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バイアスロン世界チャンピオン モフサル・スリマノフ インタビュー日本語翻訳版

こちらの記事はケトルベルスポーツのバイアスロン世界チャンピオンの、モフサル・スリマノフ(Movsar Suleymanov)のインタビューの日本語翻訳となっております。
GIREVIK ONLINE様より許可を頂き翻訳及び掲載させて頂いております。文章の無断転載は一切禁止いたします。

インタビュアー Valentin Egorov
翻訳者 渡辺陽介
動画公開日 2020年11月2日

○ Valentine
モフサル、会えて嬉しいです。あなたの競技シーズンが終わりようやくインタビューすることができました。直近の大会ついて教えてください。結果はどうでしたか? 

● Movsar
このインタビューに招待してくれてありがとうございます。ロシア軍のウォストロチン・カップに出ておりました。通常、私は73kg級で競技をするのですが、私は減量でミスをしてしまい体重は2.8kgもオーバーしていました。なので3日間ほぼ何も食べずに挑みました。どうなることかと思いましたが、でも全てがうまくいったようです。

○ Valentine
体重は落とせましたか?

● Movsar
はい、落とせました。簡単なことではありませんでしたが。

○ Valentine
記録はどうでしたか?

● Movsar
ジャークが154回。そしてスナッチが165回です。

○ Valentine
それはあなたのパーソナルベストですか?

● Movsar
ロシア選手権の時よりは良い結果です。あの時は235ポイントで今回は236.5ポイントですので。

○ Valentine
今でもまだ記録を伸ばしていますね!
あなたはロシア選手権を終えて、これからまた次の世界大会に向けて準備の期間に入りました。それについてはどうですか?特にあなたは長期間体重を維持する必要がありますね。

● Movsar
私はいつでも結果を1番に考えてトレーニングします。そのため結果は安定しています。結果が安定している時は、私の心も落ち着いております。オフシーズンには体重が80kgを超えます。(笑)

○ Valentine
それでは質問いたします。
多くの人があなたがリペツク州チームでプレーしているのを見ていました。しかし同時にあなたはチェチェンで生まれ育ったことは良く知られています。そして前回のロシア選手権ではカルーガ州チームでプレーをしていました。まるであなたは3州の代表選手のように見えます。一体どこの州の所属なのか教えていただけますか?

● Movsar
私は全ての州に所属していると言えます。それぞれの州、共和国にそれぞれのルーツがあるからです。
私はチェチェンで生まれ育ち、チェチェンの高校を卒業しました。2006年にリペツク州エレツ市の医大に進学しました。そして医師になるために高等教育を受ける予定でした。しかし運命は変わりスポーツは私を医学の道からスポーツの道へと誘い出してしまいました。私は子供の頃から何かを達成したり強くなることを夢見ていました。それが具体的に何なのかは当時はわかりませんでしたが、何かベストを尽くしたかったのです。

※資料写真 チェチェンの街並み

※翻訳者注釈
チェチェン紛争後に、ロシア政府が巨額の復興資金をチェチェンに投入したこともあり、かつてはロシアで最も治安が悪いと言われたチェチェン共和国は今ではロシアで最も治安の良い国の一つになりました。また近年のチェチェン共和国の経済発展は目覚ましく、特に首都のグロズヌイは建設ラッシュが進み、「カフカースのドバイ」といわれるまでになりました。


○ Valentine
いつからケトルベルスポーツを始めたのですか?

● Movsar
私は高校の授業が終わるといつも学内にあるジムに行っていました。すると体育の先生が「お前はいつもここでトレーニングしているな。プロのコーチのトレーニングを受けてみたらどうだ?」と言われ、そのアドバイスを受けてスポーツスクールの「スパルタク」に行きコーチのイゴール・ヴィタリエヴィッチ・ノヴィコフに出会いました。そこに行き私はそこに滞在することにしました。そしてそのチームで2006年のロシア選手権のリレーレースで優勝しました。とても強いチームでした。

