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148)至福をもたらすアナンダミドの増やし方(その4): カンナビジオール

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術148

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。


【内因性カンナビノイド・システムは神経伝達を制御する】

内因性カンナビノイドの代表はアナンダミドと2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)で、これらは細胞膜のリン脂質から合成されます。

神経細胞から分泌されたアナンダミドは細胞膜を通過して細胞質の脂肪酸結合タンパク質(Fatty Acid Binding Protein)と結合して小胞体に運ばれ、小胞体に存在する脂肪酸アミドハイドロラーゼで分解されます。
2-アラキドノイルグリセロールはモノアシルグリセロール・リパーゼ(monoacylglycerol lipase)で分解されます。(下図)


図:内因性カンナビノイドのアナンダミド(①)と2−アラキドノイルグリセロール(②)は細胞膜のリン脂質から合成される(③)。アナンダミドと2−アラキドノイルグリセロールはカンナビノイド受容体のCB1とCB2や、Gタンパク共役型受容体のGPR55やCa透過性の陽イオンチャネルの一種であるTRPV1などに作用して細胞機能を制御している(④)。アナンダミドは脂肪酸アミドハイドロラーゼ(fatty acid amide hydrolase: FAAH)によってアラキドン酸とエタノールアミンに分解され(⑤)、2-アラキドノイルグリセロールはモノアシルグリセロール・リパーゼ(monoacylglycerol lipase; MGL)によってアラキドン酸とグリセロールに分解される(⑥)。 


アナンダミドと2-AG以外にも内因性カンナビノイドシステムに作用する脂質メディエーターが同定されています。
 
内因性カンナビノイド・システムは他の神経伝達物質の分泌を抑制することによって神経伝達を制御するというユニークは作用機序を持っています。抑制系の神経伝達物質のGABA(γアミノ酪酸)や興奮系の神経伝達物質のグルタミン酸のシナプス間の放出を抑制するのです。
 
シナプスというのは2つの神経細胞(ニューロン)の接合部で、神経細胞間のシグナル伝達を行う部分です。通常の神経伝達物質はシナプス前ニューロンのシナプス小胞に貯蔵されて、刺激が来てシナプス間に放出されます。
 
神経細胞に刺激が伝わると、シナプス前ニューロンから神経伝達物質が放出され、シナプス後ニューロンにある受容体に作用して神経間のシグナルの伝達が行われます。
 
内因性カンナビノイドはシナプス後ニューロンから放出されて、シナプス前ニューロンに逆行性に作用して、伝達物質の放出を抑制するのです。これを逆行性シナプス伝達と言います。内因性カンナビノイドはシナプスの刺激に応じて、シナプス後ニューロンの細胞膜のリン脂質からオンデマンドで合成されて放出されてシナプス前ニューロンに作用するのです。(下図)


図:神経を伝って刺激がシナプスに達すると、シナプス小胞が細胞膜に癒合して神経伝達物質がシナプス間隙に放出され(①)、拡散した神経伝達物質がシナプス後細胞に存在する受容体に結合することで刺激が伝達される(②)。刺激を受けたシナプス後細胞では内因性カンナビノイドのアナンダミド(AEA)や2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)が合成されて細胞外に放出され(③)、逆行性シナプス伝達(④)としてシナプス前細胞に存在するCB1受容体に結合して(⑤)、神経伝達物質の産生・放出を抑制する(⑥)。
 
 
内因性カンナビノイド・システムは運動、学習、記憶、感情、薬物依存、食欲、エネルギー代謝、疼痛などの制御に重要な働きを担っています。さらに、循環器系や免疫系や消化器系の働きの制御も行っています。
 
栄養素の吸収やエネルギー産生に関わる消化管、肝臓、膵臓、脾臓、骨格筋、脂肪組織にCB1とCB2が分布しており、内因性カンナビノイド・システムが食欲やエネルギー産生のバランスの制御に働いています。生体が生きていくための根幹を制御するシステムと言えます。



【カンナビジオールはアナンダミドの分解を阻害する】

カンナビノイド受容体のCB1を活性化すれば幸福感を得ることができます。大麻の場合はΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)がCB1のリガンドになりますが、日本ではTHCの入った大麻製剤は大麻取締法によって所持や使用が禁止されています。THCは大麻からしか見つかっていませんが、現時点では大麻は日本では使用できないのです。
 
最近、内因性カンナビノイドのアナンダミドを分解する脂肪酸アミドハイドロラーゼ(fatty acid amide hydrolase: FAAH)の阻害剤が創薬のターゲットとして注目されています。FAAHを阻害して体内のアナンダミドを増やすことによって大麻のTHCと類似の薬効を発現させようという狙いです。

