「現金・預金と証券の経済的関係を考える」no.15
複雑なマクロ経済の多様な現象のモデル分析を展開するためには、分析目的に応じて単純化せざるをえないことは自明である。今日の経済情勢をみるにつけ、複雑なモデルにも、部分的であるが共通要素となる整合的な最小モデルが存在するはずであり、新しい現象の推移の予測ではなく、クリアカットな分析の理論的要諦を提示するためには、その必要性が増大しているように見える。この論考では、その最小モデルが現状のテキストブックIS/LM・モデルではなく、本質的な要素で修正が必要であることを明確にして、そのことを認識している標準的モデルに代わる代替的マクロ経済モデルを提示する。 修正を余儀なくされている論点は、IS/LM・モデルにおける貨幣と信用の取り扱いにある。金融仲介が取り扱えなければ、現代金融資本主義経済の意味ある分析を試みることはできない。
IS/LM・モデルには、貨幣は現金のみで、民間銀行部門は含まれず、したがって金融仲介もなく民間銀行信用の需給は取り扱われていないという見方が存在する。周知のように、この解釈の淵源には、次のようなケインズの理論提示戦略が反映していると考えられる。ケインズの『貨幣論』が、決済通貨としての銀行預金の当時の普及を反映して貨幣として銀行預金を取り上げたが、『一般理論』では、大不況下における絶対的流動性選好を強調し、貨幣として現金が仮定されたことである。
しかしながら、現代経済のノベーションは貨幣流通にも革新的影響を長期にわたって及ぼし、キャッシュレス経済の幅広い浸透と深化の持続を認識したケインジアンは、貨幣を銀行預金にのみ限定するという仮定を採用している。これは、貨幣(銀行預金)創造の定式化を接合し、潜在的に存在すると考えられる標準的モデルに持ち込まれた。この持ち込まれたマクロ経済モデルが、1988年のバーナンキ=ブラインダー・モデルである。それ以降、この問題に関する限りさしたる基本的な理論的アイデアの展開はないと考えている。筆者の代替モデルは、現金と決済用銀行預金の両方を貨幣と仮定する標準的なモデルの仮定を踏襲し、信用と貨幣の創造を統一的整合的に取り扱っているている。そのためには、部分的信用創造モデルで仮定される本源的預金の内生化が必須である。
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