与太法師
へぇ。私の話を買ってくださるんで。ええ。店のご主人がおっしゃるように酒一合で承っております。
あぁぁ。どうもありがとうございます。熱燗で。へぃ。あー塩も少し。はい。ありがとうございます。
お客さんは一人で。なるほど尾張からこの江戸まで。旅の土産話に私の話を。それはそれは。では始めさせていただきます。
さて。今はこんなふうに琵琶法師をしていつ死ぬかわからないような毎日を送っておりますが、昔は私も両目が見えておりました。お医者様からはもう早いうちに目の奥の晶が緑色になって失明するだろうと言われておりまして、琵琶を習う傍ら、見えている間に色々な世間を見ておこうと全国行脚の旅に出たのでございます。琵琶一つ、身体一つの一人旅。道中では色々なことがございました。今日はその時の話を一つさせていただきます。