レコード棚を総浚い #24:『Billy Joel / Piano Man』
デビュー作『コールド・スプリング・ハーバー』はセールス的には振るわず、ツアーも打ち切り。ビリーは、また弾き語りで糊口を凌ぐ日々となった。
しかし、やはり世界は彼の才能を放っておかなかった。
フィラデルフィアで演奏した『キャプテン・ジャック』という曲のライブ録音が地元のFMで放送され、それがきっかけで再デビューのチャンスを得る。
コロンビアレコードと契約し、ラリー・カールトンを招いて録音したのが、本盤『ピアノ・マン』となる。
苦しかった弾き語りの日々を描いたタイトルトラック『ピアノ・マン』は大ヒットとなり、快進撃は始まった。
ところで、再デビューのきっかけとなった『キャプテン・ジャック』だが、思わぬ偶然からアメリカの政治論争に巻き込まれ、注目を集めることとなった。
2000年のアメリカ上院議員選挙で、ヒラリー・クリントンのスピーチ中に『キャプテン・ジャック』が誤って(本当は『ニューヨークの想い』をかけるはずだったらしい)流れ、その歌詞「今夜キャプテンジャックとハイになろう」を採って、対立候補が、「あなたはドラッグを肯定するのか」と批判したのだそうだ。
ドラッグにでも頼りたくなるようなクソッタレの世界を作り上げた政治の責任には目を背けて、それでも誰かのせいにするのはやめて、こんな生活にはおさらばしようぜと歌うこの歌を「ドラッグの肯定」と言った候補の見識を疑わざるを得ないが、政治の世界に特有のキリトリ案件のまことに見事な事例として、ビリーの歌と共に長く記憶に残るだろう。
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