支店長が知っておきたいバーゼルⅢを踏まえた融資のリスク・ウェイトの確認
バーゼルⅢ最終化は、標準的手法を採用する国内基準行で2025年3月から適用ともはや待ったなしの状況である。本企画では、本部のみならず支店も知っておきたい融資に関わるバーゼルⅢでのリスク・ウェイトについて解説した。
合同会社新宿経済研究所 代表社員社長 公認会計士 岡本 修
1.バーゼルⅢ最終化は「待ったなし」の状態に
「バーゼルⅢ」と呼ばれる新たな金融規制が始まる。すでにいくつかの金融機関は2023年3月期以降、早期適用しているのに加え、国際統一基準行などでは2024年3月以降、適用が開始されているが、2025年3月以降は、国内基準行や協同組織金融機関も含めた、すべての金融機関に対して適用される。もう「待ったなし」だ。
そして、今回のバーゼルⅢ最終化は論点が多岐に亘るが、特に注目すべきは、アセット・クラスごとのリスク・ウェイトの取扱いだ。リスク・ウェイトとは、自己資本比率(=自己資本÷リスク・アセット)の計算式における、分母のリスク・アセットを計算するために、エクスポージャー(投融資)に対して乗じる掛目のことだ。
例えば、円建ての日本国債に対してはゼロ%のリスク・ウェイトが適用されるが、後述する通り、無格付の「法人等向けエクスポージャー」は多くの場合100%のリスク・ウェイトが適用される。
このため、日本国債を1兆円保有していてもリスク・アセットはゼロだが、リスク・ウェイト100%の貸出金が1兆円あれば、その信用リスク・アセットの額は1兆円(=1兆円×100%)だ。
ということは、同一規模の金融機関であってもエクスポージャーのリスク・ウェイトが低ければ銀行全体の自己資本比率を上昇させる一方、リスク・ウェイトが高ければ銀行全体の自己資本比率を引き下げることになる。
では、この最終化により、何がどう変わるのか。それを確認する前に、現在のバーゼルⅡ規制下における主要なエクスポージャーを改めて確認しておく(図表1参照。ただし、本稿では標準的手法を前提とする)。
これらのなかでも支店営業において特に重要なのが、地方公共団体、無格付の事業法人、中小企業・個人等、抵当権付住宅ローン、株式・出資金だろう。これについては例外もあるものの、「地方公共団体はゼロ%」、「無格付の法人は100%」、「リテールの要件を満たす中小企業や個人は75%」、「担保でフル保全されているなどの要件を満たした抵当権付住宅ローンは35%」、「株式は100%」、などと覚えておけば良かった。
ところが、バーゼルⅢ最終化に伴い、これらのいくつかについては、エクスポージャーのリスク・ウェイトに関する考え方が大きく変わる。
国、地公体に関するリスク・ウェイトの考え方についてはほぼ変わらないが、たとえば無格付の法人などに関しては「中堅中小企業等」の「85%リスク・ウェイト」の規定が、リテールなどに関しては「45%リスク・ウェイト要件」の規定が、それぞれ新たに導入された(※ただし45%が実務上、適用されるケースは多くないと考えられる)。
また、特に複雑になったのが、不動産に関する融資の考え方だ。これまでの「抵当権付住宅ローン」や「不動産取得事業」などの考え方が抜本的に変わり、「LTV」(ローン・トゥ・バリュー、すなわち融資額を不動産の担保価値で割った指標)がリスク・ウェイトの判定に用いられることとなったからだ。
以下、バーゼルⅢのうち、特に支店における融資実務に深くかかわると思われる重要論点に焦点を絞って、実務上の留意点を確認していきたい。
2.中小企業・個人向けエクスポージャー
まず、現行のバーゼルⅡ規制では、支店において重要な中小企業・事業者たる個人に対する融資に関しては、リスク・ウェイトは基本的に100%であり、例外的にいくつかの条件(例えば債務者が中小企業か個人で、名寄せ後のエクスポージャー額が1億円以下である、など)を満たす場合は75%のリスク・ウェイトの適用が可能だった。
これに対しバーゼルⅢでは、「法人向けエクスポージャー」に包括的な定義が設けられ、会社や組合、信託などだけでなく、「事業者たる個人」が法人に含まれることが明確化された。
そのうえで、外部格付を取得している場合はその格付けに応じたリスク・ウェイトが、そうでない場合は「無格付の法人」としての100%のリスク・ウェイトが適用されることとなった(図表2参照。なお、本稿で図表中の条文番号は特に断りがない限り新告示のものを示している)。
ここから先は
¥ 400