法人名義口座の不正利用・課題と対策
近時、SNS型投資・ロマンス詐欺の急増や大規模なマネロン事案の検挙な
ど、法人口座を含む預貯金口座の不正利用及びそれへの銀行等による対策が注目されている。法人口座はマネロン等を企図する者に利用価値が高いとれる一方、銀行等は、法人口座の利用制限について慎重に対応する傾向にあたといわれている。本稿では、法人口座に係る近時の不正利用に関する動向踏まえ、金融庁及び警察庁が要請した対策のポイントを中心に解説する。
牛島総合法律事務所 弁護士 大澤 貴史
1 法人口座の不正利用に関する近時の事例
法人名義の口座(以下単に「法人口座」という。)は従来より特殊詐欺や国際的なマネー・ローンダリング(以下「マネロン」という。)事犯など、被害金額が高額となる犯罪に悪用されてきた(注1)。
(注1)国家公安委員会「犯罪収益移転危険度調査書」87頁(令和5年12月)また、2024年5月に法人口座を用いた大規模なマネロン事案(以下「本マネロン事案」という。)が報道されて改めて注目を集めている。
報道によれば、収納代行業などを自称するグループが、ペーパーカンパニー約500社の名義による約4000もの法人口座に少なくとも700億円を入金させ、そのうち数%をマネロン等の対価として得ていた疑いがある。
入金された資金は特殊詐欺やSNS型投資詐欺、オンラインカジノなどにより得られた犯罪収益であり、同グループはかかる犯罪収益を法人口座から海外口座に移転した上で、詐欺グループなどに資金を還流させるなどしていたとのことである。
当該事案で特徴的なのは、同グループがSNS上で協力者を募り、応募者に報酬や法人口座開設に必要な書類等(法人登記に必要な書類・費用)を供した上でペーパーカンパニー設立及び法人口座開設を指示していた点にある。加えて、マネロン等に用いる大量の口座を迅速に用意するため、口座開設時に想定される銀行からの質問に対する問答(想定Q&A)などを協力者に提供していた疑いがある。
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