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なりたくてもなれないアシタカ

映画館でもののけ姫を見た。
ジブリの中でも最も好きな作品である。名言のオンパレード、神がかり的な超常現象とその表現、生死に向き合う登場人物たち…どれも好きだが、やはりアシタカの存在感は格別だ。彼のようになりたい。決してなれないだろうが、彼の凄まじさを追うと憧れは募るばかりだ。

1.呪いと向き合う男

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アシタカは呪いを解くために村を旅立つが、そもそも呪いとは何なのか、どうして発生するのか。冒頭のタタリ神(ナゴの神)についてモロと乙事主が話すシーンにヒントがある。

「やつ(タタリ神となったナゴの神)は死を恐れた。今の私と同じように。(中略)私は逃げずに死を見つめている。」

恐れは共通しているので、逃げずに見つめているかどうかが肝心だとわかる。この場合の「見つめる」は「受け入れる」ということだろう。何らかの暴力に曝されて生じた強い負の感情や、あらかじめ内在する負の感情の暴走こそが呪いだ。そしてタタリ神とは、その負の感情に心を受け渡し、自我を失ったものの成れの果てだ。アシタカはいずれ村の長として生きるために厳しい目に晒されて生きてきたのだろうが、それにしても呪いと向き合う精神力はあまりに強靭で、人間の視座を超えている。ちなみに、劇中の人物の(呪い度)を勝手に判定していくと…

◎アシタカ(1%〜99%)
→蝕まれたアザがどんどん拡大していくが、最後の一線は超えず、決して怒りに我を失うことはない。99%で踏みとどまるという離れ業をやってのけている。
◎サン(50%〜)
→捨てられた子、という呪いに囚われており、基本値が高い。乙事主の暴走に冷静さを欠いた時はタタリ神になりかけている。モロやアシタカ(希望)がいなければタタリ神になっていたかもしれない。
◎モロ(99%)
→自分の負の感情を正面から見据える強靭さがある。アシタカ同様、呪いに飲まれることはない。
◎乙事主(30%〜100%)
はじめは冷静さがあったが、一族が人間との戦いに敗れ、自分の死期も近づく絶望的な状況の中、亡者に取り囲まれることで自我を失い、タタリ神になった。
◎エボシ(0%)
そもそも自分の行動を善としか捉えておらず、呪いに無自覚。怒りや憎しみを見つめていない。
◎ジコ坊(0%)
エボシと同様、自分の行動を疑っておらず、呪われようがない。

アシタカだけが人間なのに人間離れしている事がわかる。かっこいい。

2.驚異の人格者


アシタカはすごいを超えて怖い。何が怖いかというと、彼は「希望がない」のに「歩みを止めない」ところだ。

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よそから流れてきた呪いを受け、死を宣告され、生まれ育った村を追われる。彼は自分の大切な人や場所を守ろうとしたに過ぎないのに。酷い苦しみの中にありながら、それをほとんど顔に出さず、旅を続ける。
しかも、それを覚悟していたと言ってのける。

ヒイさま「アシタカヒコやそなたには自分の運命を見すえる覚悟があるかい」
アシタカ「タタリ神に矢を射るとき心を決めました

そして彼は解けるかどうかも分からない呪いのために旅に出る。エボシという呪いの原因を突き止めてなお、憎しみに喰われない。呪いの原因であるエボシを殺そうと短絡的に考えもしない。箍が外れて呪いが加速すれば、自分が次のタタリ神になる危険を察知してすらいる。

呪い(結果)は解きたいが、人(原因)を責めない器の大きさがあるのだ。もっと言えば、自他の生を決して否定しない。

しかし、そんなアシタカが唯一涙を浮かべる場面がある。シシ神から腹部の傷を癒された折、呪いの痣が消えていないと気づいた時だ。

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唯一の望みが潰えた瞬間である。それでも、呪い(恨み)を転嫁しない。自分のところで留めようとしている。野武士を撃退して殺めることはあるものの、自ら他者に害をなすことは最後までなかった。それでは憎しみが連鎖してしまい、不幸が増えると知っている。でも、知っていても耐えられるだろうか。
あまりにも出来すぎた人格者だ、素晴らしい。

3.それでも、アシタカになりたい。

今であれば直接的な関係性だけでなく、情報すら恨みになるだろう。時空を超えて大多数の人間に一瞬で広まってしまう。この恨みを受けるとアシタカのように呪いを留められる者など稀で、あっという間に器が割れてタタリ神である。
せめてタタリを自覚し、近づかないようにしておきたい。予期して離れたり、受け止めきれる呪いの量を把握したりしておくことで、最後まで理想に近い人として生きることができるだろう。

でなければ、アシタカに近づけない。

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結局、強く、大きくて、美しいものになりたい思いは消えぬ。生きろ!

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