椿の話
寒くなった。
特別冷える夜が明けると、庭ではたいてい霜が降りている。
さいわいこのあたりは雪はまだだが、日本海側は大雪で大変らしい。
さて、この椿、白侘助(シロワビスケ)という種類だが、開花してもこの程度の開き具合である。
しとやかで控えめな雰囲気が日本人の美意識に合っているのだろう。千利休に好まれたそうで、茶花としても名高い。
この侘助、12月の初めに2輪だけ咲いた。
庭の木が大きくなるのを嫌う父が今年かなり短く枝を切り詰め、幹も低く切ってしまったからである。
とっくに家を出ている身なので、例年どのくらい咲いていたか知らないが、小さく不格好になってしまった木から息を呑むような美しい椿が咲いていたから、あまりの落差に驚いた。
父に聞くと、母が大切にしていた侘助だという。「侘助」という名前は聞いたことがあるが、こういう花だったのかと感慨もひとしお。
私があんまり綺麗だ綺麗だ言うものだから、父は切り詰めてしまったことに文句をつけられると思ったのか、話にはそれ以上乗ってこなかった。
しばらくして、また実家に来てみると、もう花は終わっていた。
しかしそこは椿、下を見るとそのままの形で落花している。しかも、2つの花が寄り添うような格好で、色は艶のある鼈甲か琥珀のように変化している。
これはこれで観賞価値があるのではないか。
そういえば、庭にはもうひとつ椿の仲間である茶の木があって、こちらのほうは父が剪定しなかったおかげで、10月下旬にこれでもかというほど咲いた。それは見事な咲きっぷりで、自分だけの眼福にしておくのは勿体ないほどだった。
茶の花の雄しべは茶筅のようで愛らしい。
小ぶりな花なので、落ちた様子も見苦しくならない。
椿は花びらが散るのではなく、そのままぽとりと首から落ちるから縁起が悪いと武士に嫌がられたとよく聞く。
しかし、こうやって花が地面に広がる様子や、アンティークのような落花した侘助を見ると、散った椿も美しいよと弁護したくなる。
美しさを保つには気象条件や日数もかかわってくるが、観察するのは興味深いものだ。椿の楽しみ方がひとつ増えた。