※資料写真 エレツの街並み

○ Valentine
みんな知っているよ。エレツのケトルベルスクールだね。そのチームはいつも優勝だった。

● Movsar
アンドリー・クラヴツォフはその時そこにいました。

○ Valentine
彼はまさにビーストですね。

● Movsar
そこには常に強いアスリートがたくさんいるんだ。そして2010年に彼のハードトレーニングを見るために会いに行きました。

○ Valentine
それからは君はそのチームのメンバーになったんだね。

● Movsar
そうだね。イゴール・ヴィタリエヴィッチに出会えて私は幸運だった。しかし彼らは特にプロフェッショナルアスリートを必要としてはいませんでした。そしてイゴールは僕に興味があることは明らかでした。彼はアンドリー・クラヴツォフに会わせてくれました。彼は7度世界チャンピオンになりまた当時の世界記録保持者でした。イゴール・ヴィタリエヴィッチは、あなたが強くなることを望む限り強くなることができると言いました。私は彼が私を慰めるために話していると思った。

○ Valentine
大学卒業後、故郷のチェチェンに戻りましたか?

● Movsar
いいえ、チェチェンには戻らずエレツに留まりました。私が大学にいたとき、私はすでにロシアのマスターオブスポーツの基準を満たしていました。
そして私は将来の計画について聞かれました。
私はここを出ると言いました、そして私はエレツ州立体育大学に進学出来る様に彼らに話してくれることを提案されました。私はそれに同意しました。
それから彼はスポーツ学部でこの大学に入学しました。
無料のスケジュールがありました。
私たちは学期の割り当てを与えられ、私は去りました。
私は年に2〜3回セッションに来ました。
当時、私はチェチェンに住んで働いていました。
私が医科大学で勉強していたとき、私はイェレッツに住んでいました、これには厳しいものがありました。

○ Valentine
カルーガに移籍したのはいつからですか?

※資料写真 カルーガ

● Movsar
去年カルーガに移籍しました。
引っ越した理由ですがチームの人間関係ではありません。私はイゴール・ヴィタリエヴィッチと良好な関係にあり、彼には大変お世話になっております。アンドリー・クラヴツォフも私を大いに支えてくれました。彼は私にとっての模範で、スポーツパフォーマンス、性格に関しては私はいつも彼を尊敬してきました。私は彼らがどのようにトレーニングしているか全て見てきました。全てが素晴らしかっあです。私はチームと非常に良好な関係を築いていました。
引っ越した主な理由はエレツの財政です。
エレツでは、スポーツアスリートは十分にお金を得ることが出来ませんでした。イゴール・ヴィタリエヴィッチは「私たちがロシア選手権で勝つことができれば、きっとスポーツトレーニングセンターは良い待遇で私達を雇用してくれるはずだ!」と言いました。
それを実現させるために私は一生懸命トレーニングし、そして2019年に遂にロシア選手権で優勝するとができました。そして世界選手権への切符を手に入れたのです。しかし、スポーツスクールに行くことが出来ませんでした。今はそうでは無いかもしれませんが、その時はやはり良い待遇は待っていませんでした。主な原因は、ケトルベルスポーツがオリンピックスポーツではないことです。

○ Valentine
スポーツスクールはどのようなスポーツを重視しているのですか?

● Movsar
柔道、サンボ、ウェイトリフティング等でした。ここはオリンピック保護区の市立学校なのです。ケトルベルスポーツがオリンピックスポーツであれば良かったけれどそうではありません。私達の念願は叶いそうもありませんでした。しかし、その様な逆境の中でも世界選手権優勝への情熱は消えませんでした。
私のコーチと私は世界選手権の準備をすることに決めました。しかし、選手権出場への渡航費の援助は支払われませんでした。リペツク州知事宛てに手紙を書いたこともありますが、状況は変わりませんでした。そのため私は世界選手権出場のためセルビアへの渡航費を自腹で支払うことに決めました。

○ Valentine
つまり、エレツでは一才の援助が無かったということですか?

