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生まれつきの聾の子がどうやって日本語を身につけたか
生まれつき聞こえない子供がどうやって母国語を身につけていくと思われますか?
通常は
生後すぐから赤ちゃんが日々生理的に訴えてくることに、母なり家族なりが赤ちゃんの訴えに応じて行動を返してやることで赤ちゃんは欲求を満たします。
それに言語が乗っています。
お腹が空いたと泣けば
「はい。はい。おっぱいね」
とおっぱいを与えてもらう体験と「おっぱい」という言葉がセットになって「おっぱい」を覚えます。
毎日の生活の中で赤ちゃんの欲求→大人の態度と言葉が繰り返され、それに情緒が乗っかっていきます。
健聴の子の場合、それは自然に身についていきます。
そしてたくさんの「言葉」を聞き溜めていき、2歳くらいになると間違えながらもこれまで蓄積した言葉(聞き溜めって呼んでますが)を2語文などで使っていきながら赤ちゃん自身の言葉と世界は徐々に広がっていきます。
では生まれつき聾児の場合はどうでしょうか?
まず、音の存在自体、気づきません。
物が動いたりした時にする音、
動物の鳴き声、
台所での音、トイレでの音、、全てです。
言葉自体交わされていることすら気づきません。
だからと言って生まれつきの聾児に
初めに「言葉」を「教える」と言うわけにはいかないのです。
聞こえない1歳未満の赤ちゃんに言葉カードなんて示しても全く無駄です。
うちの子は重度聴覚障害で、障害がわかったのは6ヶ月のときでした。
障害がわかるまでは普通の赤ちゃんを育てるかのようにいろいろ話しかけていましたが、
障害がわかった時に、「これまでのは全然聞こえてなかったんかー」と落胆しました。
また、一体どうやってこの子を育てたらいいのだろう??と途方にも暮れました。
聾学校や病院の先生、多くの方のご指導をいただきながら手探りでやってきました。
「経験」、「きもち」、それに「言葉」が乗り、繰り返し繰り返しそれを重ねていくこと。
それがのちに「生きた言葉」となっていきます。
「言葉」を聞いて使えるようになるためにはその言葉の持つ「概念」を知らないと使えるようにならないのです。
私もそうですが、聞こえる子供の成長の上ではそれが自然になされるため、そういったことを別に親が意識しなくても子供の言葉は成長していきます。(もちろん健聴の子にも生きた経験と気持ち、その言葉によるやり取りの回数は必要です)
専門の聾教育機関や病院で相談を受けながら、その子にあった方法を専門家と一緒に長い時間をかけて模索していくことが必要になってきます。
また、人を育てていくという上でも生活の場面に置いて丁寧に子供の関心を観察し、「こころ」の伴ったやり取りが必要です。
その子にぴったりとあった補聴器をつけるのは早いほど越したことはないです。
うちは幼稚部まで口話法オンリーのろう学校でお世話になりました。
赤ちゃん期から手話が入ればまた違ったものになったかもしれません。
しかしたとえ手話が入ったとしても「言葉を教える」というような一方的なことはどちらかというと小学部以降の話です。
赤ちゃん期は音や動物の鳴き声など、音そのものに遊びを通して気づかせていきます。
幼稚部ではろう学校の小さな集団に属し、行事参加や集団での行動というものにふれあいながら、「やってはいけないこと」「やってもいいこと」「誰が何をした」「今自分は何をする時間なのか」これも経験とともに言葉を繰り返していきます。
「言葉」を育てるというより「情緒」を育てると言った感じです。
前置きが長くなりましたが、
次回は赤ちゃん期に音や声の存在を知らせるために作るように聾学校で指導され、ボロボロになるまで使った手作り絵本をご紹介いたします。