《ライブレポート》1/12 アーサー王伝説ナイトvol.3 PERCIVAL PERCIVAL inジャッキーの隠れ家
さる2025年1月12日、大阪日本橋のジャッキーの隠れ家さんにて語りと竪琴のライ不ブ"PERCIVAL PERCIVAL"終了いたしました。
お越しくださいました皆様、応援してくださった皆様、お店のジャッキー様、ロロ様、ありがとうございましたー!!
今回の公演は満席になりました。しかしその後、お一人様キャンセルになり一席空席に。
実はお話するアーサー王伝説には、座ると「ガラハッド卿以外の騎士は」大変な目に遭う危難の席というものがあるのです。
……危難の席が空いたのでしょうか。
それはさておき、今回お話するのは2作品!いつもより多くお話しております!!
というわけで、その2作品についてあらすじ含めご紹介しましょう。
1.パルチヴァール
まずはひとつめ『パルチヴァール』。
聖杯王になったパルチヴァールのお話ですね。13世紀のドイツの詩です。
「パルチヴァール」は英語だと「パーシヴァル」になります。人の名前です。円卓の騎士さん。言語が違うとどんどん名前が変わるのですよヨーロッパ!!
私は英語のほうが慣れてるのでパーシヴァルにしますね。
この『パルチヴァール』、主人公パーシヴァル卿とは別に、円卓の騎士ガウェイン卿がサブ主人公になっています。
しかしガウェイン卿を入れると公演時間を圧迫してしまうんですね。ゆえにガウェイン卿についてはパーシヴァルに関わる箇所以外、全カットしました。
私はガウェイン卿推しなので心苦しいのですが……今回はパーシヴァル卿が主人公だ。許せ、ガウェイン卿よ。
さてこのお話、パーシヴァルのお父さんの話からはじまりますが、時間がないのでほとんどカット。許せ、お父さん。
さて、では《あらすじ》をご紹介。
森で育っためちゃくちゃ見た目の良いパーシヴァル少年は、アーサー王のところへ騎士にしてもらいに行きました。
旅に出たパーシヴァル少年は早速、貴婦人から指輪を奪い取り、キスをし、抱きしめて、食物を奪い取ります。……おかげで貴婦人が夫に浮気を疑われて虐待される羽目になることも知らずに……。おそろしいことにパーシヴァル少年はこの所業をまったくの悪気0%でやってます。無知なので。すさまじいですね。
そのあと死体を膝に置いて泣いていたいとこの乙女に自分の名前を教わります。
その後アーサー王宮廷へ。
赤い騎士を倒し、鎧をぶん取って騎士になります。
白髪の城主に会って、師匠になってもらっていろいろ教わります。
次に敵に攻められていた女王様を助けて、結婚します。
そして、聖杯王のところに行きます。
冒険がぐんぐん進んでいきます。めっちゃRPG感ありますね。
さて、かの聖杯を司る聖杯王アンフォルタスは、過去に睾丸を毒槍で突かれるという、おそらく死ぬほど痛いであろう怪我を負いました。
ただ、そこは聖杯王。おそばにある聖杯がマジックアイテム過ぎて、「見た人は一週間は生きられる」というオプションがついてくるため、死にそうな怪我を負っている聖杯王はアンフォルタスは聖杯に生かされてしまいます。
正直もう死にたいくらい痛いのに、無理矢理生かされるのです。
そんなある日。
聖杯のお告げがありました。
「一人の騎士がやってきて、聖杯王アンフォルタスに質問すれば、苦しみは癒される」。
まあ聖杯王アンフォルタスさんは、見るからにすごい体調悪そうで「痛いよぅ痛いよぅ痛いよぅ」な顔をしてるので、会った人は「だ、大丈夫ですか?」くらいのことは言いそうな感じです。
だから、聖杯王の周りにいる人たち皆「やった!聖杯王助かる!」と思っていたもよう。
しかしそのやってきた「一人の騎士」のパーシヴァル。聖杯王に質問しませんでした。
……というのも事情があります。
そもそもパーシヴァルくんはお母さんに森の中で育てられ、偏った教育を受けました。そして、すごい変な行動を取ってしまう子にすくすく育ちました。そう、初対面の貴婦人にすさまじいご無体を働いても、それが悪行だとミリも認識できないくらいに!
