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短い春に

デーリー東北新聞「ふみづくえ」
リレーエッセイ 2020年4月22日掲載

ジンジャー姉妹 湊山りえ

 都会の春は短い。ついこの間までコートの襟を立て肩をすくめていたと思ったら、あっという間に桜が咲いて散っている。気がつけば既に汗ばむ陽気で、「ああ、またあの灼熱の夏がやって来る」と東京の酷暑を思い、げんなりするのだ。

 高校卒業までを過ごした八戸から東京へ移り住んで、もうすぐ30年になる。それでも春を想い瞼に浮かぶのは、子供時代を過ごした八戸の風景ばかりだ。思い返せば八戸の春は、ゆっくりと流れて彩りに満ちていた。

 雪が残る山道で見つけたフキノトウ。これを天ぷらにして食べるのが毎年の楽しみだった。庭の梅が咲き八重桜がほころび始めると、いよいよ本格的な春の始まりだ。蕪島ではウミネコが飛来して、一面の菜の花に包まれる。群青色の海。山の緑と咲き乱れる花々。記憶に残る八戸の春は、いつだって色鮮やかだ。

 私が一番好きな春の花は、カタクリ。山に咲く赤紫に近いピンクの可憐な花。名前の通り以前は根茎から片栗粉が作られたが、現在では数も減り貴重な花だそうだ。今でも春になると思い出す、子どもの頃に親しんだ思い出の花。

 当時、両親は近くの山林に小さな土地を所有しており、春先にピクニックがてら家族でよく出掛けたものだ。「いつかここに、ログハウスでも作りたいね」。そんな両親のとりとめない会話を聞きながら、山を散策して花や草木を見るのは楽しいひとときだった。

 ある年の春、山の斜面が一面ピンクの花で埋め尽くされていた。カタクリの群生だ。

 「わぁ……」。あまりの美しさに圧倒されたことを、今でも覚えている。

 カタクリの花は開花までに種が根付いてから7年かかり、多年草だが花が咲くのは7回程度。つまり7年待って7年咲く、辛抱強くも儚い花だ。

 限られた命を謳歌する姿が、より一層胸に迫るのだろう。カタクリの花が咲き誇る光景は、家族の思い出とも相まって私の原風景となっている。

 気がつかないだけで、東京の少ない自然の中にも春の彩りはある。ピンクの梅、白と黄色が鮮やかな水仙、黄色いタンポポ、そして名も知らぬ小さな花たち。今年は例年にも増して春を楽しむ機会は限られているが、家の中でも春を愛でる気持ちを失わずにいたい。

 今年の春は、多くの人にとって忘れられない春になるだろう。

 再び、心から春を謳歌できる日が来ることを信じて、カタクリのようにたくましく、短い春を思いっきり楽しもう。

ふみづくえ0422


<デーリー東北新聞社提供> 
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ジンジャー姉妹
八戸市出身の実の姉妹(湊山りえ・湊山はる)によるクリエイティブユニット。動画投稿サイト「ユーチューブ」で、歌と解説を通して南部弁の魅力を紹介。はるによる「アナと雪の女王」主題歌の南部弁バージョン「雪だるまこへるべ」「生まれではじめで~リプライズ」では、累計1200万回再生を突破。東京都在住。

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