THCに次いで大麻の重要なカンビノイドのカンナビジオール(CBD)がアナンダミドの分解を阻害する作用があることが報告されています。
 
CBDはカンナビノイド受容体のCB1とCB2には作用しないためTHCのような精神作用はありません。その他の受容体(セロトニン受容体の5-HT1Aなど)やイオンチャネル(TRPV1やTRPV2など)に作用して多彩な作用を発揮します。CB1やCB2やGPR55に対してはアンタゴニスト(阻害剤)として作用します。その結果、THCとは全く異なる作用を発揮し、THCの副作用を軽減する作用もあります。(下図)


図:大麻の薬効成分の主体は、Δ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)とカンナビジオール(CBD)で、この2つは全く異なる作用機序と薬効を示す。THCは脳内報酬系を活性化して依存性があり、精神作用(気分を高揚する作用)がある。一方、CBDには精神作用はなく、脳内報酬系を抑制して薬物依存を阻止する作用がある。


カンナビジオールには抗精神病作用があります。この作用は血中のアナンダミドの上昇と有意な関連が認められており、カンナビジオールがアナンダミドの分解酵素の脂肪酸アミドハイドロラーゼ(fatty acid amide hydrolase: FAAH)の活性を阻害することによってアナンダミドを増やし、抗精神病作用を発揮する可能性が報告されています。

FAAHの阻害はアナンダミドだけでなく、他の脂肪酸エタノールアミド(palmitoylethanolamide や oleoylethanolamide)の分解も阻害します。
 
In vitroの実験では、マウスの神経芽細胞腫細胞(N18TG2)の細胞膜試料、マウスの脳のミクロゾーム、ラットの脳の細胞膜において、カンナビジオールはFAAHを阻害しました。

さらに、カンナビジオールはアナンダミドのトランスポーターを阻害し、好塩基球系の白血病細胞(RBL-2H3)によるアナンダミドの取込みを阻害しました。FAAH-like anandamide transporter (FLAT)というアナンダミドのトランスポーターが同定されています。

FLATはFaah-1遺伝子のスプライシング変異によるタンパク質であるため、カンナビジオールはFAAHとFLATの両方のタンパク質の同じような部位に結合して、両方のタンパク質を阻害し、アナンダミドの分解と細胞内取り込みを阻害している可能性があります。
 
しかしながら、最近の研究では、カンナビジオールはヒトのFAAH酵素を阻害しないことが報告されています。ラットやマウスのFAAH酵素は阻害するがヒトのFAAH酵素は阻害しないという報告です。
 
しかし、カンナビジオールは、アナンダミドや他のN-アセチルエタノールアミンの細胞内輸送体として作用する脂肪酸結合タンパク質(fatty acid-binding proteins)と結合することが報告されています。カンナビジオールは脂肪酸結合タンパク質の結合においてアナンダミドと競合することにおいて、人間においてアナンダミドの分解を減少させると結論づけています。
以下のような報告があります。

Fatty Acid-Binding Proteins (FABPs) Are Intracellular Carriers for Δ9-tetrahydrocannabinol (THC) and Cannabidiol (CBD)(脂肪酸結合タンパク質はΔ9-テトラヒドロカンナビノールとカンナビジオールの細胞内キャリアである)J Biol Chem. 2015 Apr 3;290(14):8711-21.

【要旨の抜粋】
Δ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)およびカンナビジオール(CBD)は、マリファナ(大麻)に存在し、個別にまたは組み合わせて医薬品として使用されている。

これらの疎水性化合物はアルブミンまたはリポタンパク質によって血中に輸送されることが知られているが、細胞内担体は同定されていない。

最近の報告では、CBDとTHCをヒトに投与するとエンドカンナビノイドのアナンダミド(AEA)の濃度が上昇することが報告されており、植物カンナビノイドが内因性カンナビノイドのクリアランスに関与する細胞タンパク質を標的とすることが示唆されている。

脂肪酸結合タンパク質(Fatty acid-binding proteins :FABP)は、アナンダミドをその分解酵素の脂肪酸アミドハンドロラーゼ(fatty acid amide hydrolase:FAAH)の局在部位に輸送する細胞内タンパク質である。

コンピュータ分析とリガンド置換アッセイにより、我々は、少なくとも3つのヒトFABP(脂肪酸結合タンパク質)がTHCとCBDに結合することを示し、THCとCBDがFABPをターゲットにすることにより、アナンダミドの細胞内取り込みと分解を阻害することを示した。

さらに、齧歯類のFAAH(脂肪酸アミドハイドロラーゼ)とは対照的に、CBDは人間のFAAHの酵素作用を阻害しないため、FAAHの阻害は、CBD摂取に続く血中アナンダミドの増加を説明できない。