そんなパーシヴァルくんに師匠が教えます。「慎み深くしなさい。なんでもかんでもあれこれ訊いてはならない」
パーシヴァルくんは師匠の教えをド真面目に守りました。
体調めちゃめちゃ悪そうな聖杯王に何一つ質問しなかったのです。慎み深くするために。
結果、聖杯王の苦しみは続行。
なんとそのせいで、パーシヴァルくんはいろんな人から……
凄まじい!!罵倒!!
「苦しんでる人に声もかけない憐れみもなにもない酷い奴」扱いを受けます!!
パーシヴァルくんは、ちゃんと師匠の教えを守ろうとしただけなのに……。
聖杯王に質問しないといけないこともあらかじめ教わってなかったのに……。
パーシヴァルくんはまた旅にでて、自分の何があかんかったんやろう……と探究します。
最終的に隠者のところへ行きいろいろ悟ります。
その後も親族殺しや兄弟殺しをうまく回避。
最終的に、昔に罵倒してきた魔女さんを許しすらしました。
と、その時!魔女さんに!
「あなたが聖杯のあるじに選ばれました!」
そう言われて聖杯王の城にいきます。
相変わらず聖杯王アンフォルタス、すごい痛そう。もう死なせてくれ、と言い出すレベル。
パーシヴァルは今度こそ「どこが痛みますか?」と聖杯王に質問します。
すると聖杯王アンフォルタスの傷は癒え、聖杯王アンフォルタスはパーシヴァルより美形になるのでした✨✨(チャラーン♪)
そしてパーシヴァルは次の聖杯王になったのです。めでたしめでたし。
あらすじおしまい。
このお話の一番面白いのは序盤ですね。
世間知らずのパーシヴァルくんが力強く変な行動をしまくる!!
ここがめためた面白いです😌
英雄たるもの「普通じゃない」ですからね!!
普通な人は英雄になりません!!
(現代はそのひっくり返しであえて平凡な人を英雄にしさるケースもありますが)。
そんな破天荒なパーシヴァルがいろいろ荒波に揉まれつつ、どんどん葛藤を覚えて成長していく。
パーシヴァルの成長の軌跡を見るお話といっていいでしょう。
パーシヴァルが薔薇風呂に入るシーンとか、湯から上がる段になっても侍女がなかなか立ち去ってくれない……とか、なんかちょっとパ卿のお色気匂わせシーンなのか?とか、ありますが……このくだりは時間の都合上「薔薇風呂に入りました」だけで終わらせました🙇♀️
とにかく見た目の良さが年がら年中讃えられまくってるパーシヴァル卿が印象的な一作です。
さて次!次、行きましょう!!
2.アーサー王の死
15世紀イギリスのサー・トマス・マロリー作『アーサー王の死』。
こちらはアーサー王物語の中でも最大手と言われるくらいの代表格の作品です。
ただ、どうも文章が「必死で長い内容を短くコンパクトに納めました!」みたいな雰囲気ですこぶる読みにくいのが特徴です。なんてこったい。
とはいえ、『パルチヴァール』とはかなり毛色が違う&歴史上のアーサー王物語の中で最もビッグネームのこの作品。
やはり取り上げるべきはこれであろうと取り上げました。
あと、個人的にラストのパーシヴァルが力尽きるところがね……心にきたんですよね。
パーシヴァル卿は、宗教心のために死んだ聖なるガラハッド卿とは違う。さりとて、聖なる生活を続けずにアーサー王宮廷に帰りたがる俗なボールス卿とも違う。
聖と俗の中間点にいるパーシヴァル卿がなんとも印象的かつ哀しいな、と思いまして、こちらのお話を取り上げました。
ちなみにボールス卿の役どころは、すべてを見届けて生き残り、他の人に物語を語り伝える……という語り部の役なので、吟遊詩人としては共感するところです。
さて《あらすじ》のご紹介。
パーシヴァルは、ペリノア王の息子にして、高名なラモラック卿の弟。
父兄への愛により、アーサー王はサクッとパーシヴァルを騎士に叙してくれます。
パーシヴァル卿は一般騎士扱いを受けましたが、生まれつき口の聞けない乙女が大声で「神の騎士よ!」とパーシヴァルを円卓に連れていきます。
円卓は、アーサー王の騎士の中でも選りすぐりの人しか座れない卓。
その円卓の中でも特別な騎士しか座れない「危難の席」の右隣にパーシヴァルは連れてゆかれ、座らされます。
乙女はそれを終えるとすぐに死んでしまいます。
さて危難の席にはとびきり優れた騎士のガラハッド卿が座ります。