● Movsar
はい、ありませんでした。しかし、必要なかったのかもしれません。私はただ優勝したかったのです。それは援助があろうと無かろうと変わりません。結果的に私は世界選手権することができた。それで十分だと思います。
世界選手権優勝後、私はチームと良い関係を築いていたので、彼らと今後も一緒にトレーニングを続けたいと思いました。それはコーチも同じで、私のコーチと私は移籍をする事に決めたのです。コーチのイゴール・ヴィタリエヴィッチは、サンクトペテルブルクに移籍することを提案しました。サンクトペテルブルクは非常に優れた強豪チームです。
しかし、私はずっとカルーガのチームに憧れていました。カルーガは非常にフレンドリーなチームで、更に優れたコーチがいます。
しかも、地理的にカルーガはそう遠くなかったので非常に都合が良かったのです。 

○ Valentine
カルーガに移籍することは自分で決めたのですか

● Movsar
はい、自分で決めました。私は自らアポイントメントし、リペツク地域の状況について話し、そしてカルーガのチームに参加したいという願望を伝えました。カルーガは快く私たちを受け入れてくらました。

○ Valentine
それでは、あなたのトレーニングについて話しましょう。
あなたはどのようなトレーニングを行い、いつ頃150回ジャークが出来る様になったのですか?なにか秘密がありますか?

● Movsar
私はエレツにいる時に記録が飛躍的に伸びました。
アンドレイ・クラヴツォフと私のトレーニングメソッドは異なっていました。
彼のメソッドは基本に忠実でした。ケトルベルを使った基本的なトレーニング、次にバーベル、スクワット、ジャンプ、ベンチプレス等です。
しかし、私が何よりも望んでいたのはケトルベルを持ち上げることだけでした。
私はトレーナーに、これらすべてのエクササイズをしたくない、ケトルベルだけでトレーニングしたいと言いました。そしてケトルベルのトレーニングだけを行うことにしました。

○ Valentine
ケトルベルトレーニング以外のすべてのトレーニングをトレーニングプログラムから無くしたのですか?

● Movsar
はい、ケトルベルだけでトレーニングをすることにしました。
たとえばジャークのトレーニング日では、出来る限り多くジャークをする日があります。

○ Valentine
1回のトレーニングでジャークは何回くらい行うのですか?

● Movsar
32kgのケトルベルを1時間に500回ジャークすることができます。

○ Valentine
1時間で500回もですか!?

● Movsar
毎分15回のペースで1分間ジャークし50秒休憩します。その後、再びジャークします。合計36〜37セットあります。
1分休むと、1時間で500回ジャークを完了する時間がなくなってしまうので50秒の休憩でやっています。毎回このトレーニングを行うわけではありませんが、通常1回のトレーニングセッションのボリュームはジャークで300〜500回くらいです。

○ Valentine
トレーニングするのは短いセットだけですか?

● Movsar
私が計画したトレーニングサイクルは7〜10日で、その期間中にこの様なトレーニングと(1回のトレーニングセッションで合計300〜500回)、7〜8分間のロングセットのトレーニングを1回ずつ行います。
他にはファンクショナルトレーニングと心理的なトレーニングを1回ずつこのトレーニングサイクル中に行います。

○ Valentine
3〜5分の時間のトレーニングはやりませんか?

● Movsar
やらないです。1回のトレーニングサイクルで2回の短いセットのトレーニングセッションとロングセットのトレーニングセッションがあるだけです。またこれらのトレーニングは自分のペースで行います。

○ Valentine
現在のペースはどれくらいなのですか?

● Movsar
1分あたり15回のジャークは私にとって快適です。1分間に16回はまだ難しいです。もしかしたらすでに160回出来る準備は出来ているのかもしれませんが、今はまだ怖いです。

○ Valentine
私達はジャーク160回の新記録はいつ見れますか?

● Movsar
それは神のみぞ知るということでしょう。私も来るその日を見るために頑張ります。

※翻訳者注釈
この翌年の4月の大会でモフサルは見事160回という単独世界記録を樹立しました。またその翌月の2021年5月のヨーロッパ選手権でさらに記録の更新となる162回という大記録を樹立しました。


○ Valentin
次はスナッチについてお話しましょう。あなたのスナッチの記録は、ジャークの素晴らしい記録と比較すると少しパッとしない様に見えるのですが、これまでのところ全ての大きな大会であなたは勝利することができました。今後更に記録伸ばす計画をお持ちだと思いますが、スナッチについてはどの様に考えますか? スナッチのトレーニングにはあまり時間をかけませんか?

