さみしい人をなくしたいから
わたしはずっとさみしかった。
わたしの家がある地域は治安が悪い。
わたしは現実が嫌いだった。
わたしは身体が小さいし体育はいつもビリ。
ほんの少し国語と社会が得意なだけ。
友達とは話が合わない。
友達は本を読まないし、歴史の話をすると「あなたの言ってることがわからない」と言う。
わかってもらえないなら話す意味はない。
さみしいな。
父も母も忙しそう。
母はいっつも怒ってる。
でも母は図書館に連れていってくれた。
わたしはとにかく本を読む。
本はすごく面白かった。
ファンタジーや民話が大好きだった。
素敵な妖精、強い魔女、美しいドラゴン、かしこい人たち!
本の中の海外の人たちは私たちと全然違う思考回路をしていた。
なんだか陰湿さが全然なくてカラッとしているのだ。
日本人はべったりしていて気持ち悪い。
言いたいこと言わない。でも裏ではいろいろ思っている。でもそれを皆の前で堂々というと「あいつウザい」と嫌われるんだ。
私も気持ちの悪い日本人なんだ。
海外って素敵だな。
でも周りにいる人は話が通じない。
さみしいな。
とにかく本を読む。
ふと図書館にいったら新撰組の本があった。
新撰組は誠一文字。
己の誠にまっすぐに生きる。
いいな。素敵だな。
ちゃんと、ちゃんと気持ちのいい日本人もいたんだ!
でも身近に話し合える人がいない。
さみしいな。
とにかく本を読む。
高校は国語科という、読書大好きな人しかいない学科だった。
ようやく我が世の春が来た。
皆で本の話をしよう。
あれ?でもおかしいな。
なんかみんな純文学を読んでる。
民話読む人いないのかな。
ファンタジー読む人いないのかな。
新撰組が好きな人は?
さみしいな。
高校を卒業したらお金がないからすぐ就職。
「カオス」というギリシャ神話で当たり前に出てくる言葉すら「意味がわからないから他の言葉でね」と言われる。
やっぱりお話は通じない。
むなしいな。
わたしは本を読む。
本によると、ストーリーテラーという人がいるらしい。
口で物語を語り、私が大好きな作家のエンデを魅了したらしい。
すごいな。エンデさんを魅了した、人!
そしてオランダからストーリーテラーが来日した。
物語を語ってくれた。
この人、物語をわかってる!
この人の語ってる物語の中に、私は今、いる!
私はさみしくなくなった。
私は今、物語を語る、吟遊詩人をしている。