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190)ヘムを増やしてミトコンドリアを活性化する方法

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術190

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。


【ヘモグロビンは鉄を使って酸素を運ぶ】

私たちの体内には、体重60kgで平均4g程度(2〜6gくらい)の鉄が存在します。鉄は全て食事から体内に摂取しています。 

鉄は酸素などの小さな分子と強く特異的に結合する性質があります。体内の鉄の60%くらいはヘモグロビンのヘムとして存在し、酸素を運搬する働きを担っています。 
 
ヘモグロビンは赤血球内に存在する酸素運搬タンパク質です。4つのポリペプチド鎖(サブユニット)から構成され、それぞれのサブユニットに1つのヘムが結合しています。
ヘムの中心にある鉄イオン(Fe²⁺)が酸素分子と結合します。


図:ヘモグロビンはα鎖とβ鎖と呼ばれる2種類のサブユニットから構成される四量体構造をしている。各サブユニットには1つのヘムが結合している。ヘム(Heme)は2価の鉄原子とポルフィリン(プロトポルフィリンIX)から成る錯体で、赤血球中のヘモグロビンは、ヘムの鉄原子が酸素分子と結合することで酸素を運搬する。




【5-アミノレブリン酸はヘム合成を促進する】

ヘム(Heme, Haem)は、鉄(Fe)を含むポルフィリン環を持つ有機化合物で、ヘムの中心には鉄イオン(Fe²⁺またはFe³⁺)があり、これが酸素や電子の輸送に関与し、生物の体内で重要な働きを担っています。
 
ヘムは5-アミノレブリン酸からミトコンドリアで合成されます。5-アミノレブリン酸 (5-aminolevulinic acid:ALA) は、炭素数5で分子量131の動物および植物のミトコンドリアによって生合成される天然のアミノ酸です。

5-アミノレブリン酸はミトコンドリアの中でアミノ酸の一種のグリシンと、クエン酸回路(TCA回路)で生成されるスクシニルCoAという2つの物質から作られます。
 
生成された5-アミノレブリン酸は一度ミトコンドリアの外に出て行きます。細胞内で何種類かのポルフィリンという物質に変化し、再びミトコンドリアに戻ってきます。そして、最終的にプロトポルフィリンIXに変わります。このプロトポルフィリンに鉄がくっついてできたのがヘムという物質です。(下図)


図:ミトコンドリアの中でグリシンとスクシニルCoAから合成された5-アミノレブリン酸は、ミトコンドリアの外に出て、細胞内で何種類かのポルフィリンに変化し、コプロポリフィリノーゲンになって再びミトコンドリアに取り込まれ、最終的にプロトポルフィリンIXに変わる。このプロトポルフィリンに鉄が結合してヘムという物質が作られる。


動物細胞では、8分子の5-アミノレブリン酸 がポルフィリン環を形成して,中心に二価鉄が配位されてヘムになりますが、植物細胞ではプロトポルフィリンIXは、植物の細胞内ではマグネシウムと結合してクロロフィル(葉緑素)になります。クロロフィルは植物が光合成をする上でなくてはならない物質です。
 
ポルフィリンは、鉄、銅、亜鉛などの金属イオンと結合してヘムやクロロフィルなどを形成します。これらの化合物は、生物体内で酸素の運搬(ヘモグロビンとミオグロビン)、電子の移動(シトクロム)、光合成(クロロフィル)など、生命維持に必要な多くの重要な化学反応に関与しています。
 
プロトポルフィリンIXに鉄が結合したヘムは、生物の体内で多くの重要な機能を果たす化合物です。ヘムは主に以下のような役割を果たします。

 
1)酸素輸送: ヘムはヘモグロビンとミオグロビンという2つのタンパク質で中心的な役割を果たしています。ヘモグロビンは赤血球内に存在し、肺で酸素を結合して体の他の部位に運びます。一方、ミオグロビンは筋肉組織に存在し、酸素を保管して筋肉の運動に使用します。
 
2)エネルギー生成: ヘムは細胞内でのエネルギー生成に重要な役割を果たします。特にミトコンドリアの電子伝達系(呼吸鎖)という部位にあるシトクロムというタンパク質はヘムを含んでおり、これがエネルギー生成の過程で電子を輸送します。
 