● Movsar
私は長い間スナッチのトレーニングをほとんど行ってきませんでした。私はずっとジャークを150回行うことを目標にしており、目標実現に向けてジャークばかりトレーニングしてきました。ジャークに打ち込めば打ち込むほどスナッチトレーニングに費やす時間は本当に少なくなりました。
その目標を達成した後に、私はようやくスナッチのトレーニングを開始しました。
2013年か2014年に、デニス・ヴァシレフに「スナッチのトレーニングをしていなくても心配ない。いずれ自然にスナッチの記録は伸びる。ジャークが上手な選手は皆スナッチも上手だ。しかしスナッチが上手だとしてもジャークが上手だとは限らない。」と言われました。

○ Valentine
現在スナッチはどうですか?

● Movsar
現在は、私はスナッチのやり方を理解しました。それまでは理解していませんでした。
スナッチが上手なアスリートにスナッチのやり方を見せてもらったこともあるのですが、テクニックが理解できませんでした。
スナッチはリラックスして行われなければなりませんが、性格のせいかどうしても苦手でした。(笑)

○ Valentine
現在はスナッチテクニックを理解したのですか?

● Movsar
はい。スナッチのことを少しずつ理解し始めました。
2019年4月にエカテリンブルクで開催されたロシア杯で、私は190回(左手で105回、右手で85回)スナッチを行いましたが、それでも体力と時間に余裕がありました。私はケトルベルを支えるのは靭帯と腱であり、筋肉ではないと気づきました。筋肉が窮屈にならない様に、手はリラックスさせるべきだと認識しました。(ジャークを行わずに行う)スナッチのトレーニングでは、スナッチを左右90回ずつ簡単に行うことができます。
そしてジャークのトレーニングの日は、ジャークを全力で行います。トレーニングで10分ジャークを行った日はスナッチはやりません。150回ジャークをすると、疲労でスナッチのテクニックが失われてしまい、良いトレーニングが出来なくなるからです。

○ Valentine
競技の時のようにスナッチを行う前にジャークを行って予備疲労させる様なトレーニングをすることはありませんか?

● Movsar
そのようなトレーニングを行う場合は、ジャークを7〜8分を行い、その後にスナッチを行うようにしています。私は7~10日毎に実際の競技を想定したような激しいトレーニングを行います。ジムに着いたらウォームアップし、それからジャークをします。その後は1時間休みます。お茶を飲んで、そしてその後はスナッチを全力で行います。

○ Valentin
ジャークでは7〜8分間すると仰っていましたが、スナッチではどうですか?

● Movsar
スナッチでは、常に最高記録を目指します。ケトルベルの重量は常に32kgです。

○ Valentin
他の重さのケトルベル、たとえば30kgや、28、24 kgは使用しませんか?

● Movsar
ジャークで軽い重量を使用してトレーニングすることはありません。使用するとしてもウォームアップのみです。
私は周囲にいつも「28kgのケトルベルで10セットをどの様に行うかよりも、32kgのケトルベルで5セットをどの様に行うかが重要だ」と言っています。
32kgのケトルベルでのトレーニングはすごく私にあっています。まず32kgのケトルベルは負荷が異なります。ラックポジションの肘の固定方法も、呼吸方法も、心肺機能の働きも、体の動きも異なります。

○ Valentin
ロングサイクルは練習しますか?あなたがロングサイクルをやっているところは競技会では見たことがありませんが。

● Movsar
私は一度競技会でロングサイクルを行ったことがあります。昨年のロシア選手権でチームはロングサイクルとバイアスロンの準備をしていました。しかし競技の2日前にチームのロングサイクルの選手が1人怪我をしてしまい、私がロングサイクルをしなければならなくなりました。普段やらないロングサイクルをやるのは興味深かったです。ロングサイクルの練習をすることなく競技をして、65回という記録でした。

○ Valentin
トレーニング無しでそれはとても良い記録ですね。ロングサイクルで競技することを考えたことはありますか?80回の記録が出せれば、メダル争いに加わることができると思います。

● Movsar
ロングサイクリストには少し悪いかもしれませんが、私はロングサイクルがあまり好きではありません。それにテクニックも難しく、またボード上に表示される数が少ないのであまり面白くないのです。

○ Valentin
ランニングはしますか?

● Movsar
いいえ、全く走りません。

○ Valentin
ランニングに換わる有酸素運動はやったりしますか?

● Movsar
朝にウォームアップのためと心肺機能の維持のためにジョギングは始めましたが、速く走ったり長く走ったりということではありません。それに加えて、いくつかの背中のトレーニングを始めました。

○ Valentine
軽めのジョギングでランニングをメインにしたトレーニングは行いませんか?

