本人確認を巡る法改正と金融機関に求められる取組み
本人確認の実務は、各種法令改正を踏まえて、大きな転換点を迎えている。
本稿では、これまでの本人確認を巡る法改正の経緯等を整理したうえで、確
認方法の進展や金融機関における取組みと、それらを踏まえた今後の展望に
ついて解説する。
弁護士法人御堂筋法律事務所 東京事務所 弁護士 高橋 良輔
弁護士 竹上 穂高
1 本人確認を巡る法改正の主な経緯
2003年1月、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約による要請を背景として、金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律(以下「本人確認法」という。)が施行された。これが、日本における本人確認制度に関する法令の先駆けである。 その後、FATF(金融活動作業部会)勧告の改訂を受け、本人確認等の措置を講ずべき事業者の範囲を金融機関以外にも拡大するため、本人確認制度に関する規定は犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯収法」という。)に移設され、犯収法は2007年4月にその一部が、2008年3月からは全面的に施行された。これに伴い、本人確認法は廃止された。 2008年10月に公表されたFATF第三次対日相互審査の結果等を踏まえて、取引時確認や内部管理体制に関する定めが改正され、2013年4月に全面施行されたものの、その後もFATFからの厳しい指摘は続き、リスクの高い取引における取引時確認や、疑わしい取引の判断方法等を定める改正が行われた(2016年10月全面施行)。 また、2018年11月には、犯収法施行規則が改正され、オンラインで完結する本人特定事項の確認方法(以下「eKYC」という。)の新設や、書留郵便等により転送不要郵便物等として送付する確認方法の厳格化等が行われた。 さらに、グローバル・ステーブルコインへの対応に関する議論や諸外国における規制の検討の動き等を踏まえた改正(2023年6月全面施行)、FATF第四次対日相互審査の結果等を踏まえた改正(2024年4月1日全面施行)も行われているなど、国内外のさまざまな情勢に応じて、度重なる改正がなされている(注1)。
(注1)直近では、各種法令改正により、申請時に一定年齢に満たない者に交付する個人番号カードに顔写真が表示されなくなることや、健康保険証等が廃止され、保険医療機関等による被保険者等の資格確認は個人番号カードによる電子資格確認が原則となることなどを受けて、犯収法施行規則等の改正が予定されている(「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則及び犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則及び疑わしい取引の届出における情報通信の技術の利用に関する規則の一部を改正する命令の一部を改正する命令案」に対する意見の募集について(令和6年8月23日募集開始))。
ここから先は
¥ 400
Amazonギフトカード5,000円分が当たる