『暁に祈れ』このど年末にベストムービーごぼう抜きか?!
エモーショナルで詩的そして暴力的。なんて力強い映画だろう。肉と肉がぶつかり合う音、肌と肌が滑り合う音。肉体に宿る生命の胎動がずっと耳元で重低音を刻んでいるような、腹の底に響く映画だった。もう、くっそかっけーよ。くっそかっけー。
血と肉。タトゥーと黒く光る肌。獰猛と無垢。残虐と友愛。コンクリートに激しく打ち付けられるような絶望と、夜明け眩しくて目も開けられないような希望。言葉の無力。暴力の圧倒。尽きせぬ欲望と力強い諦観。衝動と自制。
矛盾し対立する、あらゆる対局が、拳と頬のようにぶつかり合ってないまぜになり、肌の上で玉のように光る汗として、散っていく。
まじくそかっこいい映画だった。そして完璧にエンタテインメントだった。「タイ刑務所地獄~見るのきっつ~」みたいなレビュー散見されたが、こんな極上の、力強いエンタテインメントを、「イロモノ」扱いする大衆どもめ。これが面白くなくて何が面白いよ、ええい。
見せ方は計算され尽くしている。
極小の説明、ほとんど字幕のつかない粗雑なタイ語の嵐、ぶれる映像。何が起きているのか、なぜなのかが観客にもわからないまま、暴力的に進行するプロット。その、「捨て置かれ感」がどMのわたしには溜まらなく心地いい。捨て置かれる観客は、否応なく、ビリーの心情に肉薄する。我々もビリーと同じ視点で、タイの地獄刑務所に捨て置かれざるを得ない。その圧倒的リアリティたるや。
そしてカタルシスの置きどころ!ラストによってはただのスポ根映画になりかねないが、なんとも人間的である。大人の諦観、運命を引き受ける弱さと強さが、地に足ついたラストだった。カンボジア国境のシーンは少しナイーヴか、と思いきや、実話だそうで。
ただかっこいい。ただただかっこいい。この映画をいいと思う男と寝たい。ああ。またその話。