● Movsar
そうですね。それから私は腰に少し問題がありましたから、ウォームアップ程度のジョギングのみです。腰痛予防のためにごく低強度ですが。背中のトレーニングを始めました。

○ Valentine
モフサル、あなたは2019年と2020年のロシア選手権、そして2019年のロシアカップを優勝しましたが、これらの勝利はどれもあなたにとって簡単な物ではなかったと思います。カザンで開催された2019年のロシア選手権では、2位との差は2ポイントでした。2019年のロシアカップでは、2位と差は僅か1.5ポイントでした。これは非常に僅差だと思いますが、あなたにとって最も強い対戦相手は誰ですか? 

● Movsar
このスポーツを始めた時、優勝するために最初に目標にしていた相手はアレクサンドル・クヴォストフでした。その後はウラジーミル・スミルノフですね。アンドゥリー・ラサディンも、特にスナッチで強いですね。コンスタンチン・ヴァエフもそうです。ヴィチェスラフ・プロトニコフも近いうちに優勝争いに加わる選手になるでしょう。これらのライバルに勝つために私はジャークで出来る限り良い記録を出し、スナッチでは他の皆が追いつけない様にすることを自分自身のタスクとしました。そして遂にロシア選手権と世界選手権を一度で良いから優勝したいという念願が叶って嬉しかったです。

○ Valentine
その念願が叶った時に、「もう一度世界チャンピオンになりたい!」と思いましたか?

● Movsar
はい、もちろんです。でも念願も叶いましたし、自分自身の優勝までの努力を自分自身と周囲に証明することが出来たので、仮に今後ロシア選手権と世界選手権で表彰台に入れなくなったとしても、それほど残念な気持ちにはならないと思います。

○ Valentine
パンデミックの時期についてお話しましょう。
私たちが自宅隔離を余儀なくされてる間、6月に開催予定であったロシア選手権の開催は困難を極め、そして開催の延期が決まりました。そこで延期されたロシア選手権に代わって、あなたのカテゴリーである73kg級の選手がオンラインで集まりオンライン選手権が開催されました。このアイデアがどこから来たのか、そしてみんなはどのように反応したのか教えてください。

● Movsar
オンライン競技会は私の考えでした。私はそれらのそれぞれに別々に話しました。まずアンドゥリー・ラサディン、アレクサンドル・クヴォストフ、コンスタンチン・ヴァエフに話しました。それから私はグループを作り、他の選手にも声をかけ、それからどの様に開催するか議論しました。
始めは28kgのケトルベルを使って、普段のトレーニングを配信するということが提案されました。家でただ座っているだけのは退屈でしたから。ですが、最終的にはロシア選手権が予定されていた日にロシア選手権同様の条件である32 kgのケトルベルで10分間競技し優勝者を決めることにしました。

○ Valentine
では6月6日を開催の日に選択したのは偶然ではなかったのですか?

● Movsar
はい、偶然ではありません。ロシア選手権が行われることになっていた日にオンライン競技会をすることに決めました。
これに同意し競技することになったのは最終的に私を含め5人でした。最初は6〜7人でした。このことは73kgと78kgのカテゴリーで競うすべての人に提案しました。

○ Valentine
オンラインで競技をするということについて皆さんの反応はどうでしたか?カメラの前で競技をすることに対してどのように準備されましたか?

● Movsar
ある選手は自分のアパートで、私は建設中のジムで競技をしました。カメラの前で競技をすることは、実際のロシア選手権よりも簡単ではありませんでした。このイベントは世界中の人が注目するイベントになりました。みんなの注目が集まりました。
それまでは誰もが自宅隔離を余儀なくされ、家では何もすることはありませんでした。それが家の中でカメラの前で競技をし全世界に配信することになったのです。世界中の人ががこれから何が起こるのだろうと期待して私たちを見ていました。すごくドキドキしました。目の前に人はいないけれどカメラの向こうで世界中の人が私たちが見ていると知って、真剣にやらなければならないと思いました。

