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ゼミ論文 うつ病患者と健常者における付き合い方のギャップ

目次
1.現状
2.背景
3.目的
4.社会意義
5.先行研究
6.考察
7.研究の課題と今後の方向性
8. 参考文献

 

1.現状

「うつは心の風邪」とされていた以前までの価値観は近年変化しつつある。うつ病患者は世界的に数十年前から増加傾向にある。日本において、厚生労働省が実施した平成19年の労働者健康状態調査によると、過去一年間でメンタルヘルスの理由によって連続一か月以上休業、もしくは退職した労働者がいる事業者の割合は7.6パーセントとしている。また、公立学校の教員の場合に限れば、平成21年度のデータによると、精神疾患による休職者数は5458人で全在職者数の0.6パーセントにのぼり、病気休職者全体の63.3パーセントを占め、全体数割合ともに増加傾向が続いている。(厚生労働省発表 平成20年10月 平成19年労働者健康状況調査結果の概況) 直近では、現在も続く新型コロナウイルスが与えた社会情勢の変化が、うつ病を初めとした心の病を患う人々に対して非常に深刻なダメージを与えた。また、ロシアとウクライナの戦争は現代においても戦争は身近にある事を再認識する結果になっただけでなく、現地の悲惨な状況がメディアを通して世界中の人々に大きな心理的ダメージを与えた。それだけでなく、これらの事象によってこれまでに無い物価上昇を引き起こし、普遍的な私生活の崩壊を引き起こしている。経済協力開発機構(OECD)のメンタルヘルスに関する国際調査によると、日本国内のうつ病・うつ状態の人の割合は、2013年調査では7.9%だったのに対し、新型コロナウイルス流行後の2020年には17.3%と約2倍に増加している。(OECD iLibrary Health at a Glance 2021) このように、人々が置かれる環境によって影響力が変化する事がうつ病の大きな難しさなのだ。このように、情勢のめまぐるしい変化や私生活への不安は、大きな心理的ダメージを引き起こす起因となる一方で、これらの影響がうつ病における様々な種類の発見や、それに起因して起こる多方面への心理的影響の理解を進める事に繋がったポジティブな面も生んでいる。
上記を述べた理由として、うつ病に罹患する人々は自分自身の気持ちの持ちようによって物事を深刻化させているワケでは無く、自分自身を取り巻く環境や社会的情勢が影響してうつ病を発症している事が分かっているからだ。そのことを理解した上で、今後私達が必要になってくる行動は、「うつ病への理解の増進」と「うつ病患者への適切なアプローチ」が必要になると考えられる。これを後押しするデータとして、(若者を対象とした精神疾患病名認知度等の調査 ~思春期・青年期精神病理疫学研究3万人調査サンプルの一部~ (平成21年3月末時点 中間報告)、精神疾患に関する理解の深化 (普及啓発)の現状と論点(案))があるが、これらはうつ病を初めとした精神疾患の認知度を調査しデータ化したものが記載されている。これによるとうつ病をよく認知していると答えた人は若者から高齢者まで踏まえても50%いれば多いというデータになっており、うつ病の理解が非常に少ない現状だと言える。
 これまで様々な方面に焦点を当てたうつ病に関しての文献を読んできたが、今後私達が必要になってくる行動に関連して、大きく二点理解する必要があることがわかった。一つ目は「医薬品」だ。うつ病は大きく分けると大うつ病と双極性障害の二つに分けられるが、細かく細分化すると数えられないほどの膨大な量が存在しているだけでなく、定義づけされていないうつ病も存在しているのでまだまだ謎の多い病気だ。このような難しい問題に対して、「医薬品」に焦点を置いて紐解くと、うつ病を治療する上で必要な治療薬は非常に多く存在しており、それぞれに効能が存在している。現在は全てのうつ病に効果がある万能薬というものは存在しておらず、細分化した症状に対して治療するというアプローチがなされている。また、うつ病は骨折のように外傷として目に見えないだけで、大きく損傷を伴った病気であり、医師からうつ病と診断された場合は、薬を服用するなどして適切な治療が求められる。そして環境にも大きく左右される為、治療には長い時間をかけて付き合って行く必要がある事を理解しなければならない。ここで医薬品に関する内容で抑えておかなければならない点として、風邪と同様の病気だという認知だ。風邪はそれ自体に効果がある薬はないものの、鼻水や喉の痛みといった各症状に効果のある薬が存在しており、細分化した症状に薬を使用するといった点ではうつ病と似ている。しかし、うつ病の場合は新型コロナウイルスの変異株と同様、新たな症状や問題が常に発生する病気である為、風邪と違って終わる見通しが立たない病気である点は理解しておかなければならない。
次に「社会的スキル」に関して述べるが、社会的スキルとは対人コミュニケーション・社会的相互作用・および職業的および個人的な存在の質を高める一連のソフトスキルを指すものだ。簡潔に述べれば「円滑で適応的な対人関係を促す能力」の事であり、この能力がうつ病と密接に関係している事が分かった。上記でも述べた「医薬品」に関する知識が「うつ病への理解の増進」とするならば、「社会的スキル」は「うつ病患者への適切なアプローチ」に関する重要なテーマだ。この裏付けとして、社会的スキルの能力が低いと、社会的スキルが高い人に比べてうつ病を発症しやすいという事実が確認されている。社会的スキルの欠如が抑うつと関係するかに関して、女子中学生1年生から3年生までの計1039人への調査を行った論文があるが、データの値が小さいことで完全に支持できるものでないという前提を踏まえた上で、社会的スキルと抑うつの相関関係について有意義な相関関係の結果が得られた。また、社会的スキルが劣っていた生徒は、その後に抑うつ傾向を高めやすいことが示されるデータが得られている。(社会的スキルの欠如が抑うつに及ぼす影響 ―女子中学生を対象とした場合― 今津芳恵) このように、社会的スキルはうつ病患者に密接に関わっているだけでなく、健常者がうつ病患者と関わっていく上での適切なアプローチを考える上では必要不可欠な知識であり能力だと言える。
 現状のまとめとして、今後私達がうつ病と付き合って行く上で必要になってくる行動は「うつ病への理解の増進」と「うつ病患者への適切なアプローチ」の二点であり、これらを解決する為には「医薬品」と「社会的スキル」に着目し、より細分化して紐解く必要があると考えている。