3)解毒作用: ヘムは肝臓に存在するチトクロームP450という酵素群の一部であり、これが体内に取り込まれた様々な有害物質や薬物を無害化または分解する役割を果たします。
 
4)一酸化窒素の生成: ヘムは一酸化窒素(NO)の生成に関与しています。一酸化窒素は血管の拡張、神経伝達、免疫応答など、多くの生物学的プロセスを調節します。
 
以上の機能は全て、ヘムが鉄イオンを含む能力に起因します。この鉄イオンは酸素や電子や様々な有害物質と結合することができ、それにより上記のような多くの生物学的プロセスを可能にします。

図:5-アミノレブリン酸はプロトポルフィリンIXになり、鉄(Fe)が結合してヘムになる。ヘムはヘモグロビンやシトクロム、カタラーゼ、P450など多くのヘムタンパク質を構成し、細胞内で重要な働きを担っている。植物では、プロトポルフィリンIXにマグネシウム(Mg)が配位されるとクロロフィル(葉緑素)となり、光合成に寄与する。


以上のように、5-アミノレブリン酸(5-aminolevulinic acid、5-ALA)は、ポルフィリン合成経路の最初の生成物です。動物においてはグリシンおよびスクシニルCoAからアミノレブリン酸合成酵素の作用で合成されます。
 
5-アミノレブリン酸は最終的にプロトポルフィリンIXとなり、鉄イオンを配位することで、血液中のヘモグロビンや薬物代謝酵素であるP450を構成するヘムとなります。
さらに、ヘムは食物と酸素からエネルギーを取り出すという、我々の生命活動の根本を担う「呼吸鎖複合体」の中心的物質でもあります。5-ALAがなければ私たちはエネルギーを得る事が出来ず、活動すらできません。

5-ALAはミトコンドリアの機能を高める効果があり、抗老化、食後高血糖対策、脂質減少などの目的でサプリメントとして市販されています。



【ヘム合成を亢進してミトコンドリア機能を促進する方法】

ヘム合成を活性化すると、ミトコンドリアの機能が亢進します。ヘムはミトコンドリア内で重要な役割を果たし、特に呼吸鎖複合体(電子伝達系)に関与するシトクロムなどのタンパク質に必要です。シトクロムは酸素を使ってエネルギーを生成するミトコンドリアのATP合成に直接関与しており、ヘム合成が活性化されることでこれらのミトコンドリア機能が向上することが考えられます。したがって、ヘム合成の促進はミトコンドリアの呼吸鎖活性を向上させ、エネルギー代謝を改善する可能性があります。
 
ヘム合成を促進する方法はいくつかありますが、主に次のような方法が考えられます。


1)鉄の摂取:
ヘム合成には鉄が不可欠です。鉄が不足するとヘム合成が低下しますので、鉄分の摂取を増やすことでヘム合成が促進される可能性があります。鉄はヘムの中心に位置する金属元素であり、ヘムタンパク質の機能を支えます。
 
2)5-アミノレブリン酸(5-ALA):
5-ALAはヘムの前駆体です。5-ALAをサプリメントで補うと、ポルフィリンの合成を促進し、ヘムの合成量を増やします。
 
3)ジクロロ酢酸ナトリウム:
ジクロロ酢酸ナトリウムはピルビン酸脱水素酵素キナーゼを阻害して、ピルビン酸脱水素酵素の活性を高め、ミトコンドリアのアセチルCoAを増やしてエネルギー代謝効率を高め、ミトコンドリア内での酸素利用を改善します。その結果、ヘム合成を促進します。
 

5-アミノレブリン酸+クエン酸第一鉄ナトリウムの組み合わせが、老化性疾患を軽減する可能性が指摘されています。例えば、5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムは健全な筋肉とミトコンドリアを維持することで2型糖尿病の症状を改善するという実験結果が報告されています。

Sodium ferrous citrate and 5-aminolevulinic acid improve type 2 diabetes by maintaining muscle and mitochondrial health.(クエン酸第一鉄ナトリウムと5-アミノレブリン酸は、筋肉とミトコンドリアの健康を維持することで2型糖尿病を改善する)Obesity (Silver Spring). 2023 Apr;31(4):1038-1049.