○ Valentine
出場した選手みんな良い結果を出しましたね。

● Movsar
はい、みんな良い結果を出しました。本物のロシア選手権のようにすべてがうまくいきました。

○ Valentine
どんなアスリートも高い成績をおさめ大会に勝つと、それを賞賛する人たちが現れるのと同様にそれを嫉妬し大会の成績を疑問に思う人も現れます。あなたがどれほど努力したか、出来る事なら私があなたに代わって彼らに説明してあげたいくらいです。

● Movsar
嫉妬深い人というのはどのにでもいますね。彼らは私たちがどのようにトレーニングし、どのように苦境に耐え、どのように結果を出してきたかを見ていません。
私のジムにも同じような人がいて、その人は同僚でもありトレーニング仲間でもあり友人でもあるのですが、彼は85kgのケトルベルを2分間で10回持ち上げた記録を持っていて、またその記録はいまだに破られていません。
私が1人で夜ジムでトレーニングをしている時に彼はやってきてに私のトレーニングが終わるまで見ているのです。彼は私が120回ジャークを行ったのを見て私に「まあ、それは簡単だよね。」と言います。(笑)

○ Valentine
では今度は栄養についてお話ししましょう。サプリメント等は何を使っていますか?

● Movsar
最初のうちはサプリメントにかなり頼っていました。最高のブランドのクレアチン、グルタミン、アミノ酸を摂っていましたが、私の場合サプリメントはあまり効果が無かったようでした。サプリメントを摂っても摂らなくても記録が変わらなかったのです。私のサプリメントに対する知識や摂り方が悪いのかもしれませんが、私にはサプリメントはあまり必要ないというのが今の私の意見です。

○ Valentine
では、今はサプリメント等は摂りませんか?

● Movsar
現在はBCAAのみ摂っています。でもRUSADA(ロシアドーピング委員会)のウェブサイトでチェックしてから使用しています。しかしあくまでサプリメントは、トレーニングのボリュームが多いので体が消耗しないように摂るだけという位置づけです。あとは経済的に可能な限りです。サプリメントよりも、私は食事を正しく食べることに気をつけています。魚と肉を週に2回食べるようにしています。

○ Valentine
あなたは大学での医学を学んでいましたが、この頃の経験が今の栄養学等に活きていますか?

● Movsar
はい、もちろんです。大学にはたくさんの医師や教師がいて私は彼らからいろんなことを学びました。それらが今全て活きています。運動生理学、静力学、トレーニングから回復まで様々です。

○ Valentine
トレーニングに休息日はありますか?

● Movsar
基本的には週に6日のつもりでトレーニングします。休みは1日だけです。しかし疲労を感じた場合に適宜休みます。調子が良い時だけ6日連続でトレーニングします。全ては自身のウェルビーイング次第です。

○ Valentine
あなたはスポーツで生計を立てている訳では無いようですが、現在の主な経済的収入はなんですか?

● Movsar
私は、私が普段トレーニングをしているジムでフィットネストレーナーとしても働いています。
私はいくつかのグループフィットネスを担当しておりますが、ほとんどの方はクロスフィットをやられています。

○ Valentine
そのジムにケトルベルスポーツのグループはありますか?

● Movsar
在籍者は少ないですがあります。男性が数人。しかしチェチェン共和国のチャンピオンシップを勝った選手が2人います。

○ Valentine
チェチェンにケトルベルスポーツの競技会はありますか?

● Movsar
はい、あります。昔ながらの競技会で、使用するケトルベルの重量は重量はほとんど24kgです。

○ Valentine
チェチェン共和国のチームの方々が世界選手権に出場する見込みはありますか?

● Movsar
あるといいのですが。一人期待が持てる若い男の選手がいて、73 kg級で背が高い選手です。彼は24kgのジャークを2か月で100回することができました。そして彼はチェチェン共和国の学生選手権で優勝しました。彼は今も現役です。きっとこれから大きな活躍をすると思います。

○ Valetine
それは非常に期待が持てますね!

● Movsar
はい、しかし私は彼らに何も約束することができません。私たちには連盟も資金もスポンサーもありません。現状、世界選手権に出場するならば自腹を切る必要があります。

○ Valentine
あなたの国チェチェンでのケトルベルスポーツの発展を期待しましょう!
あなたの子供時代について話しましょう。
あなたが5歳のとき、第一次チェチェン紛争が始まりました。この戦争があなたの人生にどのような痕跡を残したか教えてください。戦争を5歳の子供にはどのように見えましたか?

