道（La strada） フェデリコ・フェリーニ監督
我が子のIl primo Fellini（初めてのフェリーニ）は「道」(1954)です。生まれて3ヶ月ぐらいで見せました。先日も1歳8ヶ月ぐらいの時に見せたら、結構楽しんでいました。
親が映画をいつも見ているせいか、息子はこういう長時間の映画鑑賞に結構慣れていて、映画内でかならず自分独自の面白ポイントを見つけています。もちろんストーリーは分からないので。例えば電車とか車とか、動物が通ったとか、楽器の音、転ぶ人、何かを叩く音。そういうものが場面に映るために「あっ！」と反応したり、ケタケタ笑ったりしています。目がいいので、全く物語の脈絡と関係ないものを発見して大袈裟に反応したりするので、大人は彼の思わぬ発見にいつも刺激を受けます。
彼がこの『道』でお気に入りのシーンはザンパノとジェルソミーナが村人を集めて芸を披露するところです。ジェルソミーナの鈴と一緒に踊ったりします。
サーカスの場面も好き。ケタケタ笑います。大人はこれを見て正直こんなに笑えません。サーカスはやっぱり子供心を掴むのに長けている。伝統的な、それも万国共通の笑い。
フェリーニの道化師好きは有名で、道化師について映画を撮っているほど。子どもの頃のフェリーニもこうしてサーカスに惹かれていったのだなと、息子をみて思います。
「フェリーニの道化師」に関するレビューはこちら↓↓
さて、「道」で有名な台詞はイルマットがジェルソミーナに教える「小石でも役に立つんだ」です。ジェルソミーナは白痴の女として描かれていて、物覚えが悪いし、料理ができるわけでもないし、自分は役立たずだって思っている。なんなら周りの人もそう思っている。けど、それでも何かの役に立っているんだよ、生きているだけで誰でも何かの役に立っているんだよ。こういう話はネオレアリズモ映画をロッセリーニと撮り続けていた、そのときに培ったネオレアリズモ魂みたいなものを引き継いでいるように見える。似顔絵書きだったフェリーニの映画界デビューはロッセリーニの「防衛都市」だった。ロッセリーニは彼がラジオドラマのシナリオライターであったことに目をつけていた。
彼のシナリオは当時から独特だったと思う。社会から追いやられているような人を題材にすることが多かった。本作だって、当時はこんな女性をヒロインにするなんて珍しかった。ましてやお世辞にも美人とはいえないジュリエッタ・マジーナ。（巨乳で大柄な女が好きなフェリーニはよく映画にそういう女性”Donne di Fellini"を登場させるけれど、結局結婚したのはこういう小柄な女性であったことは不思議である）ハリウッド映画慣れした庶民に、この映画が受けることは、セオリー的には要素として乏しかったと思う。それでもこのストーリーは世界的大ヒットとなった。
最近みて思い始めたのは、ジュリエッタ・マジーナは部分的にもフェリーニとこういう関係の夫婦だったのではないかということだ。ジェルソミーナ、彼女はDVを受けても夫から精神的に逃げられない妻のようにも見える。いくら夫に酷い目にあっても、夫に必要なのは自分だとか信じて、自分を守ることよりも夫を支えることを優先する敬虔な女性。負のスパイラル。精神的奴隷であり、蟻地獄のように見える。家庭内では本人的には健全な関係に見えてしまっていても、他人にはあきらかに不健康な関係である。
これは完全なる憶測だが、ジュリエッタ・マジーナは、フェリーニに対して我慢することが多かったに違いない。きっと女性関係とかもそうだろうし、仕事のことでも多々問題はあっただろう。8 1/2がフェリーニ自身の話であったならば、奥さんの苦労は想像に難くない。（一時期別居していたこともあったらしいし）それでも献身的に支えてきたのだろう。結局自分が一番のフェリーニの理解者であることを信じて。アカデミー賞受賞した時のフェリーニ登壇の際のジュリエッタマジーナをみるとそういうことを憶測してしまう。
イルマットは、ザンパノから逃げるべきか迷うジェルソミーナに「あんなに不器用なやつだけど、きっと君のことを好いているから、ザンパノのそばにいてあげなさい」と背中を押す。フェリーニのヒューマニズム的には、やはりイルマットは天使で、淀川長治の解釈はあっているのだと思う。確かにイルマットは天使のようにやさしいけれど、そして最後自分を犠牲にする様は聖人のようであるけれど。しかし私は一方で家庭内DVを無自覚に後押ししてしまう社会だったり世間の代表にも見えてしまうのである。わたしはこの映画は大好きなんだけれども、現代の日本と照らし合わせると、そういう解釈もしてしまうのです。
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