1)アセチル-L-カルニチンは老化に伴う運動能力や脳機能の低下を回復させる
体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術
ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。
【老化に伴ってミトコンドリアのATP産生能は低下する】
私たちの体は加齢に伴って老化します。体の老化を最初に自覚するのは、体力や持久力や俊敏性など運動能力の衰えです。人によっては、物忘れなど脳機能の低下を自覚するようになって老化を意識する場合もあります。
このような老化に伴う運動能力や脳機能(認知機能や記憶力)の低下の重要な要因としてミトコンドリア機能の低下があります。
体の老化に伴って細胞のミトコンドリア機能が低下し、これが、心臓や骨格筋や神経系やその他の臓器の機能低下の主な原因になっています。
心臓や骨格筋や神経系は組織の酸素消費量が多い臓器です。これらの臓器ではミトコンドリアでの酸素呼吸によってエネルギー(ATP)を産生しています。老化に伴って、これらの臓器の酸素消費量が減っていきます。ミトコンドリアの働きが低下し、酸素消費が減り、ATP産生量が低下するからです。その結果、運動機能や脳機能が低下します。
したがって、体の老化に伴う生理機能の低下を予防するには、ミトコンドリアの量と機能を高めることが重要と考えられます。
【生命はATPを使ってエネルギーのやり取りを行う】
生物は、細胞が活動するエネルギーとしてATPという物質を使います。ATPはAdenosine Triphosphate(アデノシン3リン酸)の略です。
ATPはアデニンという物質にリボースという糖がついたアデノシンに、化学エネルギー物質のリン酸が3個結合したものです。
ATPは分子内に2個の高エネルギーリン酸結合を持ち、ATPがエネルギーとして使用されるとADP(アデノシン2リン酸)とAMP(アデノシン1リン酸)が増えます。リン酸1分子を放出する過程でエネルギーが産生されます。このようにリン酸分子が離れたり、結合したりすることで、エネルギーの放出や貯蔵を行うことができます。
図:ATP(アデノシン3リン酸)は塩基のアデニンにリボースが結合し、そのリボースに3つのリン酸基が並んで結合している分子。ATPから加水分解によってリン酸基が外れるときにエネルギーが放出される。細胞は化学的な仕事を行うために必要なエネルギーの獲得と移動に関してATPを使用しており、ATPは生体内のエネルギー通貨として機能している。
【老化に伴って有酸素運動能力が低下する】
骨格筋が収縮するときのエネルギー源はATP(アデノシン三リン酸)で、ATPがADP(アデノシン二リン酸)とリン酸に分解されるときに発生するエネルギーが筋肉の収縮に使用されます。ATPの貯蔵量は少なく、数秒程度で使いきってしまうので、エネルギーを使ってADPをATPに再合成します。
ATP再合成の仕組みにはクレアチンリン酸系、解糖系、有酸素系の3種類があります。クレアチンリン酸はクレアチンにリン酸が結合した物質で、骨格筋のエネルギー貯蔵物質として働きます。クレアチンキナーゼによってリン酸基が外され、ADPを無酸素的にATPに再合成します。最高の運動強度で約10秒間持続可能で、100メートル競争では主にこの系でエネルギーが産生されます。
解糖系は細胞質でグルコースからピルビン酸を経て乳酸に分解される過程でグルコース1分子あたり2分子のATPを産生します。解糖系は酸素を使わず、最高の運動強度で持続時間は1~2分間程度で、1〜2分程度の中距離走は主に解糖系でエネルギーを産生します。
有酸素系は酸素を使ってミトコンドリアで長時間にわたってATPを産生します。グルコースや脂肪酸などを分解してアセチルCoAが生成され、TCA回路(クエン酸回路)と電子伝達系による酸化的リン酸化によってATPが産生されます。1分子のグルコースあたり32〜38分子のATPが産生されます。
図:ADPからATPの再合成の仕組みにはクレアチンリン酸系、解糖系、有酸素系の3種類がある。最高の運動強度でクレアチニンリン酸系は約10秒間持続可能で、解糖系は1〜2分程度持続できる。この2つは無酸素でATPを再合成できる。2分以上の運動には酸素を使ったミトコンドリアでのATP再合成が必要になる。
主としてこの有酸素系から多くのエネルギーを取り出す運動が有酸素運動であり、有酸素系以外(クレアチンリン酸系と解糖系)からエネルギーを取り出す運動が無酸素運動になります。