※翻訳者注釈
ロシア連邦の北カフカース地方に位置するチェチェン共和国における、ロシア連邦軍と独立派武装勢力との紛争の総称をチェチェン紛争と呼びます。1994年から1996年にかけて、ロシア連邦からの独立を目指すチェチェン共和国独立派武装勢力と、それを阻止しようとするロシア連邦軍との間で発生した紛争を第一次チェチェン紛争と呼びます。そして1999年から2009年にかけて、チェチェン独立派勢力(チェチェン・イチケリア共和国など)と、ロシア人およびロシア連邦への残留を希望するチェチェン共和国のチェチェン人勢力との間で勃発した紛争を第二次チェチェン紛争と呼びます。第二次チェチェン紛争は、2009年4月16日に国家対テロ委員会は独立派の掃討が完了したとして対テロ作戦地域からの除外を発表し、10年の長きにわたったこの紛争は終結しました。

※資料写真 第一次チェチェン紛争


● Movsar
当時私は5歳で、戦時中のことをよく覚えています。戦争が勃発してから1年後のこと。私は学校に行っていました。小競り合いや爆撃がありましたが、幸いなことに、私の近親者は誰も怪我をしていませんでした。通常、生き残るために皆過激派かもしくは連邦軍に参加しなければなりませんでした。
しかし私の祖父が非常に聡明で、祖父は私たち家族の男の皆をどちらの側にも行かせませんでした。私達は何か食べるものを作るために農業に従事していました。私達の家が砲撃によって損傷したとき、私たちは隣の村に移されました。
しかし、私達は子供であり、起こったことすべてにかなり面白がっていました。

○ Valentine
あなたは事がとても深刻であることを理解していなかったのですか?戦争に対して敵意はありませんでしたか?

● Movsar
はい、よく分かっていませんでした。軍事作戦があった後、私達は残された銃のカートリッジや何かの破片を集めるのが好きで走りまわっていました。もちろん両親は私達を叱りましたが、私達にとってはそれがとても楽しかったのです。
もちろん、大人になった今はそれらがどんなに大変な時代であったかということを理解しています。
もしそのような戦争が今始まったら、私が今どのように感じるかは想像もつきません。 

○ Valentine
正式な終戦がされた時、あなたはもう少し大人になっておりました。しかし、終戦後も敵対行為はすぐには止まりませんでした。その時のことは覚えていますか?

● Movsar
その時は私達は平和に暮らすように努めていました。平和に暮らすように努める場合に限れば、以前より危険ははるかに少なくなりました。
チェチェンの状況はかなり改善していました。難民が戻り始め、スポーツが始まり、家が建てられ始め、電気とガスの供給が回復しました。

○ Valentine
それでは今度はあなたの出生地であるチェチェンの伝統と習慣について話しましょう。イスラム教徒は宗教によってチェチェンに住んでいます。ラマダンについて少し教えてください。それが何であるか、それがどうなるか。

※翻訳者注釈
ラマダンとは、ヒジュラ暦(所謂イスラム歴で、太陰暦)で9月を意味するラマダンは、コーランが預言者ムハンマドに啓示されたイスラム教徒にとって「聖なる月」であり、この月において、ムスリムは日の出から日没にかけて、一切の飲食を断つことにより、空腹や自己犠牲を経験し、飢えた人や平等への共感を育むことを重視します。また親族や友人らと共に苦しい体験を分かち合うことで、ムスリム同士の連帯感は強まり、多くの寄付(ザカート)や施し(イフタール)が行われます。断食中は、飲食を断つだけではなく、喧嘩や悪口や闘争などの忌避されるべきことや、喫煙や性交渉などの欲も断つことにより、自身を清めてイスラム教の信仰心を強めます。

● Movsar
ラマダンは30日間の断食で、年に1回行われます。この期間中は、日の出から日没まで食べたり、飲んだり、歯を磨いたりすることはできません。

○ Valentine
どうして歯を磨けないのですか?これは食事ではありませんよね?

● Movsar
それは誤って水を飲んだり飲み込んだりしないようにするため。もちろん泳ぐこともできません。
日の出前に食事を済ませ、顔を洗い、歯磨きしなければなりません。そしてラマダンらただの断食ではありません。ラマダンにおいて私達は、1年の間に私達に蓄積されたネガティブな要素を全て浄化するのです。

○ Valemtine
日中のみ食事が禁止されているということは、みんな日没が来るのを心待ちにしているのですか?