2.背景


上の図は厚生労働省が発表した心の病気の患者数の状況だ。1996年から2017年にかけて、統合失調症・気分障害・神経症性障害がどのように増加しているのかを棒グラフ化している。また、上記で挙げた三つの障害について、年齢階級別に割合を示したものが丸グラフ化されている。これを見ても分かるように、日本において心の病気(ここでは統合失調症、気分障害、神経症性障害)が2000年代以前から現在に至るまで右肩上がりに増加傾向である事が見て取れる。ゆとり世代の教育や世間の常識の変化によって、若い世代だけの問題だと捉えられがちだが、実は幅広い世代で大きな問題を抱えており、高齢者世代でも多くが見受けられる為、非常に重要な問題として捉える必要がある事がわかる。
また、うつ病の人は世界で推計3億2,200万人に上るとする報告書を世界保健機関(WHO)がこのほど公表した。報告書は、うつに苦しむ人が全世界人口の4%を超えながら、その多くは正しい診断や適切な治療を受けられていないと指摘し、早急な対策の必要性を訴えている。報告書によると、うつ病の人は2015年時点の世界総数推計で3億2,200万人に達し、05年比で18%以上増加した。地域別分布比ではアジア・太平洋地域で世界全体の約48%を占め、アメリカ地域は約15%、欧州地域は約12%だった。年齢別では55〜74歳の発症率が高かった。女性はどの世代でも男性よりも発症率が高く、特に60〜64歳の女性は全人口比で8%近くがうつに悩まされている。国別推計でアジア地域を見ると中国が約5,482万人と際立って多く、次いで日本が約506万人、フィリピンが約330万人だった。推計人数で千万台だったのは、インドの約5,668万人・米国の約1,749万人・ブラジルの約1,155万人など。人口比率が高かったのは、ウクライナ・エストニア・米国・ブラジル・オーストラリア・ギリシャ・ポルトガルなどでいずれも人口比6%前後となっている。日本と中国はいずれも同約4%だった。2015年の世界の自殺者は推計約78万8千人で、15〜29歳の若年層では自殺が死亡原因の2番目を占め、自殺の主要因がうつ病だったとしている。そして、うつ病治療は進歩していながら、治療を適切に受けている人は世界的に見ても少なく、適切な診断や治療を受けている人の割合が10%に満たない国が発展途上国を中心に多いとしている。WHOは、多くの国でうつ病に代表される精神疾患に対する社会の偏見がある上、医療従事者が不足しているなどと問題点を指摘。若年層を対象に地域、学校ごとに予防プログラム実施する重要性などを強調している。
上記からもわかるように、うつ病は世界的な問題として年々重要度が増している問題であり、根本からの解決に向けて早急に取り組む必要がある背景が存在している。