FABP(脂肪酸結合タンパク質)に対するCBDの競合作用は、植物カンナビノイドの摂取後に見られるエンドカンナビノイドの血中レベルの上昇を部分的または完全に説明する可能性がある。

これらのデータは、生体内での内因性カンナビノイドの制御におけるCBDの作用メカニズムを示し、てんかんや他の神経障害に対するそのCBDの有効性とも関連する。
 
 

脂肪酸結合タンパク質がカンナビジオールによって占拠されれば、アナンダミドは小胞体に存在するFAAH(脂肪酸アミドハイドロラーゼ)に輸送されないので、分解されずに、血中のアナンダミドの濃度は上昇するというメカニズムです。(下図)


図:神経細胞間で刺激によってアナンダミドが合成され(①)、細胞外に放出されて細胞膜のカンナビノイド受容体に結合して作用を発揮する(②)。一方、細胞内では、アナンダミドは脂肪酸結合タンパク質(fatty acid-binding proteins:FABP)に結合して(③)、細胞内を運搬され小胞体の脂肪酸アミドハイドロラーゼ(fatty acid amide hydrolase:FAAH)で分解される(④)。カンナビジオール(CBD)はFABPと結合して、FABPとアナンダミドの結合を阻害する作用がある(⑤)。その結果、アナンダミドの濃度が高まる。アナンダミドはカンナビノイド受容体CB1を活性化する。つまり、CBDはFABPの働きを阻害する機序でアナンダミドを増やす。
 
 
 
CBDはカンナビノイド受容体のCB1とCB2には作用しないためTHCのような精神作用はありません。その他の受容体(セロトニン受容体の5-HT1Aなど)やイオンチャネル(TRPV1やTRPV2など)に作用して多彩な作用を発揮します。CB1やCB2やGPR55に対してはアンタゴニスト(阻害剤)として作用します。GPR55はリゾホスファチジルイノシトール(LPI)を内因性リガンドとする受容体です。CBDはPPARγを活性化します。(下図)


図:カンナビジオール(Cannabidiol)は様々な受容体に作用して、その働きに影響する。図内の(+)はその受容体にアゴニスト(作動薬)として作用して受容体を刺激する。(−)は拮抗的あるいは阻害的に作用してその受容体の働きを抑制する。カンナビノイド受容体のCB1とCB2に対してカンナビジオールは阻害作用を示す。カンナビジオールはセロトニン受容体の5-HT1A受容体とTRPV1-2バニロイド受容体とPPARγ(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ)を活性化する。その他にも様々な受容体やタンパク質と作用して活性化や阻害の作用を示し、これらの総合的な作用によって多彩なメカニズムで薬効を発揮する。(図はBr J Clin Pharmacol 75(2):303-312, 2012年のFigure 2より改変)



【自己使用によるCBDユーザーが増えている】

米国では、さまざまな健康状態に対してカンナビジオール(CBD)製品を自己投与することが一般的になっています。以下のような報告があります。

Long-Term, Self-Dosing CBD Users: Indications, Dosage, and Self-Perceptions on General Health/Symptoms and Drug Use.(長期の自己投与 CBD ユーザー: 一般的な健康状態/症状および薬物使用に関する適応症、投与量、自己認識) Med Cannabis Cannabinoids. 2023 Jan-Dec; 6(1): 77–88.

この論文では、1ヶ月間以上CBDを自己使用している米国全土の 18 ~ 75 歳の成人1160人を調査した結果が報告されています。

自己申告による主な使用理由は慢性疼痛(腰痛、関節痛)、精神的健康(不安、ストレス、うつ症状)、一般的な健康増進、睡眠障害などでした。その他、中枢神経系疾患(線維筋痛症、筋けいれん、てんかん)や消化器系疾患(過敏性腸症候群、クローン病、潰瘍性大腸炎)、炎症性疾患などを目的に使用されていました。

1日の摂取量の平均は53.1 mg、中央値は40.8mg(範囲:8〜390mg)でした。4週間服用して市販薬(薬局やドラッグストアなどで処方箋なしで入手できる薬)を減少または中止した人は31.2%で、医師からの処方薬を減少または中止した人は19.2%でした。これはCBDが症状の改善に有効であったことを示唆しています。
 
慢性疼痛のためにCBDを摂取している人が最も薬物使用を減らしました。慢性疼痛のためにCBDを摂取している人の42.4%が市販薬の使用を減らすか中止し、24.4%が処方薬の使用を減らすか中止しました。つまり、CBDは確実な疼痛軽減効果を発揮することを示唆しています。
 
日本でもカンナビジオールを自己使用している人が増えています。
カンナビジオールを不安、ストレス、うつ症状の改善などメンタルヘルスに自己使用する人が増えていますが、アナンダミドを増やす作用はそのメカニズムの一つと考えられています。

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