ポークビッツボーイ
東急ハンズの明かりが消えたころ。
アマゾンではまだだれにも発見されてない新種の昆虫が交尾をしていた。
東急ハンズの明かりが消えたころ。
ある中小企業の社長がセミナーに出向いて意識を高めていた。
東急ハンズの明かりが消えたころ。
ある産婦人科で子供を身ごもった少女がおろすかおろさないか悩んでいた。
東急ハンズの明かりが消えたころ。
ある男がビルの八階でたばこをふかしながら時間が過ぎるのを待っていた。
東急ハンズの明かりが消えたころ。
東急ハンズの明かりが消えたころ。
東急ハンズの明かりが消えたころ。
ちなみにある男というのは僕のことだ。ガールズバーでボーイをしている。
「ライン!」
開くと社長からだった。
「大丈夫だよ。今日はうまくいく。今日は絶対うまくいく。
仕事が楽しくないなら、仕事以外でいいから楽しいことをみつけてごらん。さいとうひとり」
毎日グループラインに名言集?なるものを送信してくる。
最近はさいとうひとりにはまっているようだ。
みんなみているのだろうか。僕は一応みている。にやにやしている。
根拠のない「今日は絶対うまくいく」
昔僕の母親もこの人にはまっていて、僕が中学生の時家に帰ると講演会のCDが常に流れていた。
「ついてる、ついてる。ほらいってごらんなさい?」
ついてるとは運がついてるということらしい。
なにか変なものがついてるのではない。
僕を含め兄弟も家にかえったら三回唱えるようにいわれた。
しかし飽き性の母は続くはずもなく、一か月で午後のついてるタイムはなくなってしまった。
代わりににたようなものにはまっている。
最近店の売り上げがあまりよくないので以前よりもこのようなラインが多くなった。一日に二回送信する日もある。
こういうのは完全なる自己満足だと思う。
思想をおしつけるのはよくない。しかもこの国は基本的に無宗教の人が多いし、こういうメンタリズムのことをいっているとあー終わったなと思われる。
以前働いていたバーのオーナーも毎日ちかくの神社にいっては
「今日は大丈夫!神様にお願いしてきたから!」
などとずっといっていた。店は三か月ももたず。今は工場で働いているらしい。
たしかにポジティブシンキング的なものは大事だとは思うが、今大事なのはそれではなく具体的ななにか。。。思いつかないけど。
そろそろネットサーフィンもあきたので女の子の様子を見に行くとしよう。
今日はめちゃめちゃ女の子が外に立っていた。どこも暇そうだ。
ガールズバーは基本的に外へ出て【お客様】を招くスタイル。
外にはいろんな店の子がいてもちろん容姿、年齢も様々。
スマートフォンを一生いじってるやつ。一生懸命声をかけてるやつ。
ぼーっと空を眺めているやつ。
地域にもよるらしいがここでは
キャッチできる立ち位置が店で決まっていてそこからは動けない。
僕も一応店長なのでそれなりに声をかける。お客さんが入るまでは
基本的に暇なので他店のキャッチを観察して時間をつぶす。
最近はまっているのは僕の立ち位置の前に立っている眼鏡の女。
【のりこ】というらしい。29歳でもう10年くらいそこに毎日たち続けている。
すごい。もう才能だよ。色んな意味で。
常に眼鏡をかけていて知り合いの客とかに【メガネ】といわれている。
だがたまに眼鏡をかけてないプレミアムデーがあり、僕はそれを楽しみに毎日働いている。
キャッチの仕方も独特で「眼鏡割引しまーす!」
などと眼鏡で押し通すスタイル。
そんなに眼鏡に重要があるのだろうか。
「お!眼鏡?じゃ!飲みに行っちゃおっかなー!」
なんて展開はドラマでもみたことがない。
もちろん実際にメガネでなびく男を僕はみたことがなかった。
【続く】