頼りに、無理に競ったり付いたりスピードを上げたりせず、3キロという距離の中で自分の持っている力を出し切ろうと集中しているようだった。
こう書くのは簡単だが、それには経験に裏打ちされた自信とそれを遂行する実力、そして何より不安に打ち勝つ強さが必要である。
それにしても他の選手が速い。
1キロを通過するときには3人にかわされ9位。
さらに後ろが迫ってきていた。
それでも焦らず淡々と走るH。
難所の急坂を上り、下り、ラスト1キロの橋も9位で通過する。
ペースは変わらない。
周りの心配をよそに、Hは完璧に「自分をレースにはめている状態」だった。
そのとき、せがれが自身の着替えもそこそこに
「Hは?!Hはどうなの?!」
と応援に合流してきた。
状況を説明したあと、自身の1区でのラストスパートを誉めると
「今までのどのレースよりもキツかったけど、トラックで、みんなが見ているラストで抜きたかったんだ。みんなに『やれるぞ!』って示したかったんだ。」
と、またとんでもない事を言い始めた。
「そっかそっか、頑張ったな」と頭をポンポンしながらも、「っだよ!あの状況で、んなこと考えて走ってたんかよ!プロかよ!」ってなって、涙腺は完全に破綻。喉もウッウッってなっていたのは内緒の話である。せがれナイスだ。
さあ、2区も残り500m。
大声援の中、最後の坂を上るとさすがに苦しそうになったHだが、まだ足は動いている。
そして前との差が縮まり出す。
そして競技場へ。
せがれの想いが伝わったのか、やはり動きを変えラストスパートに入るH。
前に迫る。
そして一気に抜いて見せた。
厳しい区間にも関わらず我慢に我慢を重ね、その役割を十二分に果たしてくれたH。
ありがとう。
ナイスラン。
さあ、そんなHを待ち構える3区のI。
1年からのライバルふたりが襷を繋いだ。
また涙が流れた。(多い)
そして力強く駆け出すI。順位は8位。
さあ、襷を繋ごう!
つづく。
(もう書いても書いても終わらないんです)