
地域金融機関に期待される事業承継PMI支援
金融庁は「金融機関におけるM&A 支援の促進等について」を公表し、監督指針の改正を実施した。「金融機関によるM&A 支援促進に関して、PMI を含むM&A支援が一つの有用な選択肢となり得ることに留意しながら、最適なソリューションの提案について検討すること」としたことから、近年PMI 支援に関する注目度がこれまで以上に高まっている。本稿では、金融機関に期待される事業承継PMI 支援について解説した。
中小PMI支援センター株式会社
パートナーコンサルタント 中小企業診断士 羽田 暁
1 事業承継におけるPMI の重要性
⑴ 成約しただけではM&Aが成功したことにならない
M&Aはここ数年注目を浴びており、企業の成長手段として選択する経営者が増加している。特に中小企業においては、経営者の高齢化に伴う事業承継ニーズが高まり、国内企業のM&Aはこの10年間で2倍以上に急成長を遂げた。今後もM&Aは重要な選択肢として、更なる注目を浴び続けることは確実視されている。
しかし、M&Aを成約させたことがM&Aの成功であるとは限らない。中小企業庁が公表したM&A後の満足度調査では、M&Aを実施した経営者の24%が「期待を下回る効果」(注1)と回答しており、期待を下回る効果の主要因が「PMI の取組領域」に位置づけられる。
(注1)令和4年3月中小企業庁 中小PMI ガイドライン第1章1-2 12頁を参照
そのため、中小PMI ガイドラインでは「PMI の取組を成功させることは、M&Aの当初の期待を満たし、M&Aそのものを『成功』とし得るかどうかに大きく影響する(注2)」と結論付けている。すなわち、PMI の取組を強化すればM&Aの成功率は上昇することになる。
(注2)令和4年3月中小企業庁 中小PMIガイドライン第1章1-2 12頁より引用
なぜPMI を実施すればM&Aの成功率が上昇するのか。PMI とは具体的にどのような取組を実施するのかを簡潔に整理しておく。
M&Aは大きく3つのフェーズに分類される。1つ目が戦略フェーズであり、M&Aの「目的を策定」する初期検討段階である。2つ目が取引フェーズで、トップ面談や企業調査を通じて、M&Aの目的の「実現可能性を検証」する。そして、3つ目がPMI フェーズであり、M&A成立後にM&Aの「目的を実現」させる。この一連のプロセスが、M&Aの基本的な流れである。
では、事業者にとっての「M&Aの成功」とは何か。それは、「M&Aの目的を実現させる」ことである。M&Aの戦略フェーズで策定した「M&Aの目的」をPMI によって実現させることで、M&Aは成功に導かれる。それゆえに、PMI はM&Aの成否を分ける重要なプロセスであり、PMI なくしてM&Aの成功はあり得ない。
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