1.目的


 目的は二点ある。「うつ病患者との正しい付き合い方はこれだと提示する事」「私の論文を読むことで、人付き合いをする上で注意しなければならない点を気づく事ができ、意識改革に繋がる」ことの二点だ。医学的観点からの様々なアプローチは、うつ病の解決に大変な貢献をしており、これからもますますの発展が期待される。しかし、現状では医学の面から頼るだけでは根本から解決する事には繋がっておらず、別のアプローチが必要だと考えられる。そこで私は健常者からうつ病患者に対しての正しいアプローチを明確に明記する事によって、私の論文を読むだけで分かる、すなわちうつ病患者とのアプローチにおける取り扱い説明書ができればと考えている。
 

2.社会意義


意義としては、目的でも記載したが、医療の進捗によるうつ病患者の減少が世界的に長年にわたって見られない現在の状況を、健全者のアプローチによって変化させる事ができる価値を持つことだ。これは社会的にうつ病患者を減少させるだけでなく、うつ病という病気の認知と適切なアプローチを理解する事で、「知らない」から「あたり前」に常識を進化させることができる。

3.先行研究

ゼミ前期では、まずうつ病とは何か、またうつ病の種類や対処法などを理解する必要があるとの考えに基づき、北西憲二・中村敬らの「森田療法で読む うつ その理解と治し方」、柏瀬 宏隆の「うつ病治療の課題」を調査した。その上で、社会的見地という観点から物事を見る必要がある事や、国内外における政治体制を理解する必要性があるとの考えに基づき、綿貫譲治 ・三宅一郎・猪 口 孝 ・蒲島郁夫らの「日本人の選挙行動」、山田 政治の「選挙にあらわれた政治意識:島根県の場合」、武者小路 公秀の「フランスにおける国際政治学」を調査した。うつ病に関しての基本的知識や日本における国際政治学の発展の方法、選挙を通して見る政治の選挙行動や政治意識に関して参考になったが、一方でより勉学の必要がある事として、うつ病を紐解く上で必要になってくる人口構造の変化、産業構造の変化による生活環境の変化といった大局的な社会変化、震災や領土問題など一時的な社会情勢の変化、といった局所的な社会変化などの分野における知見の拡大が必要であることがわかった。
ゼミ後期では1.現状においてもしっかりと記載したが「医薬品」と「社会的スキル」に焦点を当てた論文を様々読む事で、私が求める根本の解決に繋げる事ができた。しかし、「うつ病患者との正しい付き合い方」に関して、社会的スキルに深く関係したような先行研究がほとんど見つかっていない事が直近の問題として存在している。ほとんどがうつ病患者自身が薬や環境とどのように付き合うかを記載しているものであり、私が求めているのは健常者とうつ病患者の付き合い方だ。

4.考察


より多くの論文を読む事で、うつ病には社会的スキル(円滑で適応的な対人関係を促す能力)が幼少期のころから大きく関わっている事実が理解できただけでなく、社会的スキル自体はトレーニングすることで大きく改善することが可能という知見を得られた。これはうつ病患者と健全者の付き合い方にも大きく関わってくると捉えられる為、より一層の理解が必要になる。政策の文献を読み取り組む良さと、心理のアンケートなどを使った多角的な視野から見た取り組みのいいとこ取りができるように近づいている。
しかし、私自身の論文が心理的なテーマを用いている事も影響してか、政策科学の観点から取り組んでいるという側面が少なくなっているように思える。自らが正しいと思う方向に取り組めば取り組むほど、より社会学的になっており、捉えづらく難しい方面に向かっている為、修正が必要だと考える。

