銀座花伝MAGAZINE vol.2
「いま、生まれ変わるチャンス!」「この時間を大切にしましょう」
銀座で新しく起きている「日本文化が持つ美意識」をお伝えするペー
ジ。今は「美意識」を企画や経営の判断基準にする時代です。
400年という時間のふるいをくぐりぬけた「日々の暮らしを豊かにす
る美意識」にあふれる街・銀座。あなたの幸福感を新たに満たす「美
のかけら」発見していきます。
銀座はもとより、世界中の人々が仕事やくらしに悩み戸惑いながら自分に出来る事を続けています。よりより日が来る事を願い日本人の感性を文化発信し続ける銀座の店主や能役者の姿をおとどけします。
1 おうちで小津安二郎の世界観(東哉TOSAI)
銀座8丁目銀座中央通沿いの銀座資生堂ビル裏手にある金春通り。江戸時代に徳川家康から屋敷を拝領した能楽の金春屋敷があったことからこの名がつけられました。老舗陶芸店「東哉」はひっそりとこの場所に佇んでいます。日本映画の巨匠と言われる小津安二郎が愛した店として知られています。
小津安二郎は、映画の撮影の際にこの老舗の焼き物を小道具として設える事を決めていたと云います。場面一コマの「格」が一つの湯呑み、一つの小物で決まるからだ、と述べています。すっきりとした「粋上品」の世界観が、巨匠の美意識とぴったりだったからなのでしょう。
↓小津安二郎愛用の湯呑み。しばしば映画に登場した。今でも、この湯呑み欲しさにお店を訪れる人が後を断たないという。
自宅の食卓で四季を感じるには?
創業100年を超える東哉の松村女将に、自宅でできる季節感のある器の工夫について伺ってみます。
「日本の器が海外のそれと最も異なるのは、季節感を出せるところです。そのために一つだけ選ぶとしたら箸置きです。初夏を思わせる【青竹】なんか置いてみてはどうでしょう。初夏の風がふわ〜と流れる様な感覚になりますよ」
初夏の彩り、菖蒲の花の色も素敵です。
「それから、蕎麦口を湯呑みに使ったりして、本来とは違う使い方を変幻自在にできるのも和の器の魅力です。「季節」はデザインだけでなく色感によって表現できますから。たとえば、酒器を小鉢として使って塩昆布や黒豆などを入れてご飯茶椀に寄り添わせるだけで、ちょっと夏の青葉を感じることができます」
↓酒器 高彩 雲彩り 段付
「それからお皿には季節の花が描かれることが多いです。今でしたら、菖蒲が描かれた器に、お造りなんかも粋ですね。デパートのお惣菜だってこんなお皿によそったら見違えるような四季感が生まれます。日本人の素晴らしい美意識をもっととり入れたいですね」
↓皿 仁清 朱金彩 菖蒲
和の器は一度に揃えずに、ひとつひとつ楽しみ乍ら足して行くのが風流。
今ある食器に加えることで、少しずつ貴方らしい新しい空間が生まれます。
【老舗の逸品】
歌舞伎役者の市川海老蔵さんも東哉の大ファンで、襲名引き出物は東哉で作陶しました。
食卓を彩る心得
● 「箸置き」で四季を彩る
● 一つの器でいくつもの使い方をしてみる
● 自分の手持ちをみながら、ひとつづつ加える
現在は閉店中ですが、お電話でのお問い合わせには応じています。HPからアクセスしてください。
2 穏やかなくつろぎ時間 (銀座みかわや)
ここのサラダがすばらしい。
素材にこだわったアスパラサラダは、国産野菜への愛情にあふれています。美しく、大地を感じさせる旨味。丁寧な仕事ぶりが口に入れた瞬間に分ります。
「長い時間をかけて完成し続けている味ですから」と渡仲店主。
120年銀座で生き続ける老舗洋食レストラン。銀座の洋食文化ここにあり!コロナ禍の最中も、心強いファンに支えられて時間短縮、テイクアウト等の工夫をしながら細々とその伝説の料理を提供し続けています。目で楽しむ「伝説の逸品」をどうぞ!
美しい前菜
国産アスパラの耀き!
最高級 ハンバーグ
何時間も漉し続けたデミグラスソースの透明感のある味に驚き!
伝説の天然エビフライ!
