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紅の豚(PORCO ROSSO) 宮崎駿 【番外編】
息子がよく私のところに「Ecco!(はい!)」と言い持ってくるDVDは宮崎駿の「紅の豚」(イタリア語Ver)。
私も大好きで、(まずタイトルコールのフォントとか、渋くてかっこいい)イタリア語を勉強して、これをイタリア語で見ることができるようになったのがちょっと嬉しい。昔子供の頃は、○○ロードショーで放映してても、途中でよく寝ちゃっていたけれど。一方我が家の息子はよくわかりませんが、じっと目を離さず見ています。やっぱり宮崎駿の飛行機好き目線は、純粋な子供のようなのかもしれない。
宮崎駿の作品で舞台設定の国が明確な作品は珍しい。イタリア・アドリア海、日本人はこの映画のおかげでアドリア海のイメージがいいのではないでしょうか。夫曰く、「アドリア海にあんな高級な別荘があるようなイメージがない」というのですが、どうなんでしょう。ただ以前、高畑勲の本で読んだ限りでは、この映画制作のために、イタリアに綿密に取材に行ったという感じでもありません。
もともとJALをスポンサーに迎えた短編映画を作るつもりで、機内放映のための映画だったそうです。そのためポルコがマンマアイウート団と飛行艇で戦う、あの最初のシーンだけで完結の予定だったそう。しかしストーリー設定が不明確で、鈴木プロデューサーが詰問し続けたところ、(「なぜ主人公がいきなり豚なのか!」など)どんどんと新しいシーン、登場人物が追加されたのだとか。
しかも「おもひでぽろぽろ」の制作の予定をのびに伸ばしていて、スタッフが足りず宮崎駿が一人で絵コンテを起こしている状態だったとか。それでは取材旅行に行く余裕はなかったと憶測します。(その人材不足から、宮崎監督は当時のアニメーション業界では珍しい女性のメインスタッフ起用という策を打ち出します。それが後、「紅の豚」のストーリー内にて、ポルコの飛行機修復の仕事をピッコロ社全員女性でやり遂げるという挿話誕生に繋がります。)
けどやはり宮崎駿のイタリア好きなかんじが端端に見受けられます。まず主人公の名前をPorcoで、人間の時の名前がMarcoとしているところとか、実在した飛行艇、飛行士(Marcoの旧友は実在の人物)はもちろんのこと、ファシストのシンボル、当時ミラノのナヴィリオ運河が埋め立てられる前の状態だったり、昼間に外でだべっているおじいさんの様子とか、なにより飛行機が飛んでいる時の景色・・・宮崎駿が実現したい映像という観点以上に、当時のイタリアを再現しようという意志が伝わります。
あとこれは偶然かもしれないけど、ポルコのことが掲載されている新聞の文言、表現の使い方(形容詞の順番とか)がファシズム時代の頃の表現をちゃんと再現しているそう。ファシズム時代は、よく形容詞を名詞の前につけたり、敬称のLeiも女々しいからと、Voi(今だと”あなたたち”と複数形だけれども)を使わなければならなかったそうです。
ただピッコロおやじが精算をしているときに写る壁の張り紙は
「NON SI FO CREDITO」
これは「NON SI FA CREDITO」(ツケお断り)の誤り。他にも新聞記事もミススペリングはたくさんあります。いずれにしても、監督は少しイタリア語をかじっていた方なのでしょうか。
ところで、マンマアイウートの長が、フィオの演説に対して、
「Mi vergona...」(恥ずかしい・・・)
という場面があります。私はイタリア語の再帰動詞がいまだに苦手で、例えば
Alzarsiは、Alzare(起こす)を自分でするから「Mi alzo」、
Divertirsiは、Divertire(楽しませる)を、あなたたち自身が楽しんで欲しいから「Divertite!」、
などは、再帰動詞である意味がよくわかるのですが、たまに日本語で考えてしまうと「なんでこれが再帰動詞なのよ!」と文句を言いたくなる時があります。覚えるしかないんですけど。
しかしある日、日本語の『恥ずかしい』という言葉は、古来では「立派だ」という意味だったことを(学校でかつて習ったのを)思い出しました。それはつまり、相手が立派すぎて、自分が恥ずかしいというような感情だったわけで、その感情の表現として今は『恥ずかしい』という言葉が残ったということです。
するとこの「紅の豚」をイタリア語で見ていて私はピーンっときたのです。マンマアイウートはフィオの言っていることがもっともすぎて、自分たちのしていることに恥ずかしくなっている・・・!これがVergonarsiだ!となったわけです。(今更?)
ニュアンスが通じるか不安ですが、再帰する感じが古来日本人の言葉の発想と似ていると思ったんです。これは自分の中で大発見でした。案外、昔の人はこんなに遠い国でも考え方は似かよっていたのかもしれないな、と。
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ジーナの秘密の花園、あそこはIsola di Loretoという島がモデルになっているそうです。しかしアドリア海の中にある島ではないのです。Lago d’Iseoという湖の中に浮かぶ島なんです。(このまえ近くまで行っていたのに、行けばよかった・・・)
というわけで、今夜はトマトスパゲッティです。大窯で作ってみんなでたべるトマトスパゲッティはなんとも美味しそうですよね。
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