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熱くなりすぎた英雄は、冷まさなくてはならない。

 私は吟遊詩人をしている。
 人前で物語を語り、竪琴を奏でるのだ。

 内容的には私が英雄と騎士を好むせいで、騎士道物語と戦記ものが多い。
 当然ながら熱く熱く熱く語る。
 良き武将は声が大きいものだ。古代ギリシアの叙事詩『イーリアス』でも「大音声の誉れも高き」という英雄たちが出てくる。
 私はギリシャ神話でなく、ケルト神話を語ることが多い。しかし事情は全く変わらない。王は堂々たる響き渡る低き声で、赫赫たる英雄は相手を威圧できるほどの声量でなければならない。演じる私も同様である。

 以上により、現代日本人超絶文系筋力無し無し氏の私でも身体が燃え上がる。そして熱を冷ますのにめちゃくちゃ時間がかかる。
 今までなんとなく自然におさまるのを待っていたが、やはり時間がかかる。まず、当日の夜なかなか眠れない。ゆえに翌日が丸潰れになるのだ。
 これでは二日連続でライブができないではないか。今までしたことがないが、私は二日連続できるようになりたい。
 早く冷ます方法はないのか?

 そこで思い当たるのはケルトの英雄クー・フーリンである。彼はアイルランドのアルスター王国の戦士だ。

 さて、クー・フーリンの初陣のとき。
 見事に相手を倒したまでは良かった。しかしその後が悪かった。クー・フーリンは血を猛らせたまま、乗った戦車をガラガラいわせて、自国の砦に帰ってきた。そして宣言したのだ。

『アルスターの神に誓って言うが、わが輩と戦う者をよこさなければ、この砦の戦士全員の生き血を流してやるぞ!』

トーイン クアルンゲの牛捕り キアラン・カーソン 栩木伸明訳 東京創元社

 味方に対してこれである。そう、血が猛っているものは味方すら殺そうとしてしまうのだ。
 ただ、その砦にはアルスター王がいた。王は対処の仕方というものを十二分に知っていた。

「裸の女を連れてきて、出迎えさせろ!」と命令し、王の妻は女たちをずらりと連れて、胸をあらわにしてクー・フーリンを出迎える。
 すると、まだ少年だったクー・フーリンは顔を隠した。あまりに眩しくて怯んだのだろう。

 さあ隙ができたクー・フーリン、男達がザッと出てきてクー・フーリンをつかみ上げ、ザブーン!と冷水たっぷりの大樽に突っ込んだ!!
 血が猛っていたクー・フーリンの身体の熱さで冷水が一瞬で凄まじい高温になる。大樽が八方にはじけ飛ぶ!
 別の冷水の大樽にクー・フーリンを浸け直す!冷水は瞬く間にボコボコボコボコと音を立てて沸騰したが、樽は無事だった。
 さらに別の冷水の大樽にクー・フーリンを浸け直す!するとホッコリ普通のお湯になった。

 そういうやり方でようやく彼は落ち着いたのである。
 吟遊詩人たる私はそれを知っている。
 かの英雄を見習おうではないか。

 とりあえず、次回までに冷えピタ、買ってくるか。


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吟遊詩人 妙遊
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