昔は蔦が絡まる風情あるレストランで有名でした。今では趣はモダンになったものの、しっとりとした穏やかな時間を過ごせる予感にあふれる店先の雰囲気です。
銀座らしいおもてなしに惹かれて、いまでも創業当時からのファンが通い続けます。
いかがでしたか? 銀座の伝説の味。
ごちそうさまでした!
*営業時間を確認してからお出かけください。テイクアウト等は電話予約を。
3たくさんの灯りはいらない (観世流坂口貴信の世界)
銀座の【美意識】は江戸時代に徳川家康により銀座に屋敷を拝領した能楽四座(観世、金春、宝生、金剛)が伝承してきた「世阿弥の心」が源流です。700年前に世阿弥が完成させた能楽はあらゆる日本芸能の要となって、歌舞伎、日本舞踊等々の発展にも寄与してきました。 2017年に銀座(GINZA SIX)に観世能楽堂が150年ぶりに帰還して以来、銀座を中心に新たな能楽の魅力への関心が高まっています。
さて、現代の世阿弥と称される美しい能の体現者といえば、観世流シテ方 坂口貴信能楽師。コロナの影響で6月7日に予定されていた「観世定期能」での能舞台「海士」–懐中の舞—は中止、夏のオリンピック中に予定されていた銀座東映を舞台とした上演企画「体感型スペクタル能」—神・鬼・麗 三大能—でも主演シテ方を務める予定でしたが残念乍ら来年に延期となりました。
現在観世能楽堂は能舞台閉鎖の状況が続いています。700年の能の歴史を絶
やしてはならない!そんな気魄に満ちた心意気で能楽師達は毎日厳しい稽古を続けています。能楽師はひとりひとりが芸能を伝承する事を仕事にする謂わば自営業者です。稽古の結果をお客様に見て頂けない今この時の苦しさを抱えながら、さらに美しい芸に昇華し披露する瞬間を夢見ての努力が続けられています。
坂口貴信能楽師は、東京芸術大学を経て観世流御宗家・観世清和氏の内弟子として8年修行し独立して10年の能楽師です。観世流の中でも最も稽古熱心な能楽師として知られ、能楽界の次世代を継ぐ若き獅子として注目されています。師の能舞台の崇高さ、美しさを一度なりとも体験された方なら想像できると思いますが、余計なものを全て剥ぎ取ってもなお、美しいその所作、表現力に目を見張ります。それは人間・坂口貴信その人にフォースがあるからだ、と絶賛した演劇人もいるほどです。
観世宗家との坂口師の共演をアーカイブで紐解くと、2016年のNYリンカーンセンターでの「葵上」能舞台では、六条御息所の生霊役は観世清和師(シテ)が務められ、後場での夜叉面の迫力演技は後々語られるほどの名演でした。その時の巫女を坂口貴信師が(ツレ)を務められています。
世界中の文化、演技者が集まる最大の文化フェスティバル。演目は「翁」「羽衣」「葵上」など能の名作が演じられたと伝えられます。
坂口貴信師ご自身に伺うと師が最も愛する能演目は「葵上」(あおいのうえ)だとか。
【葵上】あらすじ
光源氏をめぐる恋の葛藤。鬼女となってライバル葵上を襲う六条御息所(みやすどころ)の怨念を描く物語。題名は「葵上」ですが、実際には葵上は登場せず、舞台正面に一枚の小袖が置かれこれが物の怪に取り憑かれて苦しむ葵上を表すという趣向で舞台は進みます。一番の見どころは、鬼に変貌しても気品を失わない点や前場の最後に扇を投げ捨て、着ていた上着を引き被って姿を消す場面での感情表現の高揚とダイナミックスさだといえます。
坂口師はこの葵上の豹変ぶりが、沢山の能楽演目の中でも最もやりがいのある、能の面白さに満ちた物語仕立てになっている点であるとおっしゃいます。大上段の能舞台表現はもとより、この能の魅力は【源氏物語】らしい雰囲気を醸し出すための数々仕掛けがあり、特に前半の見せ場の謡では「源氏物語」の巻名がちりばめられていて、謡を堪能できる点も極上の能と呼ばれる理由です。
坂口貴信師の能公演、先行予約が始まりました。
さて、待ちに待った坂口貴信師の今秋能公演は世阿弥の名作「砧」(きぬた)となります。見所は何といっても、間役を演じる野村萬斎師との共演です。主な演目は以下の通りです。
【坂口貴信の會】
2020年9月19日(土)14時開演 於観世能楽堂(GINZA SIX地下3階)
演目
一調 「女郎花」(おみなえし) 観世宗家 観世清和