ガラハッド卿の父は円卓最強ランスロット卿。母は聖杯城のペレス王の娘エレイン。
超絶サラブレッドなガラハッドは、父を超えて最優最強でした。
さて、聖杯が出現し、円卓の騎士たちは聖杯探索に出ます。
パーシヴァルは最初ランスロット卿と一緒にいて、ガラハッド卿に攻撃され(なんでや)。
女隠者で荒れ地の女王の伯母様(属性過多)に会って「聖杯探究に成功するのは三頭の雄牛!二頭は童貞、一頭は純潔無垢(パーシヴァルは童貞の方)」とマーリンが言ってたという話を聞き。
その後、パーシヴァルのご先祖様に会う話があるんですが長いのでここはカット。
その後は20人の騎士と戦って負けそうなところをガラハッドに助けられ。馬に乗って駆けていってしまったガラハッドを追いかけようと、徒歩で泣きながら追いかけ(子供みたいでかわいい)。
悪魔な馬に乗って海に引き摺り込まれかけ。
ライオンを蛇から救い。
魔王が変化した美しい婦人とベッドを共にしかけ……寸でのところで、回避(女体化?ルシファー様と寝るのはそれはそれでなんだか貴重な体験な気がするのだけども)。
ボールス卿、ガラハッド卿、パーシヴァル姉と出会って大冒険✨
パーシヴァル姉はものすごくいろんなことを教えてくれ、早々に死去。
一旦ガラハッド卿・ボールス卿と別れて、また再会。
聖杯城に行って、血が滴る男に聖体を賜る奇跡に会う。
ガラハッド卿がそろそろ死にたいと言い出すので、それを問いただす。
その後、聖地サラスへ。一旦牢獄にいれられ、その後一転してガラハッドがサラスの王になり。
そして一年後。
三人の騎士は奇跡に会い、中でもガラハッドだけは特別なものを見て、俗世の生を捨てる(=死ぬ)。
パーシヴァル・ボールスは哀しみ、パーシヴァルは俗世の服を捨て、法衣をまとい、庵で聖なる生活を送って、一年と二ヶ月後に死去。
ボールスは付き添ってはいたものの、俗世の服は捨てず、亡くなったパーシヴァルを葬ってから、アーサー王の元へ戻って、聖杯探索の話を皆にする。
それは本にされて、ソールズベリーの図書館におさめられている……
END.
……と、『アーサー王の死』の聖杯探索にのパーシヴァルの主要なシーンを語らせていただきました。
ライオンちゃんがすごいパーシヴァルに懐いていて可愛かったり、魔王がもう「いかにも!」という感じで騙してきたり、ガラハッドを泣きながら追いかけるパーシヴァルが可愛かったり……ジェットコースターみたいな冒険譚です。
でも最後はしっとりと。
音楽はラストはCantiga422 Madre de deusをお届けしました。
↓の曲。
3.ご感想
二つの作品に落差があって、全然違っていて楽しめた……というご意見をたくさん賜りました。ありがとうございます。
パーシヴァルの作品、大きく二つにわかれるなあと思うんですよね。
ひとつは、
・クレチアン・ド・トロワ「ペルスヴァルまたは聖杯の物語」
・ウェールズ伝承マビノギオン「エヴラウクの息子ペレドゥルの物語』
・ヴォルフラム・フォン・エッシェンバハ《パルチヴァール』
・ワーグナー『パルジファル』
の一群。
クレチアンとマビノギオンは、どっちがどっちの原典か?争いをしているようなもの。
『パルチヴァール』はおそらくクレチアンの後継。
『パルジファル』はあきらかに『パルチヴァール』の後継です。
聖杯は杯というより大皿だったり、首だったり、石だったりします。
さて、もうひとつの一群。
・フランス流布本サイクル『聖杯の探索』
・サー・トマス・マロリー『アーサー王の死』
こちらは、ロベール・ド・ボロンという人の書いた『聖杯由来の物語』に端を発する、アリマタヤのヨセフがキリストに貰った杯が聖杯である話が出てくるものですね。
この大きく二つがあるなあ……という作品群から一つずつピックアップしたのが今回の公演です。
空気感の違いを感じていただければ幸いです。
アーサー王学会のオフィシャルサイトにも聖杯についての解説がありますので、こちらの記事もどうぞ。
そしてお越しくださいました方のご感想です。
ありがとうございました!!
次回の同じ会場では、フィンランドの叙事詩『カレワラ』の公演がございますので、ぜひぜひこちらもご来場ください!
ご来場、お待ちしております。