6話*もはやファンタジー
あるときパートナー(以下:T)が、階段の下の方でボンさんを膝に乗せていて、
私は階段のだいぶ上の方にいて、それぞれの時間を過ごしていた時のこと。
ボンさんが急にTの膝から降りて、学校の方に向かって走って行ったのが上から見えた。
どうしたのかなあと思って見てると、Tが「ボンさんが来いって言ってる!」って言ってボンさんを追いかけて行った。
上から様子を見てたら、ボンさんは途中で止まって振り向いて、階段の上にいる私を見た。
Tが「Eちゃんも来いって言ってるよ!」と叫ぶので、
『ほんまに〜?』と階段を降りてボンさんのとこに行くとボンさんは歩き出した。
「どうしたん?」とTに聞くと、
「わからん、ボンさんに一緒に住みたいなあ。一緒に住もうぜ!って話しかけてたら急に膝から降りた」
と言った。
ボンさんが向かっていたのは明らかに学校だった。
私達が遊びにいくとボンさんは学校から出て来ることもあったので、
学校の中をよく探索したり、雨風しのいだり寝場所にしてるとこがあるんだろうと思ってた。
「まさか、学校なら私達も一緒に住めると思って案内してるんかな?」
と、二人で話しながらボンさんに付いて行くと、
ボンさんがいつも出入りしてるフェンスの隙間の前でボンさんは止まった。
ボンさんは隙間をジーッと見ていた。
明らかに人間は入れない隙間。
隙間と私達をちょっと見比べて、私達が入れない事に気付いたのか、
ボンさんは「ん〜」って困ったように鳴きながら私達の周りをぐるぐる回り始めた。
「まさか、ホンマに案内しようとしてる?」とびっくりして、「ごめん、私らはここ通れないよ〜」と言ってみると、
急に閃いた顔したボンさん(←大袈裟じゃなく、本当にそういう顔をした)、また歩き始めた。
戸惑いながら付いて行くと……、今度は裏門の前でボンさんは止まった。
ここも閉まっている。
またボンさんは歩き始めた。
そして、次は正門の前で止まった。
でも深夜なのでもちろん正門も閉まっていた。
昼間に人間がここを出入りしていたのを見ていたのだろう、
「おかしいなあ、ここならいけると思ったんだけど」って感じで、
門の前を困った様子でうろうろするボンさん。
「ほんまに学校に案内しようとしてる?」
と、私達はびっくり。
ボンさんは何やら考えた挙げ句、最終的に「こうやったら入れるよ?」って門の下をくぐって見せてくれた。
「いや無理だよボンさん〜」と、取り残された私達。
でも私達はボンさんの気持ちが嬉しくて、「乗り越えちゃう?でも警備員いるんじゃない?どうする?どうする?」
葛藤。
無職で不法侵入で捕まった日にゃあ、笑っちゃうぜ。
やっぱり無理だな………と、
ヘタレな私達は、門の下を覗いてボンさんを呼んだ。
ボンさんが走って戻って来て、
「え~無理なの~?ここなら人間も住めると思うんだけどなあ」
って感じで、すまなそうに私達にすり寄って来た。
「ごめんねボンさん、ありがとう。嬉しいけどここは無理だよ。戻ろうか。」と言うと、
ボンさんはいつもの場所にまた私達と一緒に歩き始めた。
「すごいなこれは、ヤバイな。ボンさんすごいな」言いながら歩いてたら、
途中、「ちょっと待ってて!」とボンさんは一人いつものフェンスから学校の中に入ってった。
何してるんだろうと、フェンスから覗くと、プランターで用を足していた(笑)
プランターを触る人を、ちょっと気の毒に思いながらも、
人間が知らない時間の猫がどんな風に生きてるか、秘密を別けて貰ってるようで面白嬉しかった。
戻ると次は、私が作った段ボールの棲みかに案内してくれた。
「いや、ここはもっと無理だよ~!」って、びっくりしながら笑った。
ボンさんは「そっかあ」って、諦めた様子でまた階段に戻って行った。
ボンさんからしたら、『一緒に住もうよ!』って言った私達には家がないと思って(笑)「一緒にここに住んだらいいよ!ぼくたちは自由だよ!なにも心配いらないよ。学校なら人間も住めると思うよ!」
って、面倒を見てくれようとしたんではないかと思ってる。
きっとボンさんは私達も住めそうな物件を案内してくれたのだろう……笑
ボンさんの優しさや器のでかさは、もはやファンタジーだった。