月をうむ 7
第七話 半分の月
ヒカリがまっくら森にきてから一週間が過ぎました。
空に浮ぶ月はちょうど半分になっています。
ヒカリは毎日キノコ料理店でいっしょうけんめい働きました。
動物たちに生えたキノコを採るのはヒカリの仕事です。
牛の背中に生えたキノコを採るのは、小さなこびとにはたいへんなことでしたが、ヒカリなら牛によじのぼらなくても、かんたんにキノコを採ってあげられます。
今では森の動物たちともすっかり仲よくなりました。
警戒心が強い妖精たちも、愛らしいヒカリの姿に魅せられて、ヒカリの栗色の髪をあんだり、くしでとかしたり、花で飾ったりしています。
いつのまにかヒカリは、まっくら森の人気者になっていました。
ヒカリのいる場所はどこでも、ぱぁっと明るくなるのです。
月の光もかすむほど、ヒカリは輝いていました。
きのこ料理店のこびと夫妻も子どもたちも今ではすっかりヒカリのことを家族同然に思っていました。
それでも時々ヒカリは、こびとの家から外に出て、一人ため息をつくのです。
半分だけの月を見ていると、半分だけの自分の心にヒカリは気づかされるのです。
夜の世界になじむほど、昼の世界が遠くなるような気がします。
こびと夫妻が家族のように接してくれればくれるほど、自分の本当の家族を思い出してしまいます。
ここにいてここにいないような、なんともいえないさびしさをヒカリはずっと感じていました。
「こんな夜更けに一人で何してるんだぁ?」
こびとの家の裏口にモジャリが姿を見せました。
「……月に願いをかけていたの」
ヒカリはしょんぼりと言いました。
「どうしたぁ? まさかこびとたちにいじめられてんじゃねぇべなぁ?」
モジャリはヒカリを心配します。ヒカリは首を横に振りますが、目には涙が浮かびます。
「みんなやさしいわ。でも、さびしい……。ここは私の本当の家じゃないもの。自分の家に帰りたい。昼の世界に戻りたい」
「そんなに帰りたいのかぁ? おまえも母ちゃんと同じだなぁ。おいらを置いて行っちまう……」
「あんたのお母さんって?」
ヒカリは涙をぬぐってモジャリを見ました。
モジャリは恨めしそうに月を見上げました。
「おいらの母ちゃんは月の女神さぁ。母ちゃんは獣と交わって地上に引きずりおろされたんだぁ。腹の中のおいらが重くて地べたをはうしかなかったのさぁ。おいらを産んで、身軽になった母ちゃんは、おいらを置いて空高く飛んでいっちまったよぅ。おいらは母ちゃんにとって、邪魔な重しにすぎなかったのさぁ」
モジャリはとてもつらそうに言葉を吐き出していました。
ヒカリはモジャリの目を見ます。
「どうしてあんたは泣かないの? 悲しければ泣けばいいのに」
「おいらの涙は石ころさぁ。泣くたんび、目がゴロゴロして痛むんだぁ。だからいちいち自分のことで泣いてなんかいられねぇよう」
そう言って、モジャリは泣きそうな顔で笑いました。
モジャリをみつめるヒカリの目から涙があふれ出してきます。
それを見たモジャリはおろおろしながら言います。
「なんでおまえが泣くんだぁ? またかなしくなったのかぁ?」
「あんたの気持ちが痛むのよ。私よりずっと悲しいの。月の石で目が痛むなら、私が代わりに泣いてあげる」
そしてヒカリはひっそりと、モジャリのために泣きました。
ヒカリの心の半分はモジャリの心になりました。
二人は心をわかちあい、ヒカリのさびしさは半分、モジャリのかなしみも半分になりました。
モジャリは真夜中の月を見上げます。
いつもは冷たい月の光が今夜はやけにやさしく感じられました。
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