桜シンセサイザー
懐古主義という言葉がすっかり定着してアナログ至上主義にまで昇華した頃、外には雨が降っていた。
夜桜にはしっとりと雨がついて、しずくの落ちる音まで聞こえてきそうだ。夜は優しくて少し暖かい。たまには少し湿った話でもしよう。彼はそう言うと缶コーヒーのプルトップをカシュッと開けた。譜面の紙がなくなったから彼はお別れをしたそうだ。いつまでも曲が書けそうなそんな譜面だったのに。春はあっという間に過ぎていった。夏も嵐と一緒にどこかに消えた。秋が来て冬が来て、秋が来て冬が来て。あっという間に季節は過ぎて今はおそらく春らしい。