大鼓 亀井広忠
能 「砧」(きぬた) 前シテ/後シテ 坂口貴信 ツレ 谷本健吾
間/下人 野村萬斎
大鼓 亀井忠雄
小鼓 飯田清一 笛 松田弘之
お問い合わせ
坂口貴信の會事務局・オフィス能プロ→nohpro.9610mnod@gmail.com
◉↓観世能楽堂(一般チケット販売)販売開始6/10 10時〜 席詳細などは観世能楽堂 公演情報9/19チラシをご参照ください。
【能トピックス】観世流宗家 観世清和師インタヴュー記事
謡は「聞く」ものでなはなく、五感で「浴びる」もの
4 ESSAY おうちで和歌散歩
ー歌や詩を暮らしの中に取り入れるー
もともと詩歌は、地球上のあらゆる民族にとって、その民族の言語誕生と共にありました。日本の大和言葉をみても人の感情(喜怒哀楽)や祈りの最も大切な表現手段だと云う事が分ります。更にその詩歌を声に出してみると、心の中に不思議な高揚感が生まれる事に気づきます。
詩人の大岡信さんによれば、「“目”が“声”を呼び起こす時はじめて、詩歌(作品)は真に具体的に読者一人一人のものになる」からだと述べています。
前号(vol.1)で和歌的暮らしの話を書かせて頂きましたら、早速「銀座能LOVER」さんが素敵な歌を送ってくださいました。
今日の一日一歌(詩)
咲く桜 残る桜も 散る桜
ー良寛和尚ー
良寛さんの歌もいいですね。
外出自粛の折ではありますが【ひとり散歩】だけはOKです。早朝散歩に出かける時、大和言葉の美しい詩を一編だけノートに書きとめ、散歩の道中声を出して詠んで見ます。おどろくような清々しさが身体中を駆け巡ります。古代の人々の声に耳を傾ける時間をあなたも創ってみてはいかがでしょう。
5銀座情報
Hanako 5月号(マガジンハウス社)【銀座書店員が選ぶ銀座本8選】に「銀座が先生」岩田理栄子著(芸術新聞社)が選ばれました。「その道一筋の店主に学ぶ、ありそうでなかった銀座魅力本」長く愛されている「育つ本」として評価頂きました。
選者は、「森岡書店」「銀座蔦屋書店」「GINZA MUJI BOOKS」「銀座教文館」など銀座に書店をもつ書店員の皆さんです。
【書店員が選ぶ銀座本8選】
1「荷風と私の銀座百年」永井永光著 2,000円(白水社)
2「銀座喫茶店ものがたり」村松友視著 660円(文春文庫)
3「銀座が先生」岩田理栄子著 1,800円(芸術新聞社)
4「Every Building on the Ginza」写真集 ホンマタカシ著
4,800円(limArt)
5「銀座のすし」山田五郎著 500円 (文春文庫)
6「銀座ウエストのひみつ」木村衣有子著1,600円(京阪神エル
マガジン社)
7「銀座を歩く四百年歴史体験」岡本哲志著 740円
(講談社文庫)
8「銀座界隈ドキドキの日々」和田誠著 640円(文春文庫)
6編集後記(editor profile)
少しづつ夜明けが近づいている予感がします。全ての時が止まったかのような世界に耳を澄ますと、素敵な言葉に出会える機会のなんと多いことでしょう。
90歳を超える銀座和菓子店のご主人が、コロナ禍の中でも毎日少しばかりの煎餅を焼き続けています。1枚、1枚丁寧に。そのご主人の言葉。
「働き続けらることが元気の秘訣だってしみじみ思いますよ。第二次世界大戦の時に比べたら、まだマシ。大変なのは自分だけじゃない、世界中みんながそうなんですから。決して良くはないけど最悪じゃない、そういう考え方大事じゃないですか?こういう時はね、悪いことを考えずにできることをやるだけ、それだけです」
今は、生まれ変われるチャンス!この時間を大切にしていきましょう。
まだまだ予断は許されませんが、一歩づつ新しい考え方で新しい暮らしを作るスタイルをご一緒に進んで行けたら幸せです。
最後までお読みくださりありがとうございます。
責任編集:【銀座花伝】プロジェクト 岩田理栄子
〈editorprofile〉 岩田理栄子:【銀座花伝】プロジェクト・プロデューサー 銀座お散歩マイスター・マーケターコーチ 東京銀座TRA3株式会社代表取締役
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