運動中に体内に取り込まれる酸素の最大量を「最大酸素摂取量(VO2MAX)」と言います。
VO2MAXはV = 量(volume)、O2 = 酸素、MAX = 最大限(maximum)に由来しています。
加齢に伴って最大酸素消費量(VO2MAX)は低下していきます。加齢に伴って骨格筋の筋肉量が減少し、心臓や骨格筋のミトコンドリアの量と機能が低下し、ミトコンドリアでの酸素呼吸が減少するので、最大酸素摂取量は低下します。
その結果、歩行速度が遅くなり、歩行距離が短くなり、持久力が低下するのです。
図:加齢に伴って骨格筋の筋肉量が減少し、骨格筋や心筋のミトコンドリアの量と機能が低下する。その結果、最大酸素摂取量は減少し、運動機能は低下する。
【アセチルカルニチンは老化に伴う運動低下を回復させる】
これからの高齢化社会で、できるだけ長い期間自分で動けるようにするには、筋肉量とミトコンドリアの機能を高めることが重要になります。
加齢に伴う筋肉量の減少と筋肉のミトコンドリアの量と機能を維持するためには、日頃から有酸素運動を行うことが重要です。
その他にミトコンドリアの量を増やしたり、機能を高めるようなサプリメントや薬があれば役立ちます。アセチル-L-カルニチン(アセチルカルニチン)が、老齢マウスのミトコンドリアの機能を高め、運動機能の低下を減少させることが報告されています。以下のような論文があります。
Acetyl-l-carnitine fed to old rats partially restores mitochondrial function and ambulatory activity.( 老齢ラットに給餌されたアセチル-1-カルニチンは、ミトコンドリア機能および歩行活動を部分的に回復させる)Proc Natl Acad Sci U S A. 1998 Aug 4; 95(16): 9562–9566.
この論文では、若齢(3〜5ヶ月齢)および老齢(22〜28ヶ月齢)のラットに、飲料水中にアセチル-1-カルニチンを1.5%含む飲水を1ヶ月間与え、ミトコンドリア機能および歩行能力を測定しています。
老齢ラットの歩行能力(移動距離の平均値として評価)は、若齢ラットのほぼ3分の1に低下していましたが、アセチル-l-カルニチンの補充によって、年齢と共に減少する細胞の酸素消費を、若いラットのレベルまで増加させることが示されました。
アセチルーl−カルニチンの補充は、若年ラットおよび老齢ラットの両方において、歩行活動を有意に増加させ、その増加は高齢ラットでより大きいという結果でした。老齢ラットへのアセチル-l-カルニチンの補給は、ミトコンドリア機能および全身代謝活性の多くの指標の年齢関連低下を著しく逆転させる効果が確かめられました。
ミトコンドリアを活性化すると、細胞の酸素消費が増え、活性酸素の産生量が増えて細胞の酸化ストレスを高めることになりますが、ミトコンドリアの活性を高めることによって歩行能力を若いレベルに戻すことができます。
つまり、アセチル-l-カルニチンと抗酸化作用のあるサプリメントを摂取すれば、ミトコンドリア機能を高め、活性酸素の害を減らして、抗老化作用が期待できると言えます。
この論文の考察の最後に、R体αリポ酸を投与すると、老齢ラットの細胞の活性酸素の産生を減らし、アセチルカルニチンを投与中でも活性酸素の産生を減らすと記述されています。
R体αリポ酸はピルビン酸脱水素酵素の補酵素として働くので、ミトコンドリアを活性化する作用もあります。ビタミンB1もピルビン酸脱水素酵素の働きに必要です。
したがって、アセチル-l-カルニチンとR体αリポ酸とビタミンB1の併用はミトコンドリアの働きを良くする効果が期待できます。
【アセチル-L-カルニチンはミトコンドリアのタンパク質のアセチル化を亢進する】
アセチル-L-カルニチンがミトコンドリアや核のタンパク質のアセチル化を促進して、遺伝子発現やタンパク質活性に影響することは良く知られています。
アセチル-L-カルニチンはアセチルCoAを増やして、ミトコンドリアタンパク質のアセチル化を増やし、酸化的リン酸化を亢進してミトコンドリア機能を高めることが報告されています。
以下のような論文があります。アセチルカルニチンは若返り作用があるという内容です。
Mitochondria in the elderly: is acetylcarnitine a rejuvenator? (高齢者のミトコンドリア:アセチルカルニチンは若返り薬?)Adv Drug Deliv Rev. 2009 Nov 30; 61(14): 1332–1342.