5.研究の課題と今後の方向性


「うつ病患者と健常者における付き合い方のギャップ」というテーマ設定、「うつ病患者との正しい付き合い方はこれ」と提示するゴールなど、進める上での大筋の道のりを作ることができたが、細かい部分でまだまだ修正が必要だ。また、うつ病患者との正しい付き合い方に関する先行研究が見つからない点は早急に解決する必要がある。私が求めるものは健常者がうつ病患者に対するアプローチ方法に関するものなのだが、どのワードで検索しても、うつ病患者自身が薬・仕事・人とどのように付き合うべきかが記載されている論文が散見されるばかりで、適切な先行研究が見つかっていない。これには下記で記載するアンケートにも関わっており、先行研究で「うつ病患者との正しい付き合い方」に近しいものをみつけて来て(理想の数は2・3個)、それを踏まえてアンケートを取りたいと考えている。
さらに、論文に個性や説得力を持たす為の方法として、政策学部が卒論を記載していく上で求められる「文献を読み込んで記載する良さ」と、心理学部が卒論を記載していく上で求められる「アンケートを積極的に利用して、多角的な視野からデータとして見ることができる良さ」のいいとこ取りをしたいと考えている事について言及する。政策学部のアプローチはできているが、心理学部のようなアプローチができていない。私が取りたいと考えている具体的なアンケート内容は、健常者と罹患者(うつ病患者)に聞き取りを行い、そこでは健常者の考えるうつ病患者への付き合い方と、うつ病患者(罹患者)に聞いたうつ病患者へ行って欲しい付き合い方の隔たりを提示するものにしたい。しかし学校に在中しているカウンセラーによれば、これにはプライバシー問題が密接に関わっており、どのようにうつ病患者にピンポイントでアンケートを取るべきなのかが難しいという事だった。その為次の手段に悩み中である。
そしてうつ病との正しい付き合い方を社会の一つと捉えて、これをどのように政策科学として解決するのかが最大の問題だ。政策科学部としての卒業論文にする為にはといった部分もしっかり捉えなければならない。

6.参考文献

・うつ病治療の課題 柏瀬 宏隆  ja (jst.go.jp)
・日本人の選挙行動 綿貫譲治 ・三宅一郎・猪 口 孝 ・蒲島郁夫著  ja (jst.go.jp)
・森田療法で読む うつ その理解と治し方 北西憲二・中村敬 編 (学校の図書館の本)
・選挙にあらわれた政治意識:島根県の場合
POLITICAL AWARENESS AS REFLECTED IN ELECTIONS:A Case Study of Shimane Prefecture 山田 政治 Yamada M.  ja (jst.go.jp)
・フランスにおける国際政治学 武者小路 公秀 ja (jst.go.jp)
・うつ病による休職者の復職支援について 〜 双極性障害を見逃さないために 〜 大谷 真 * /秋 山 剛  ja (jst.go.jp)
・双極性障害の診断と薬物治療  久住一郎  ja (jst.go.jp)
・特集 最近のうつ病の病型と治療 非定形うつ病とパーソナリティ 多田幸司
1120111091.pdf (jspn.or.jp)
・社会的スキルの欠如が抑うつに及ぼす影響 ―女子中学生を対象とした場合― 今津芳恵 ja (jst.go.jp)
・双極Ⅱ型障害の鑑別診断の重要性 土屋 マチ・赤塚 大樹 16-2.pdf
・「うつ」の人への上手な接し方  utsu.pdf
・うつ病との正しい付き合い方
大阪大学保健センター教授 大阪大学大学院医学系研究科精神健康医学教授 工藤 喬https://japan-who.or.jp/wp-content/themes/rewho/img/PDF/library/061/book6204.pdf
・対人援助者の情緒的・関係的健全性 I  40-3.pdf
・児童の社会的スキル獲得による心理的ストレス軽減効果 ja (jst.go.jp)
・大学生はどんな対人場面を苦手とし、得意とするのか? :コミュニケーション場面に関する自由記述と社会的スキルとの関連  後藤, 学; 大坊, 郁夫  rev後藤.doc (osaka-u.ac.jp)
・厚生労働省 心の病気の患者数の状況
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/18/backdata/01-01-02-09.html
・Science Portal うつ病の人は世界で3億2千万人 WHOが推計
https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20170228_01/index.html
・厚生労働省発表 平成20年10月 平成19年労働者健康状況調査結果の概況
厚生労働省:平成19年 労働者健康状況調査の概況 (mhlw.go.jp)
・OECD Policy Responses to Coronavirus (COVID-19)
Supporting young people’s mental health through the COVID-19 crisis | OECD Policy Responses to Coronavirus (COVID-19) | OECD iLibrary (oecd-ilibrary.org)
・若者を対象とした精神疾患病名認知度等の調査 ~思春期・青年期精神病理疫学研究3万人調査サンプルの一部~ (平成21年3月末時点 中間報告)
s0423-7e_0002.pdf (mhlw.go.jp)
・精神疾患に関する理解の深化 (普及啓発)の現状と論点(案)
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/05/dl/s0529-8c.pdf
・OECD iLibrary Health at a Glance 2021
Care for people with mental health disorders | Health at a Glance 2021 : OECD Indicators | OECD iLibrary (oecd-ilibrary.org)

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ニュートン
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