● Movsar
そうですね。私達はテーブルを準備して日没を心待ちにしています。日没後はなんでも出来ます。

○ Valentine
体が枯渇してしまうのではありませんか?

● Movsar
そんなことはありません。トレーニングの質は良くなりますし、ケトルベルスポーツの成績も良くなります。

○ Valentine
大会に向けて準備をしている期間もラマダンのルールをすべて守っていますか?

● Movsar
はい、小さな子供でもこれらの習慣を守っています。私も最初はラマダンがスポーツに支障をきたすと思っていましたが、そんなことは全くなくむしろ有益なことしかありませんでした。

○ Valentine
チェチェンの特徴と言えば次は衣類ですね。チェチェンの女性は長いドレスとスカートを着ています。そしてまた頭部もスカーフやヒジャブという衣類で覆っていますね。その機能とその理由は何ですか?

※資料写真 19世紀後半のチェチェン人

● Movsar
服装は控えめで下品なものではなくきつくないもの。そして頭を覆う必要があります。

○ Valentine
これらは伝統なのですか?

● Movsar
伝統でありますが、宗教的なルールでもあります。

○ Valentine
皆このルールを守りますか?

● Movsar
100%とは言えませんが、ほとんどの方がこれらのルールを守っていると思います。

○ Valentine
このルールは男女共に適用されるのですか?

● Movsar
はい、男性はショートパンツを着用することはできません。

○ Valentine
チェチェンはかなり暑いと思うのですが、誰もショートパンツを着用しないのですか?

● Movsar
はい、それほど難しくはありません。

○ Valentine
他には、食事の時に女性と男性が別のテーブルに座るルールがありますね。女性の行動には多くの制限があるように思えますが、この理由は何ですか?

● Movsar
確かに男性と女性は異なるテーブルに座るのですが、実際これはそこまで厳密に守られているものという訳でもありません。朝食、昼食、夕食の家族では、全員が同じテーブルに座っています。男性のお客さんが来た時には母も祖母も同じテーブルに座ります。これはおもてなしの表れなのです。

○ Valentine
男性と女性は平等ですか?

● Movsar
もちろんです。また一夫多妻制も許可されています。

○ Valentine
実際にそのような家族はいるのですか?

● Movsar
もちろん、そのような家族がいます。男性の経済的能力に大きく依存します。

○ Valentine
女性はこれを普通に扱いますか?

● Movsar
はい、もちろん。
重要なことは、すべての妻が平等でなければならないということです。1つのドレスを1人の妻に購入したならば、他の妻にもドレスを購入しなければなりません。1つの家を1人の妻のために建てたならば、他の妻にも同様に家を建てなければなりません。

○ Valentine
昨年のインタビューでは、あなたのお母様に対するあなたの態度に注目しました。あなたの言葉から、あなたがお母様のことを人生の中心人物であると認識している様に見えました。もちろん母という存在は多くの人にとって非常に重要ですが、あなたの場合は特に強調されているように思えました。これも国民性の1つですか?

● Movsar
宗教や国籍はあまり重要ではないと思います。私にとって母はいつも最も重要な人物です。母は魂です。どんな母親も子供のために命を捧げる準備ができているように私には思えます。母は神聖で、柔和で、優しい存在です。そして、父は知恵があり、強く、忍耐強く、厳しい存在です。しかし、母に対する態度を言葉で表現するのは難しいので、実際に示す必要があります。あなたの配偶者に対する態度はあなたの母親に対する態度と同じですか?配偶者は公平に扱われなければなりません。多くの人が女性の意見は考慮されていないと感じます。それは正しいことではありません。女性はもっと尊敬されるべきです。
母は家族や人生の中心人物なのです。

○ Valentine
これで私の質問は終わりです。
モフサル、インタビューにお付き合い頂きをありがとうございました!
興味深い情報がたくさんありました。

● Movsar
ご招待ありがとうございました。ご覧の皆様も楽しんでいただけたならば幸いです。

○ Valentine
来たる世界選手権での幸運を祈っています。ありがとうございました!幸運を!

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