Acetyl-L-carnitine increases mitochondrial protein acetylation in the aged rat heart.(アセチル-L-カルニチンは老齢ラットの心臓におけるミトコンドリアのタンパク質のアセチル化を増やす)Mech Ageing Dev. 2015 Jan;145:39-50.
老化した動物にアセチル-L-カルニチンを投与すると、心臓のミトコンドリアのタンパク質のアセチル化を増やして、ミトコンドリアのタンパク質の量に影響を及ぼすということです。
つまり、アセチル-L-カルニチンによるミトコンドリア機能の活性化の機序には、タンパク質のアセチル化が重要だということです。
【アセチル-L-カルニチンはアセチルコリンのアセチル基を供給する】
アセチル-L-カルニチン(Acetyl-L-Carnitine)はL-カルニチン(L-Carnitine)にアセチル基(CH3CO-)が結合した体内成分です。(下図)
L-カルニチンは生体の脂質代謝に関与するビタミン様物質です。L-カルニチンは脂肪酸と結合し、脂肪酸をミトコンドリアの内部に運搬する役割を担っています。
脂肪酸を燃焼してエネルギーを産生する際には、脂肪酸を燃焼の場であるミトコンドリアに運ばなければなりません。中鎖脂肪酸(炭素の数が8~12個)の場合は直接ミトコンドリアに入ることができますが、長鎖脂肪酸(炭素数が13以上)の場合は、L-カルニチンが結合しないとミトコンドリアの中に入ることができません。
L-カルニチンは体内で合成されます。食事からは肉に多く含まれます。
体内のL-カルニチンのうち約1割はアセチル-L-カルニチンの状態で存在しています。アセチル-L-カルニチンは、血液脳関門を通過して脳内に到達しアセチルコリン量を増やします。
つまり、アセチル受容体であるコエンザイムA(CoA)にアセ チル基を転移させてアセチルCoAを生成させ、さらにそれがコリンに受け渡され、最終的にアセチルコリンが生成します。
アセチルコリンは副交感神経や運動神経の末端から放出される神経伝達物質で、アセチルコリンの減少はアルツハイマー病との関連が指摘されています。
実際に、アセチル-L-カルニチンはアルツハイマー病初期症状の改善や進行を遅らせる効果が報告されています。高齢者の気分変調や抑うつ症状を軽減する効果や、認知能や記憶を改善する効果も報告されています。
アセチル-L-カルニチンは細胞内でL-カルニチンに変換するので、L-カルニチンと同じ効果(脂質の燃焼促進)があります。
さらに、アセチル-L-カルニチンは神経細胞のダメージの軽減や、ダメージを受けた神経細胞の修復・再生を促進する効果が報告されています。
アセチル-L-カルニチンは心臓や骨格筋や肝臓の老化に伴うミトコンドリア機能の低下を回復させます。長期間のアセチル-L-カルニチンの投与は、心筋細胞や骨格筋細胞のミトコンドリア機能を良くして老化に伴う脳や心臓の機能の低下を抑制します。
アセチル-L-カルニチンは若返り薬として十分なエビデンスがあります。
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