5話*ボンさん
ボンさんの魅力は活字じゃ伝えきれないけど、本当にカッコいい猫。
人間の雄だったらきっと恋をしただろう。
いつもどっしりとしていて、楽観的でおちゃめ、甘えん坊。
いつも冷静にものごとを深く見据えた上で丸ごと受け入れ、リラックスしているようだった。
野良猫として生きてきた強さや優しさの厚みもすごかった。
肉球を触ると職人さんの手を触ったみたいな感触で、
土や草、コンクリートを踏み慣らした硬い肉球だった。
私達に威嚇したり引っ掻いたりした事は一度もない。
人間の言葉を物凄く理解していたので、コミュニケーションを取るのが面白かったし、安心感があった。
言葉だけじゃなく、気持ちの細部、考えまで感じ取れる能力もあったんだと思う。
私達の人生や人間についての会話を聞いて、何か私達が発見した時は膝で寝てたボンさんが顔をあげて「そうだよ」って言うみたいに一声鳴いたり、
私が星空見ながら宇宙に想いを馳せてたら、寝てたボンさんが顔をあげて瞳を見開いて宇宙みたいな目をして笑顔で、私をジーッと見つめてたり。
ボンさんへの愛を想っている時は膝の上にお座りして、おでこを胸にトンと当ててくれた。
私はその度にボンさんをギュッと抱き締めた。
「面倒は一生みるから!」と言うと、顔を上げて必ず「にゃあ」と鳴いた。
ある日気分が落ち込んでいる時に、一人ちょっと散歩しようと土手の上まで歩いた。
ボンさんは来た事ない場所だったので、ボンさんは来ないだろうと思ってたら、気付いたらボンさんもノッシノッシと歩いて付いて来ていた。
結局上の方まで一緒にやって来て、私が座るとボンさんも一緒に座って遠くを見始めた。
時々通る自転車にも怯まず私の前に立っていたので何だか守られてる気分になった。
風も寒いし、ボンさんを心配させたらアカンなと思って、
「ボンさん降りよっか!」と言って、私が階段を使わず芝生の斜面を小走りしたら、
急に後ろからボンさんがダーッ!と思い切り走り抜けてって、私を追い越し、下で止まってパッと振り向いた。
その顔がめっちゃ笑顔に見えた。
「俺の方が早かったよ!」って聞こえ、
「ほら!こうやって走ったら元気になるよ!」ってやってるようにも見えた。
「負けた〜」って笑いながら降りると、ちゃんと私が来るまで待っててくれて、私が下に着くと一緒にいつもの場所に戻った。
ボンさんはきっと、自分が私達に必要な存在だと気付いていた。
気分が落ちている時に気晴らしに借りた映画を見ていたら、ボンさんに似た猫が出て来て嬉しくなった。
映画の中でその猫が言った一言。
ボンさんからのメッセージだと、そう思った。
↑実際の映像
私のお気に入りの瞬間は、
ボンさんに「帰るね」と言って、自転車にまたがりこぎ始めると、
ボンさんも同時に小走りでついて来て、ボンさんは私が作った段ボールハウスに戻っていく。
別れ際に自転車こぎながら大きな声で「バイバ~イ、ボンさん。またね!」って帰るのが、
なんだか小学生の時に友達と遊んで帰って行く瞬間と同じで、
懐かしくて、可笑しくて、ピュアで、大好きな瞬間だった。