この研究では、生後6週齢の雄 C57BL/6J マウスに、通常食、高脂肪食、またはクエン酸第一鉄ナトリウムと5-アミノレブリン酸(5-ALA)を添加した高脂肪食を 15 週間与えました。

高脂肪食を与えたマウスに5-ALA+クエン酸第一鉄ナトリウムを同時に補給すると、筋肉量の減少が防止され、筋力が向上し、肥満とインスリン抵抗性が減少しました。


5-ALA+クエン酸第一鉄ナトリウムは、ミトコンドリア形態の異常を防止し、グルコース取り込みやミトコンドリアの酸化的リン酸化関連遺伝子の発現など、骨格筋細胞の遺伝子発現に対する高脂肪食の影響を正常に戻しました。さらに、5-ALA+クエン酸第一鉄ナトリウムはミトコンドリアDNAのコピー数の減少を防ぎました。


つまり、5-アミノレブリン酸と鉄剤(クエン酸第一鉄ナトリウム)の補給が骨格筋とミトコンドリアの健康状態の改善を介して2型糖尿病の予防効果を発揮することを示唆しています。

さらに、5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムはショウジョウバエの筋肉老化を改善し、健康寿命を延長することが報告されています。

5-Aminolevulinic acid and sodium ferrous citrate ameliorate muscle aging and extend healthspan in Drosophila.(5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムはショウジョウバエの筋肉老化を改善し、健康寿命を延長する)FEBS Open Bio. 2022 Jan;12(1):295-305.

ミトコンドリアの機能低下は老化と関係しています。5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムの組み合わせはミトコンドリア機能を改善します。この研究では、ショウジョウバエの成体に、さまざまな濃度の5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムを含むコーンミール餌を与え、運動機能、寿命、筋肉構造、加齢に伴うミトコンドリア機能の変化が分析されました。

その結果、5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムを与えると加齢に伴う運動機能の低下が軽減され、生物の寿命が延びること示されました。さらに、5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムの投与は高齢動物の筋肉構造を保存し、ミトコンドリア膜電位を維持しました。

このように、5-アミノレブリン酸+クエン酸第一鉄ナトリウムの組み合わせが、ミトコンドリア機能を高め、糖尿病や肥満など代謝性疾患を改善し、健康寿命を延ばす可能性が数多くの実験で報告されています。(図)


図:5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムをサプリメントとして補充すると、ミトコンドリア機能を高め、糖尿病や肥満など代謝性疾患を改善し、老化性疾患の進行を抑制し、健康寿命を延ばす可能性が示唆されている。


5-アミノレブリン酸とジクロロ酢酸ナトリウムの相乗効果も多く報告されています。

ジクロロ酢酸ナトリウムは経口投与可能な小分子で、ピルビン酸脱水素酵素キナーゼを阻害することでミトコンドリアへのピルビン酸の流入を増加させ、酸化的リン酸化を促進します。
 
ジクロロ酢酸ナトリウム(sodium dichloroacetate)は、酢酸(CH3COOH)のメチル基(CH3)の2つの水素原子が塩素原子(Cl)に置き換わったジクロロ酢酸(CHCl2COOH)のナトリウム塩です。

ジクロロ酢酸ナトリウムはピルビン酸脱水素酵素キナーゼを阻害することによってピルビン酸脱水素酵素の活性を高める作用があります。ミトコンドリアの異常による代謝性疾患、乳酸アシドーシス、心臓や脳の虚血性疾患の治療などに使用されています。
 
ジクロロ酢酸ナトトリウムによってミトコンドリアを活性化することは、正常細胞に対する5-ALAの抗老化作用を強化します。
 
以上から、5-アミノレブリン酸と鉄剤(クエン酸第一鉄ナトリウム)とジクロロ酢酸ナトリウムの組み合わせは、ミトコンドリアの活性化に極めて有効です。(下図)


図:5-アミノレブリン酸と鉄とジクロロ酢酸ナトリウムの組み合わせは、ミトコンドリアの働きを亢進する。

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