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聖火リレーと中丸さん

 もう少しでオリンピックですね。サンフランシスコから毎日、ネットニュースで感染者とオリンピックのニュースをドキドキしながら見守っています。有名人の聖火リレーの辞退や実走の状況などから、現実の厳しさが窺い知れます。

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 森元首相の『有名人は田んぼを走って貰えばいい』の発言から思い出したことがありました。

 もう20年ほど前のことになるのですが、その頃住んでいた家の近くに団地があり、その団地に住み、一階で花屋をやってる中丸(仮名)さんがいました。

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 中丸さんはいつも笑顔、小さなブーケも工夫して可愛く仕上げてくれる素敵な人で、お客さんが沢山ついていました。犬が大好きで、その頃私が買っていた先代のキャバリアを連れて、散歩の途中に寄ると、わんこのおやつをいつも用意してくれていて、すごく可愛がってくれていました。

中丸さん『可愛い、可愛い、頭が良くて、本当にキャバリアは可愛いね。』

『いつもそんなに褒めてくれてありがとうございます、もし中丸さんがわんこを飼われるとしたら、キャバリアにします?』

中丸さん『ポメ!』即答。

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 中丸さんは本気だったらしく、この会話の一週間後には、ブリーダーから、ポメラニアンの子犬を譲り受けることになりました。

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 中丸さんの花屋の常連さんもこの話を聞き、すごく盛り上がりました。みんな中丸さんが大好きで、中丸さんが楽しみにしている子犬を自分たちも飼うような気持ちになっていました。犬を飼った経験がある人は躾アドバイス、親戚に獣医がいる人は、無料で健康診断を取り付ける、名前を何にするか、ケージの大きさはどうするか、手作りおやつの作り方などなど。中丸さんの花屋はポメラニアンの話題で持ちきりになりました。

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 ポメラリアンの子犬は生後30日、中丸さんが待ちきれなくて、譲渡の日を前倒しにしてもらいました。なのでブリーダーさんから『念の為、あと一ヶ月は外に出さないでくださいね、外の菌にはまだ弱いので』との注意付き。用意していたケージに入れられて、めでたく中丸さんちの仔になりました。 

 子犬が来た!と言うニュースは団地中にすぐ広まり、常連さんの『見たい!見たい!見たーい!』のリクエストがすごかったです。中丸さんは仕事中、団地の自宅に子犬を置いて、1時間ごとに様子を見に行っていました。その間も 常連さんは『見たい!見たい!見たーい!』とメールを送っていました。

 あまりにリクエストが多くて、お客さんを大事にしてる中丸さんは配達用の車に子犬を乗せて、団地の広場に現れました。駐車場からわずか50メートル。車窓越しに見えたポメラニアンは本当に小さく可愛かったです。

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『車の中は家の延長だから』

 常連さんはすごく喜んで、ますます中丸さんの子犬に熱狂しました。中丸さんの子犬を見た!と言う話を聞いた他の常連さんも『私たちも見たい』と言い出して、お客さん思いの中丸さんは

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決して床には着けないように子犬を抱いて、慎重に花屋に降りて来ました。その話を聞いて、翌日私が見に行った時には、子犬は家から持ってきたマットの上に、さらに深いバスケットに入れられて花屋にいました。

 中丸さんの花屋に行けば可愛い子犬が見れる!と言う噂はどんどん広がり、近所に住む足の悪いばあちゃんが子犬を見たがっていると常連さんが言っって来ました。他人の気持ちを大事にして、できるだけ応えようとする中丸さんは 近所を子犬と散歩しました。

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子犬の脚にはビニールが被せてありました。

『脚が地面についてなければ外じゃないよね』

 中丸さんは心の底からそう思ったんだと思います、ですが私の心の中には違和感が残りました。

 ずっと忘れていたこの気持ちを最近の聖火リレーによって思い出したのです。

 有名人に走ってもらって、オリンピックを盛り上げたいけど、感染者が増えると困るから、田んぼを走って貰えば。

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 街なかで走ると、人が集まって来てしまうから、トラック内で30メートルずつ走る、とか、会場近くは密集してしまうから、走者を3メートルの幕で囲う、とか。

 いろんな方面に気を使いすぎて、工夫しまくって、だけど本当に気をつけなきゃいけないことがわからなくなっちゃったんじゃないかな、と。

 とはいえ、中丸さんちの子犬は その後も特に体調を崩すことなく、すくすく育っていきました。一度、町内のポスターに使われたくらいの可愛さだったと私が引っ越した後からも聞きました。

 なので、どうかそこはうまく連動して日本の感染状況が落ち着きますように。

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